航空母艦ノート

航空母艦ノート

このページでは,空母について考えたことを適宜記入して行きます。ある程度まとまった内容のものは,後日独立したページに移動するかも知れません。


2.空母「信濃」の搭載機数 (最終更新98.12.31)

 空母信濃の搭載機数について検討してみたい。信濃は基準排水量6万2000tと第2次大戦中の空母として群を抜いて巨大だが,その「公称」搭載機数は47機と非常に少ない。しかし実際の搭載能力は当時のあらゆる米空母を凌駕していたはず,とは「1.米空母の搭載機数」の通りである。公称搭載数が実際の値と大きく異なっている例として 空母「大鳳」 (公称:53機→実際:75機程度)が挙げられるが,信濃についても同様のことが言えそうである。

●格納庫床面積

格納庫

全 長 平均幅

床面積

1番

12.5

14

180

2番

50

33

1,650

3番

45

29

1,300

4番

29

26

750

5番

39

25

980

合計

4,8602

 空母の搭載機数はまず第一に格納庫床面積に左右される。信濃の格納庫面積は他の空母と比べてどうだったか。信濃の格納庫は5つに分かれており,最前部の1番と後方の4・5番が閉鎖式,中央の2・3番が解放式である。それぞれの床面積を平面図 2-1) から概算すると右表のようになる。すなわち約4860m 2 である(エレベータ含まず。また諸室による減少分は平均幅を小さくすることで算入)。これは翔鶴の床面積5545m 2 の約88%である(なお翔鶴の床面積がエレベータを除いたものかは不明だが,感じから言って除いてあるだろう)。また1段格納庫で全幅のかなり狭い米エセックス級より広いことは間違いない。
 また床面積が同じなら,細い格納庫2つより幅の広い格納庫1つの方が収容効率は高く,搭載数は多くなるはずである。しかし3・4番格納庫は形状がかなり複雑で,端の方へは飛行機を置きにくい。これらから考えて,信濃の搭載数は同機体を搭載するなら翔鶴を若干下回り,零式艦戦・99艦爆・97艦攻の組合わせでは補用機込みで 75機 程度と推測できる。

●公称値の検証

戦闘機(烈風) 18+2
攻撃機(流星) 18+2
偵察機  6+1
合 計 42+5
 信濃の搭載機数の内訳は右表の通りである。搭載機種は大鳳の公称値同様大型の機体であり,これが公称搭載機数の少ない最大の理由である。積載法は,戦闘機を防御された4・5番格納庫に,その他を1~3番格納庫に格納予定であった。戦闘機18+2機を約1700m 2 の区画に収容できるのに,3000m 2 以上ある残りへの格納数が24+3機というのは少し少ない。したがってこの定数は格納庫の大きさ一杯まで搭載したものでなく,かなり余裕を見たものと推測される。
 余裕を持たせた理由は,信濃は後方部隊からの艦載機の「中継基地」であり,計画当初は固有の艦載機を持たない予定だったためだろう。攻撃機は他の空母からの飛来機を,必要に応じて追加収容するだけの余地を残しておいたと考えられる。搭載機種が計画時のままでも,実際の搭載可能数はさらに5~10機多い55機程度だったのではないだろうか。

●最大搭載数の推測

 信濃に極力多数の航空機を搭載した場合,何機程度まで可能だろうか。上記のように日本海軍の標準的な構成なら80機程度を格納庫に収容可能と考えられる。日本空母が露天繋止を行えないのは,カタパルトを持たないので発艦距離を長く取る必要があったためである。しかし信濃は飛行甲板幅が40mとかなり広く,うまく配置すれば露天繋止を行える可能性がある。このためあと10~15機は余計に積載可能なはずで,90~95機は現実的に可能だろう。
 さらに,もし米海軍のようにカタパルトを持ち,また艦載機の主翼折り畳みも同程度だったらどうだろうか。カタパルト装備により露天繋止で30機とすると110機程度,また艦載機が米国のものだとするとさらに増えて130機程度を搭載可能だったのではないだろうか。これは確かにエセックス級の91機をはるかに上回り,ミッドウェーの145機に次ぐものといえる。

参考資料
2-1)  日本造船学会編:日本海軍艦艇図面集,原書房,図23-1,1998,¥25,000

(98.12.30初掲載)
(98.12.31微修正。推定搭載機数80機→75機へ修正)


1.米空母の搭載機数 (最終更新98.12.17)

米空母は1段の格納庫しか持たないのに,何故2段式の日本海軍や英海軍の空母より搭載機数が多いのか,多くの人が不思議に思っているだろう。代表的な空母で比較すると,日本の翔鶴が84機,英国のインプラカブルが72機,対して米エセックスは91機である。もちろん,国により艦載機の大きさが違い,しかも時代に連れ艦載機が変わって搭載数も変化するのでそのまま比較することはできない。それにしても,最も格納庫の狭いはずの米空母が最も搭載数が多いのは不思議である。

●搭載数を左右する要素

 これについて,容易に想像の付く理由は,以下のようなものだろう。

1) 艦載機の専有面積
 米国の艦載機は翼の折り畳み機構が徹底しており,搭載時の専有面積が小さい。日本の零戦の主翼折り畳みはエレベータを通過させるための先端0.5mほどだけに対し,F4FやF6Fはほとんど根元から折り畳む機構になっている。ただし97艦攻は主翼を半分に折り畳む機構になっており,この要因だけで極端に搭載数が異なるとは思えない。

2) 露天繋止
 次に,日英の空母は艦載機は格納庫収容を原則とし,対して米空母では定数のかなりを飛行甲板上に露天繋止した。ならば日本も露天繋止すれば良さそうなものを,何故米国だけがこれを実施したのかという疑問が残る。

 以上だけでは根拠が不十分なように感じられる。これについて米国の研究家に質問したところ,興味深い返事を得た。その要点は以下のようなものだった。

3) 格納庫の幅
 縦断面図だけを見ていると気付きにくいが,日英と米国では格納庫の幅が違う。日本空母は閉鎖式格納庫を採用しており,格納庫の幅は艦幅の60%程度でしかない。対して米空母は開放式格納庫を採用し,ほぼ艦幅一杯の広さの格納庫を持つ。この結果,格納庫の床面積にはそれ程大きな差がない。

4) カタパルトの存在
 米空母が露天繋止を常用できた理由のひとつは,カタパルトの存在だった。米空母は艦首の短い範囲だけを発艦に用い,後部には機体をそのまま繋止しておける。着艦の際は途中にクラッシュバリアーを展張するので,前方に艦載機を退避させればよい。
 一方日本空母はカタパルトを持たないため,発艦では長い滑走距離を確保する必要があり,飛行甲板上に多数を搭載すると運用に差し障る。露天繋止を行うかどうかは,単に意志決定するかどうかだけでなく,実用上の理由があったことになる。なお,同じくカタパルトを持つ英空母が露天繋止を行わないのは,大西洋の悪天候下での運用を考慮しているためではないだろうか。

5) サイドエレベータ
 飛行甲板に設置されたエレベータは,当然格納庫面積を減少させる。エセックス級は中央エレベータが舷側にあるため,この欠点がない。
 しかしこの点は,日本や英国の後期型の空母も中央エレベータを廃止したため,搭載数への影響は同等と考えられる。もちろん,航空機の運用の点では中央エレベータの存在は非常に便利である。

6) 格納庫天井からの吊り下げ
 この収用法は,豊田穣著「空母信濃の生涯」に記載されていた。翼を畳んだ戦闘機を格納庫の天井から魚のようにぶら下げておくというもので,著者が米軍捕虜として空母エンタープライズを見学したときに目撃したという。エンタープライズの格納庫の後部1/3はギャラリーデッキが無く天井が高くなっている。そのため,この部分なら上のような方法で飛行機を収容可能と思われる。一方でそのような方法では飛行機を降ろして使用状態にするのに手間が掛かると推測される。そこで,通常は露天繋止しておく機数を,悪天候など全機収容する必要のあるときのみ天井から吊り下げておいたのではないか,と推測してみた。
 この点を質問したところ,そうした搭載法について余り情報を持っていないが,空母ワスプが魚雷攻撃を受けたとき吊り下げられた飛行機が落下して消火作業の妨げになったという記述がある,との事だった。また露天繋止された機体は,かなりの悪天候下でも飛行甲板上に留め置かれたという。
 恐らく余り一般的な搭載法ではなかったのだろう。豊田穣の見学も入港して修理中の時のものだと記憶するので,作戦中にはそうした方法は取らなかったのではないかと推測される。

●エセックス級の格納庫搭載数

 私が興味を持ったのは,米空母は露天繋止を行わない場合,どれだけの艦載機を格納庫へ収容できるかという点だった。この状態ならば,占有面積の違いはあるとしても,搭載能力をかなり公平に比較できる。

 彼の返答によると,エセックス級の定数91機の内,

格納庫収納:55~60機
露天繋止&分解収納:31~36機

という事だった。分解収納による機数が判然としないが,それも艦内に収容されたであろうから,露天繋止を除いた搭載数は60~70機程度と考えられる。これは,推測される床面積からの期待値より若干多い数字といえ,それがすなわち艦載機の専有面積の違いの結果といえるだろう。結論として,米空母といえども巧妙極まりない積載法を用いて搭載機数を多くしていた訳ではなく,その数字はあくまで幾何学に従っているということになる。

逆に言えば,日英の空母は搭載機数という点で米空母より設計が不適切だったという訳ではない。閉鎖式格納庫により天候から保護し,特に後期艦では格納庫全体に防御を施している点を考えれば,日英空母の搭載数は十分に納得のいく値ということができる。

●第2次大戦で最大搭載数の空母は?

 答えは日本の信濃だそうである。その理由は信濃は艦幅が広く,そして格納庫の幅も米空母と同様ほぼ全幅に達しているためである。付け加えればエレベータも2基である。従って信濃が定数一杯まで艦載機を積めば,その数は当時のあらゆる米空母を凌駕したであろうと言う。ただし,これは米国の艦載機を米国の方式で搭載すればということであるが,潜在能力という点では公式の搭載数の少ない信濃が実は最大だったというのは非常に興味深い。もちろん,全長全幅共に信濃を上回るミッドウェー(竣工は戦後の1945.9.10)には及ばないと考えられるが。

(98.12.17初掲載)


艦船のページへ