防 御

 

弾薬庫

機関部

舷 側

165mm
対20cm砲弾
(12,000〜20,000m)


対15cm砲弾

甲 板

75mm(+飛行甲板)
対800kg徹甲爆弾
水平爆撃


対800kg徹甲爆弾
水平爆撃

飛行甲板

75mm CNC + 20mm DS
対500kg爆弾
急降下爆撃

エレベータ

25 + 25mm CNC

水 中

22 + 22mm DS
対300kg炸薬

●格納庫装甲

 本艦の最大の特徴は飛行甲板へ直接防御を施したことである。飛行甲板への爆弾の直撃は航空機運用能力を喪失させ,空母の戦闘能力を失わせる。実際翔鶴は戦闘においてこの欠点を露呈した。本艦では船体中央部の航空機エレベーターを廃止し,前後の2エレベータ間の発着艦に必要な最小限の幅に75mm CNC甲鈑を設置した。これによる重心上昇を防ぐため,甲板数を翔鶴より一段減らし飛行甲板を低くした。

 「装甲格納庫」空母。大鳳を一言で表現するとこうなる。よく「装甲飛行甲板」空母と言われるが,飛行甲板の吹き上げを防止するには,飛行甲板下での爆発を防止するより無く,爆弾が格納庫内に入らないようにする必要がある。それには甲板だけでなく格納庫側壁を防御する必要がある。そのため大鳳の格納庫は,上面のみならず側面も装甲で覆われた「装甲格納庫」となっている。この状況は艦内配置図から一目瞭然である。しかし船体上方の格納庫に重防御を施すことは重心の関係からも困難であり,格納庫側壁は25mmDSである。そのかわりその外部に細長い部屋を配置し,船体外壁と格納庫側壁の二重構造で防御する。結果として格納庫は,75mmCNC+20mmDSの天井,25mmDSの側壁で囲まれた「装甲の箱」を構成する。

 この箱形構造はかなりの船体強度も受け持つと推測される。大鳳以外の日本空母は縦強度を船体のみで受け持つため,飛行甲板および上部格納庫の側壁はエキスパンション・ジョイントと呼ばれる伸縮可能な継ぎ手で分割されている。大鳳は装甲を設置した関係上ジョイント設置は困難で,むしろ装甲を積極的に強度に利用している。構造的にはむしろ自然であり,より高い甲板で荷重を受け止めた方が曲げ強度が高まるため好都合である。この方式は英空母のアークロイヤル以降で用いられており,現在の米空母も同様である。そもそもエキスパンションジョイント方式は,先に船体があって後から飛行甲板を取り付けた設計からきたものであり,設計の当初から飛行甲板を設置しているならこれを強度部材に使わないことはむしろ不合理である。なお,飛行甲板装甲のうち上部の75mmCNCはおそらく防御専門で,船体強度は下部の20mmDSが受け持っていると推測されるが,確証はない。

 縦強度を受け持つ必要上,格納庫側壁は凹凸のない直線として縦通しており,これは建造簡易化とともに庫内での航空機運用にも貢献すると考えられる。ただし格納庫の幅自体は翔鶴より狭く,しかも下部格納庫の中央は煙路のアップテークにより右舷半分が盛り上がっており,全体では翔鶴よりかなり航空機運用性が低下していると思われる。この点は防御力を強化した代償といえる。

●水雷防御

 水雷防御には翔鶴と異なり湾曲防御鋼鉄を採用し,板厚も翔鶴の30mmから44mmへと増加している。

 目立たないが,舷側および喫水線下の防御も翔鶴に比して改良された点である。翔鶴の防御は取りあえず防御板を設置し一定の防御力を持たせた,という段階の物であるが,大鳳ではより効果的な防御を行っている。主要な改良は以下の2点である。
1.防御板の設置方法の改善
2.液体の防御への利用

 防御板設置方法
 これは妙高級重巡のそれを拡大改良したと言える物で,日本空母の基本設計が巡洋艦を拡大した物であることの一例とも言える。横断面に示したように,水線部装甲の下端から船体内側へ防御板が湾曲して入り込む構造である。この結果船体外版がバルジとして機能する。「船体外板を直接防御板とすれば浸水量が少なくて済むのでは?」と考える人がいるかも知れないが,それは誤りである(詳しくは「プリエーゼ式水柱防御」を参照)。
 大鳳の防御板設置方式の優れている点は「被雷時の喫水線面積減少の極限→傾斜量の抑制」「砲撃による水線下浸水の抑制」である。翔鶴のように防御壁が完全に船体外板の背後にあると,被雷時に水線部の外板も広範囲に破壊されてしまう。この結果,水線部における船体の平面形が細くなり,復元力が低下して傾斜が大きくなってしまう。船の復元力は水面における船体の平面形が大きいほど強い。これは傾斜した際に水面下に沈み込む体積が大きくなり,結果傾斜側の浮力増加量が大きいためである(詳しくは「船幅と復元力」の項参照)。
 また水線部装甲が喫水線下部まで達しているため,小口径砲の砲撃を受けた際の浸水量が小さく傾斜を抑えられる。

 液体防御
 大鳳では燃料を水雷防御に利用している。バルジ内が内外二分割され,内側を重油タンクとすることで防御力を増加させている。具体的には破壊力が

外板→(空間)→隔壁→(液体層)→防御隔壁

という過程を経て伝わる。しかしこの方法は直感的に「液体がかえって爆圧を伝えて意味がないのでは?」と考える人もいるだろう。これは恐らく実験によって効果が認められたものの,設計者自身も原理を正確には納得していなかった形跡が認められる。

 以下は筆者の仮説であるが,液層防御の理解のポイントは「衝撃波」「球面波」「音速」「屈折」であると思われる。まず液体中では音速が気体中より速い。そのため気体→液体間へ音波が伝わる際は屈折が生じ,法線に対し傾斜して入った波はより傾斜が大きくなる。大鳳の外板に魚雷が命中・爆発した場合,破壊力は弾頭を中心とした球面状の衝撃波として伝わる。中心から離れるほど球の面積が大きくなるため,面積当たりの破壊エネルギーは小さくなる(だからバルジを設けて防御板から爆発点を離すと防御板が薄くて済む)。このときバルジ外側の気体層から内側の液体層へ球面波が通過するとき,液体の方が音速が高いため,衝撃波の進行方向はより外側へ拡がる。そのため同じ破壊エネルギーが,液体層背後の防御板のより広い面積に伝わるため防御力が高まると考えられる。

 液体層の厚さが薄いとあまり意味が無く,0.9m以上の厚さになると防御力が高まるという記述も,厚いほど拡散量が大きくなるためと考えれば納得がいく。また当然のこととして,外板内側からいきなり液体層になっている場合は逆効果となり,気体よりはるかに波を伝えやすい液体が艦の内部まで効果的に破壊力を伝えてしまう(例:プリエーゼ式水雷防御)。

 なお,液体の水雷防御への応用でもっとも進んでいたのは米海軍であり,ノースカロライナ以前の戦艦や米空母では水雷防御として船体外板から

外板→(空間)→隔壁→(液体層)→隔壁→(空間)→隔壁

という構成にしている。奥行きに余裕がある場合は途中の液体層を厚くし,その中に隔壁をさらに設ける。この空間と液体層のサンドイッチ配置は非常に有効で,破壊エネルギーを効率的に吸収する。

 水雷防御の成否はすなわち爆発に伴う破壊エネルギーを空間的・時間的にいかにうまく分散して防御板に分配できるかにかかっている。同じエネルギーでも,防御板にかかる面積が広ければ受け止めやすく,同様に一瞬ではなく時間的に長引けばやはり受け止めやすくなる。大鳳の液層防御はこのうち空間的な面積の拡大のみを行っているが,米海軍の方式は時間的な拡散も行ってさらに効果を高めている。つまり液層の背後にさらに空間を置くことにより,破壊エネルギーのかなりが液層の内方への運動エネルギーに変換される。衝撃波面上に集中したエネルギーが,液体全体の運動エネルギー(内側への移動)という形になるため内側の防御隔壁がゆっくりと変形しつつそのエネルギーを吸収可能となる。また「液体層→隔壁→空間」へと衝撃波が通過する際にかなりの散逸が起こって,進行方法でのエネルギーの分散が生じると考えられる。

●その他
 確証はないが,中央部横断面図から判断すると吸排気系路には大和級戦艦と同様の蜂の巣甲鈑が採用されたようである。

●防御上の欠点

 ガソリンタンク
 大鳳の防御上最大の欠点は,艦喪失の原因ともなったガソリンタンク防御である。横断面を見ても分かるとおり,水線下に関してははほとんど無防御に近い。英空母ではタンクを主用防御区画内に設置し,この防御に完璧を期しており,米空母もタンク内注水によるガソリンのガス化防止策などをとっているのに対し,大鳳に限らず日本空母全般でガソリンの危険性に関する対策は不十分だった。

 大鳳に関しては別の理由によりこの危険性がさらに顕著だった。それは甲板数減少と中央エレベータの廃止のためである。甲板が翔鶴より1段少ない結果,ガソリンタンクから格納庫までの甲板数が減少し,特に前部ガソリンタンクに至ってはタンク直上がそのまま前部エレベータ機械室となっている。この部屋は構造上格納庫に開け放たれており(エレベータが下降したときにこの部屋の天井=下部格納庫の床面レベルとなる),結果としてガソリンタンクと格納庫を遮るのは甲板1枚だけである。翔鶴であればこの間にさらに1層の甲板があるため,例えタンクから漏洩が生じても大鳳のように格納庫へだだ漏りするとは考えにくい。また次項で述べるように中央エレベータが廃止されたため漏れたガスが換気されにくい。いずれも飛行甲板を装甲化したことからくる皮肉な弱点といえる。

 後知恵ではあるが,技術的にはガソリンタンクの前後長を延ばして高さを低くし,格納庫との間にもう1層甲板を設けてあれば,例えタンクの防御法が同じでもあのような事故は避け得たと考えられる。また翔鶴に比べ2倍に達する大鳳のガソリン搭載量を,翔鶴並に抑えてあればタンクを小型として格納庫との間隔を開けられた可能性もある。

 通風性の不足

 格納庫を装甲化した副作用として,格納庫の密閉性が高くなり非常時の通風能力が不足していた。不足した理由は

  1. 中央エレベータを廃止したため,大型の換気口が前後エレベータ2箇所のみとなった。
  2. 格納庫側壁も軽防御されたため,ここに大型の通風口を設置できない。

等による。この結果格納庫内で事故が生じた際のダメージ・コントロール能力(排気・通風)が低下した。そしてこれが本艦の致命傷となったことは周知の事実である。


参考資料
1)  世界の艦船増刊第40集(481) 日本航空母艦史,海人社,p.60,1994,¥1,748
2) 長谷川 藤一:軍艦メカニズム図鑑 日本の航空母艦,初版,グランプリ出版,p.44,1997,¥2,800

更新履歴

初掲載  不明
Ver.3 2000.01.23 「格納庫装甲」「防御板設置方法」「液体防御」「その他」「防御上の欠点」追加 (暫定版)