巡洋艦ノート

巡洋艦ノート

このページでは,巡洋艦について考えたことを適宜記入して行きます。ある程度まとまった内容のものは,後日独立したページに移動するかも知れません。


■巡洋艦は戦艦とどう違うか  (98.12.05)

 戦艦と巡洋艦の定義は難しい問題で,異論のない答えを出すことは不可能でしょう。しかし,私が個人的に感じている「戦艦」と「巡洋艦」の定義を,空母も含めて書いてみたいと思います。

 双方とも武装した船であることは同じだが,私自身は

●戦 艦:航行能力を備えた「砲台」
●巡洋艦:戦闘能力を備えた「船舶」

という印象を持っている。「砲」が主体か「船」が主体かという観点である。

 戦艦は船である以前にまず「砲台」もしくは「要塞」で,海上に存在するどんな敵とも互角以上に戦える攻撃力と防御力が必要となる。船体が巨大でも,戦闘力が低ければ敵にとって絶好の獲物でしかない。従って,その排水量の1/3を武装に,1/3を装甲鈑に充てている。

 そして防御力の確保と砲台としての安定性を得るため,速力を犠牲にして船幅を広くとっている。また重い砲塔の重心降下と射界確保のため,凌波性を犠牲にして乾舷を低くしたりもする。戦闘能力の発揮が,全てに優先している。

 一方,巡洋艦はまず基本的に「船」である。船体は細長く高速発揮に有利で,その形状は船舶としての主要性能を満たすことを第一の目的として設計されている。大きすぎる戦艦と違って繰船も容易で,凌波性や航洋性に優れ,大洋を長駆航海する能力にも優れている(日本の巡洋艦は戦闘力を重視しているので分かりにくいが,イギリスあたりの巡洋艦を見ると乾舷も大きく居住スペースも広そうで分かりやすい)。

 そして船であることの基本を崩さずに搭載できる砲となると,20cmあたりが上限になるのだろう。30cm砲ともなると,爆風・反動・重量・揚弾薬機構などから船体の設計自体を特殊なものにする必要が生じる。

 艦船研究で有名な故福井静夫氏がその著作「日本巡洋艦物語」の中で

『巡洋艦の最大特徴をあげれば航洋性となる』

と書いている1)。一見大型の戦艦の方が航海に適しているように思えるが,実はそうでもない。巡洋艦(Cruiser)の「巡洋」(Cruise)という名称は伊達ではないわけである。

 私が技術的に「船」と「砲台」の違いを感じるのは,船体の横断面である。例えばビスマルクと最上・利根などの横断面を比べると分かるが,戦艦の船底外板は水平で横断面が長方形に近い。

 一方巡洋艦の船底はV字状に上がっていて,水中の横断面が半円に近い。こうすると表面積が減ると共に,角張った部分が減って抵抗が減少する。また重量節約の点でも有利である。その反面建造や整備(入渠)が面倒になるが,それを犠牲にして船としての性能を追求している。もちろん,排水量が余り大きくなると必然的に船底は水平にせざるを得なくなるが,それは性能以外の事情でやむを得ずそうしているわけである。

 もう一つ,戦艦と巡洋艦の違いが顕著に表れるのが船体の上面図で,シルエットにして長さを同じにしても,太い紡錘形かスマートな紡錘形かで,戦艦か巡洋艦かは一目瞭然である。

 このように「船」であることの基本を崩さずに,なるべく有力な戦闘力を与えたものが(重)巡洋艦である,という印象を私は持っている。そして話は空母にも発展する。

 空母の船体横断面は「戦艦型」「巡洋艦型」のどちらだろうか?

 日本海軍に関する限り,戦艦から改造されたものを除いて巡洋艦型である。先の「日本巡洋艦物語」の続きでこんな記述がある。

『航空母艦がいかなる意味でも航洋性が断然優れているではないか,という疑念に対しては,私はつぎのように答えたい。「だから空母もまた巡洋艦の一変形なのだ」と』1)

 空母が巡洋艦の一種である,というよりは空母もまた第一に「船」である,ということだと思われる。しかしこの点は,日本と外国の空母では少し異なる気がする。私の印象では

●日本空母:飛行甲板と格納庫を持つ「船舶」
●米空母 :船体と機関を持つ「航空基地」

となる。イギリスは両者の中間あたりだろうか。

 よく空母は「浮かぶ航空基地」と言われ,今日の米海軍のスーパーキャリアなどはまさしくそのものである。しかし旧日本海軍の空母は航空機の運用能力を持たせた「航空機搭載(巡洋)艦」の発達の極致,とでも言える独特の存在という気がする。

 合理性という点からは後者が望ましいに違いない。しかしこの違いが日本の空母に,単なる艦載機の発着場として以上の「船」としての存在感を与えている。艦船に限らないが,米国の軍艦は軍事的勝利を得るためにもっとも合理的に設計された戦闘「媒体」,日本の艦船は1艦1艦最高のモノを作り上げようとした手作りの「芸術品」という印象がある。

1) 福井静夫:日本巡洋艦物語(初版3刷),光人社,p.37,1994



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