架空)新世代蒸気機関車および旅客列車 構想

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はじめに

蒸気機関車は低い熱効率、低い出力、保守・運用にかかる労力、煤煙の発生など様々な問題から現役での利用はほぼなくなった。一方、アンドレ・シャプロンやリビオ・ダンテ・ポルタなどのエンジニアによる開発に見るように、未だ性能改善の余地を残したまま、潜在能力を全て発揮する前に淘汰された。

ここで考察するのは、
 ・現在の日本国内において
 ・現代の工業力を用いて
 ・存在価値を持つ(経済利益ほかの付加価値を生む)
ような蒸気機関車を構想した場合、どのようなものが考えられるかである。
またそれに牽引される、今日のニーズに対応した列車がどのようなものかも検討する。

1.蒸気機関車

1.1. 基本コンセプト —熱効率30%以上、総合効率50%以上の高効率蒸気機関車—

現代の蒸機として最も重要なのは燃料経済性および低二酸化炭素排出であり,最低でもディーゼル機と同等の熱効率 30%以上を達成できなければ開発する意義はない。従来の蒸機は熱効率 8〜10%,最高でも12%(フランス242-A1型)であるため,旧来の蒸機に比べ3〜4倍の熱効率達成が必要である。ポルタらが新世代蒸機として計画したACEでも目標効率は18%程度であり抜本的な改良が必要となる。

高効率実現には高温・高圧の蒸気条件が必須であり,それには高圧に耐える水管式ボイラ採用が必須である。水管式ボイラ使用にはスケール(水垢)析出を生じないよう、復水器を用いて高純度水を循環させる水・蒸気サイクルが必須である。加えてボイラ運転ほか多くの電装機器が稼働するため蒸気に依存しない発電機が必要であり,ガスタービン発電機により給電し,高温のタービン排気を排熱ボイラで利用するガスタービン-ランキン・コンバインドサイクルとする。ガスタービンの電力は補機のほか客車への給電に用いる。

蒸気条件は高圧の過熱蒸気とするが,蒸気タービン船では450℃40気圧が一般的だが、駆動系の耐久性・メンテナンスも考慮して過度に高圧としない一方効率向上のため温度は高く、525℃ 36気圧とする。高圧蒸気から効率よく動力を得るため多段膨張は必須であり,3シリンダ3段膨張式とし,動輪前方に順に高・中・低圧シリンダを装備し,シリンダ間の距離を最短化して放熱損失を防ぐ。

1. 水管式ボイラは特に上下方向のスペースが必要
2. 水管がレシプロ機関の振動に弱い
3. 小さい軸重で大きな引張力を得るには動輪の多軸化が必要
4. 復水器には大きな配置スペースが必要

などから機関車はガーラット式の配置とし,前後テンダーに復水器を設置する。車軸配置は2-D-2-2-D-2であり,主動輪は各4軸,中央台車を2軸2台,先輪を前後各2軸とする。

ワンマンオペレーション,メンテナンスコストの低減は必須である。ボイラ・発電機・走り装置は自動制御により運転士1名での運用を可能とする。旧来の蒸機では特にクランク部分に頻繁に給油が必要であったため,クランクのベアリング部には内燃機関のようなオイルポンプを利用した循環式の潤滑システムを装備して定期整備以外では給油を不要とし,かつ走行中のオイルの環境放出を防ぐ。この潤滑系の格納と,風切り騒音の低減も兼ねて主連棒・連結棒はフェアリングで覆う。

環境性能としてボイラからの排出ガスの低NOx,低CO,低PMを実現するほか,復水器冷却ファンおよび車体の風切り音の低騒音化,走り装置周辺からの騒音の吸音,軸重軽減・ばね下重量軽減による沿線への振動低減を行う。

また貨物列車用の機関車ではないものの,災害時にローカル線を経由して被災地へ多量の支援物資を運搬する用途も想定するため,低速における引張力,急傾斜区間における発車を可能とする粘着力なども必要である。

目標とする性能は,出力に関しては長大編成の客車・車運車を最高160km/h以上で電車のダイヤを乱さすに運行するため動輪周出力6,000kW=約8,000PSとする。もちろん狭軌蒸気機関車中最高出力となる。ただし国内の許容軸重は16トンと小さく粘着力には制約が大きいため、この出力は低速域での引張り力ではなく高速域における加速性能として発揮する。熱効率はディーゼル機に匹敵する30〜35%が燃料経済性の面から必須となる。東京〜札幌,東京〜博多間を無給油で運行可能なよう1500km程度の航続距離とする。ローカル線でも乗入れ可能とするほか軌道へのダメージ最小化,周辺住宅への振動・騒音を防ぐため軸重は小さめとする。先従輪の軸重配分を変更することで、動輪軸重は14〜16tの可変式とする。

蒸気条件の高温高圧化を行なっても、機関出力としての熱効率をディーゼル以上にすることは困難である。そこで動力単体ではなく、列車(客車)全体への電力・熱供給を含めて総合熱効率を高める。連結する列車への電力は機関車のガスタービン発電機で全量を供給し、また列車内での給湯・空調用の熱源を温水で供給、温水の加熱にはシリンダからの排蒸気を利用する。電力供給・熱供給を含めた「列車全体」でのエネルギー効率を年間平均50%まで高め総合効率でディーゼル機はもちろん電機も上回ることを目標とする。

燃料は動力源がボイラ(およびガスタービン)であることから、排気の清浄度を維持しつつ軽油より20〜25%安価なA重油を使用可能で、燃料価格高騰下ではかなりの経済的メリットとなる。さらに重油は軽油に比べ引火点が高く安全面でもメリットがあり、青函トンネルなどの通過認定でより有利と考えられる。火災への安全性を最大化するため、燃料タンクは全てガーラット式の前後テンダー車に設置し、ボイラーやガスタービンなどの燃焼部は全て中央のボイラー車に集約して燃料タンクと燃焼部を分離、引火リスクを最小化する。

1.2 用 途

●客車列車用

個室寝台を基本とした客車とそれに併設する車運車(ビークルトレイン)。客車にはシャワー室の他専用の入浴・娯楽車を設置。車運車は密閉式で全高2m以下の乗用車を積載、EVへの充電機能を持つほか、給水タンク・雑排水タンクを備え客車への給水・排水を行うほか、床面下にコンテナ収納区画を設け、航空用コンテナとして高速貨物を運搬し収益性を高める。

●豪華クルーズトレイン

●貨物列車用

客車列車用を元に共通部分を極力多く取りながら大重量高速貨物列車の牽引を効率的に行えるよう仕様を変更。

・牽引力増加
・出力増加
・低速化
・蒸気供給機能廃止

を行う。

出力を増加させるため、ガスタービン発電を客車給電ではなくモーター付台車の駆動用に振向け、蒸気・電気併用の動力とする。蒸気6000kW+電気1000kWの計7000kWとする。

1.3. 性能上の目標・要目(検討中)

機関車名称: SH6000(蒸気機関、動輪8軸、6000kW)
基本形式:ガーラット式 4-8-4=4-8-4(2-D-2=2-D-2)

駆動形式:3シリンダ3段膨張複式×走り装置2組(全6シリンダ)
     従輪用補助電動機:100kW 2基 (構内移動用)
蒸気条件:525℃ 36気圧
動力方式:ガスタービン・ランキン・コンバインドサイクル
     ガスタービン発電機+排熱利用ボイラ ×2セット
     水管式ボイラ×4
     復水器×12
ピストン位相:0-135-270度

熱効率:35%以上
熱勘定:
 シリンダ出力:35% (7,000 kW)
 動輪周出力 :30% (6,000 kW)
 電 力   :6% (1,200 kW)
 熱出力   :15% (3,000 kW)
 総合効率  :51% (10,200 kW)

熱交換器:客車熱供給用(シリンダ排気蒸気→客車温水供給)
     ボイラ吸気1次加熱用(シリンダ排気蒸気→ボイラ吸気)
     ボイラ吸気2次加熱用(ボイラ排気→ボイラ吸気)
     復水用(シリンダ排気蒸気→外気)

給水方式:空冷復水器
運転席:車両両端(入替運転可能)
主動輪軸重/全重:14.8〜16.8 t/112 t
先従輪軸重/全重:4.8〜6.8 t/32 t
機関車全重量:192 t
動輪径:1600mm
ピストン・ピストンロッド材質:チタン合金
主連棒材質:アルミ合金
連接棒材質:CFRP・アルミ複合
レシプロマス:左右各250kg
許容クランク回転数:700 rpm(約221km/h)
設計最高速度:200km/h
営業最高速度:160km/h(停止距離600m)
前方監視対物レーダーおよび衝突軽減自動ブレーキ

1.4 蒸気機関車の優位点

蒸機機関車がディーゼル・電気機関車に対して持つ優位点は少なく、劣っている点は大量にある。だからこそ衰退した訳である。しかし近代技術を用いた全く新しい蒸機を開発した場合、ディーゼルや電機に対して幾つかの優位点を持てる可能性がある。それは燃料「経済」性、「総合」熱効率、大出力、非電化対応、大気汚染防止、低騒音などである。加えて観光目的であれば蒸気機関車であることそれ自体も集客上の優位点となる。

熱源としての排熱利用

蒸気機関車は走行によって大量の熱を蒸気として排出するため、この熱を回収して客車へ送ることで有効活用できる。客車には冷暖房の他、宿泊機能もある場合給湯などの熱需要がある。暖房のほか吸収式冷凍機による冷房熱源とし、更に給湯にも使用すれば排熱の有効活用が出来る。動力単体での熱効率では電機に及ばずディーゼル機とほぼ互角程度でも、排熱利用によって総合効率では上回る可能性がある。それには客車側に排熱利用を前提とした設計が必要である。

電化条件に依らず走行可能

電化条件によらず走行可能であり、異なる電化区間をまたぐ際に機関車を交換する必要が無い。非電化区間で走行可能なのは当然として、貨物ヤードのようにトラックやフォークリフトの運用のため架線を設置できない区画でも進入可能。そのためカートレイン(車運車)や貨物列車の運用がしやすい。
また災害による停電時でも走行可能で、大規模災害における救援物資の運搬に向く。

排気ガスの低公害性

ディーゼルの場合原理上煤とNOxの発生は避けられず、今日の基準を満たすにはパーティキュレートフィルターと尿素触媒などの後処理装置が必要となる。これに対しボイラおよびガスタービンは大幅に低公害となる。燃焼温度が低いためNOxの発生が少なく、連続燃焼であるためPMの発生も少ない。このため都市部でも大気汚染を引き起しにくく、トンネル通過時も有利である。

重油による燃料コスト低減

動力源がボイラおよびガスタービンであることから軽油より20〜25%安価なA重油を使用可能である。中型高速ディーゼルは軽油を必要とし重油は使えないため、燃料価格高騰下ではかなりの経済的メリットとなる。また重油は軽油と比べ引火しづらく安全面でもメリットがあり、特に長大トンネルを通過する場合の安全性に貢献する。

バネ下重量の低減による(軌道・沿線への)低振動性

大半の電機では重いモーターを吊り掛け式で車軸に取付けるのでモーター重量の半分がバネ下となり、軌道へ与える衝撃が大きい。蒸機の場合連接棒の重量はモーターより軽く、さらにこれを複合材等で軽量化、バランスウェイトをハンマーブローの完全消去に充てれば軌道へ与える衝撃を電機より低減できる可能性がある。

低騒音

ボイラおよびガスタービンはディーゼル機関に比べて騒音が少ない。復水器による蒸気回収式の機関車なのでブラスト音も小さい。ただしクランク機構の作動音が生じるため、高精度化・ローラーベアリングの採用・制震鋼の活用などで対策を要する。

1.5. 車体構成

車体形式はガーラット式,車軸配置は4-8-4-4-8-4(2D2-2D2)である。
水管式ボイラは特に上下方向のスペースが必要であること,水管がレシプロ機関の振動に弱いこと,小さい軸重で大きな引張力を得るには動輪の多軸化が必要であること,復水器には大きな配置スペースが必要であること,などを考慮すると機関車はガーラット式の配置とし,前後テンダーに復水器を設置する。

車輪配置が2-D-2-2-D-2と動輪8軸・補助輪8軸なのは粘着重量の比率からは非効率であるが以下の理由から補助輪8軸を採用した。

  1. 前後テンダーに航続距離1,500〜2,000km分の燃料を搭載しておりこの消費に伴う車重変化が発生する。この時動輪軸重を一定とするため、補助輪の軸重を変化させて対応する。
  2. ガーラット式は関節式であり前後走り装置の間にボイラー部を吊下げる構造のため、高速走行時に不安定になる可能性があり、安定のため先輪・従輪を配置する。特にボイラーのヨー周りの回転を抑えるために、前後走り装置内側の従輪によりボギー車に近い状態にする。
  3. 発進や上り勾配では動輪軸重を16t一杯まで高める反面、高速走行時に軌道へのダメージを抑えることと低許容軸重の路線への進入も可能とするよう、軸重可変式とする。牽引力が必要な場合は補助輪の軸重を減らして動輪軸重を上げ、高速時には補助輪軸重を上げ動輪軸重を下げる。

車体の配置概略は、前端部に運転室がありこれはシリンダ整備のためトラックキャビンのように前転式である。運転室下部に3段複式シリンダとバルブ機構を配置する。前方に向い左側が高圧シリンダ、右側が中圧シリンダ、中央が低圧シリンダであり、直径が大きく重量のある低圧ピストンを中央に配置して車体への首振りモーメントを低減する。高・中圧シリンダは第2動輪外側クランクに接続、低圧シリンダは第1動輪の車軸中央のクランクに接続するため低圧シリンダは他のシリンダより前方にオフセットされている。シリンダからの排気蒸気は運転席後方の排気熱交換器に導き、客車給熱用の温水を加熱して温度を下げる。その後方、テンダーの全長に渡り側面に復水器(ラジエター)を配置、車体上部の冷却ファンで冷却空気を取込み排蒸気を復水、負圧発生により機関効率を上げる。

1.6. 動力構成

本機関車の動力はランキンサイクル(RC:Rankine Cycle)とガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC:Gas Turbine Combined Cycle)の複合方式である。メインは水管式ボイラで発生した蒸気で3段膨張シリンダを駆動するRCで、サブ系統として発電用のガスタービン発電機とその排熱回収ボイラ(HRSG:Heat Recovery Steam Generator)からも蒸気を得るGTCCも用いる。HRSGは排気再熱方式で、ガスタービンの高温排気中に燃料を噴射して更に熱量を高め、必要に応じて燃焼用外気も導入することでメインボイラと同温同圧の蒸気を発生する。

動力構成は以下のようになる。

これらのボイラによる525℃、36気圧の蒸気を3段膨張のピストンにより動力発生する。蒸気の制御はポペットバルブ式で、入気・排気が別経路を通るため熱損失が少なく、通気抵抗も少ない。バルブは可変式カムにより駆動され、走行条件に応じてリフト量・リフトタイミング・カットオフを可変可能で高効率の動力変換を行う。

ピストンは高・低・中圧のピストンが横並びとなり、ピストンの動力は主連棒により第2動輪に伝えられる。外側2本の連接棒はトルク伝達の強度を最大化するため90度の位相で、中圧ピストンは135度である。

高回転化にはレシプロマスの最小化が必要となる。主連棒は耐久性を考慮しアルミ合金、連接棒は軽量化のためCFRP製とする。各軸受はローラーベアリングとして摩擦損失を減らし、給油・回収機構を設けて潤滑を行う。

ピストンを駆動した排蒸気は最初に前後2箇所の排熱回収ボイラに送られ、熱供給用低温蒸気を作る。その後前後各6基の空冷復水器に送られ復水される。復水器1基に1台の電動冷却ファンが付き、状況に応じて送風量を調節する。

車体構成がガーラット式であり、中央車台にガスタービン発電機、排熱回収ボイラ、水管式動力ボイラ、熱供給加熱ボイラを設置する。前後車台にそれぞれ3段膨張シリンダとその排蒸気からの熱回収ボイラを設置する。

1.6.1 ボイラ

本機のボイラは4種類から構成される。

【動力ボイラ】
 ●ガスタービン排熱回収ボイラHRSG(排気再燃方式):ガスタービン発電機の排熱による主蒸気発生
 ●水管式メインボイラ    :主蒸気発生

【熱供給ボイラ】
 ●排熱回収熱交換器:機関の排蒸気から客車熱供給用温水を供給
 ●補助ボイラ   :熱供給用温水の追加加熱

1.6.2 シリンダ・ピストン

1.6.3 復水器

復水器により排蒸気を再凝結させて再利用し、旧蒸機のような頻繁な給水を不要とすることは新蒸機の絶対条件であり、これが不可能なら新蒸機の実現自体が不可能である。実際にACE開発時にスポンサー企業から必須条件として提示されたのも、復水器を用いて1500km以上を無給水で走行可能なことであった。現在は給水インフラが存在しない上、本機は水管式ボイラを使用するため純度の高い再生水を使用する必要がある。

復水器を用いた蒸機として南アフリカ国鉄25型が有名である。これは復水器を通常より相当全長の長いテンダー側面に配置し、排蒸気による蒸気タービン駆動の冷却ファンをテンダー上部に設置、その吸引によって復水器に冷却空気を通過させる。冷却ファンの所用動力は700 hpに達したとされ、復水器を無くした通常型の25NC型に対して性能低下が大きく、タービンの運用・整備も煩雑なため蒸気における復水器利用の失敗例として挙げられることが多い。

本機で復水器が成立可能と見込む最大の根拠は熱効率にある。本機では熱効率30%を目標としており、これは従来の蒸機の3〜4倍である。したがって旧蒸機の1/3〜1/4の燃料しか消費しないため発生熱量も1/3〜1/4と小さく、そこから動力を差引いた排熱量(排蒸気が持つ熱量)は1/4〜1/5しかない。冷却量が1/4〜1/5で済むため、現実的な復水器サイズと冷却ファン所用動力で復水が可能と見込まれる。

南ア25型では機関車の出力2,500 hpに対し冷却ファンの所用動力が700 hpに達し性能低下が大きかった。以下は非常に大雑把な試算となるが、本機の出力8,000 hpは25型の3.2倍であるが、熱効率は3倍以上であるため発熱量は同等以下である。そして冷却ファンは25型では効率の低い蒸気タービンを用いているが、本機は高効率な電動モーターを電子制御で効率的に運用するので所要動力は1/2程度、また熱交換器の放熱効率と冷却ファンの空力効率も当時より高性能であることから更に2/3、全て掛けると1/2 x 2/3 x 700 hp = 230 hp程度で済むと考えられる。2,500 hpに対して700 hpは28%の損失だが、8,000 hpに対して230 hpは3%に過ぎず十分許容範囲と考えられる。

加えて本機は排蒸気を客車給熱のため熱交換器で冷却するため更に排熱量は少なく、ファン所用動力は更に下がる。また冷却不足になった場合に備え、復水器表面へウォータースプレーを掛けその気化熱で冷却する機能を付ける。これにより気温40℃に達する炎天下で急勾配を登るような過酷な運転条件でも十分な冷却能力を確保できると考えられる。

1.6.4 走り装置・車輪

1.6.5 熱勘定

最終的な熱勘定(燃料エネルギーの利用配分)は以下を目標とする。

(a) 燃料消費率 :20,000 kW (100%) = A重油 1,850 L/h = 185,000 円/h(A重油価格 100円/L)
(b) シリンダ出力: 7,000 kW (b/a = 35%)
(c) 動輪周出力 : 6,000 kW (c/a = 30%, c/b = 86%)
(d) 電 力   : 1,200 kW (d/a = 6%)
(e) 熱供給   : 3,000 kW (e/a = 15%)
(f) 総合熱効率 :10,200 kW ((c+d+e)/a = 51 %)

熱効率は動力として30%、電力として6%、熱供給として15%、総合熱効率で51%である。DLやELでは動力しか供給できないためDLで35%程度、ELでも火力発電の電力で動く場合Well to Wheelでの総効率は40%程度なので、本機は総合熱効率でそれらを上回る。動輪周出力/シリンダ出力比(=機械効率)が86%と、一般的な蒸機の70〜80%より高いのは、動弁系にポペットバルブを採用、それをギアとカムで駆動することで動弁系の駆動損失を減少させたこと、動輪やクランクの軸受にローラーベアリングを採用して摩擦損失を減らしたことなどによる。これは同時に摺動部の摩耗も少なくメンテコストが抑えられることも意味する。

1.7. 議論:蒸気機関の多段化と熱効率改善

1.7.1. 求められる熱効率

蒸気機関車の熱効率は8%程度と言われますが、そもそも具体的な数値自体を滅多に見かけません。8%の出典は小学生時代に読んだ学研の図鑑「機関車・電車」で、専門書にも驚くほど載っていません。この事からも、効率向上に必要な熱工学的な検討が疎かにされ、機構学・材料力学的な観点での設計・開発が主体だったことが伺われます。機械屋が開発の主役で、熱力屋・流力屋はあまり参加していないのでしょう。似た事情は内燃機関でも見られ、先端を行く航空用エンジンでも流体力学・熱工学的な設計を本格的に取入れたのは第2次大戦期のロールスロイス・マーリンが最初と言われ、それが同エンジンが傑作となった主因でもあります。

蒸気機関車史上最高の熱効率はアンドレ・シャプロンによる仏242.A.1型が持つ12%と言われます。標準の1.5倍とは云えわずか12%です。戦後にリビオダンテ・ポルタらが新時代の蒸気機関車として計画したACEでも18%程度であり、燃料の石炭が安価という前提を失えば存在意義は無く、まして現代では二酸化炭素排出が問題となる石炭は選択肢となり得ません。本稿で検討するような現代において経済的な価値を持ち得る蒸気機関車を開発するなら

熱効率はディーゼル機関車に準じた30%以上が必須であり、達成できないなら開発する価値は無い

と言えるでしょう。単なる懐古趣味なら新規開発の意義が有りません。

1.7.2. 熱効率の実現手段

それでは、蒸気機関車で30%以上の熱効率はどうすれば可能でしょうか。必要な要素を列挙すると、最低限次のような要素が必要です。

●高温・高圧の蒸気(作動温度を高く・圧力を高くすることが熱機関の高効率化の第一条件)
●高温・高圧蒸気を実現する水管式ボイラ(煙管式ボイラは高圧化が困難かつ低熱効率)
●水管式ボイラを使用可能にする復水器(水管式ボイラは高純度の水が必要で循環させる必要)
●高温高圧蒸気を効率よく動力化する多段膨張機関(1回の膨張では蒸気のエネルギを十分に動力変換できない)

更に

○水管式ボイラを設置できる上下スペースが有り振動の少ない搭載車台
○復水器を設置可能なスペース
○蒸気発生や蒸気弁の最適制御
○あらゆる部分に断熱構造
○可動部分の摩擦損失低減・軽量化

なども不可欠でしょう。

ここから蒸気機関の熱効率改善について、定量的(数値的)な議論をしてみます。移動式の蒸気機関の最終形態は舶用蒸気タービンです。これは最終的に蒸気温度450℃、蒸気圧40気圧程度に落着き、タービンは高・中・低圧の3段タービン(各段も複数のタービンで構成)、低出力の巡行時は更に高圧タービンの前段で巡航タービンを使う4段タービン、復水器で蒸気を凝結・再利用という仕様でした。その熱効率は24%前後です。

一方実在した蒸気機関車では蒸気温度は350〜450℃程度でしたが圧力は16〜20気圧程度。レシプロ式蒸気機関車は単式が多く、熱効率を重視した複式でも2段膨張までです。蒸気は大気中へ使い捨て(ドラフトを用いてボイラの通風に利用)。前述の通り熱効率は平均で8%程度、最高で12%に過ぎません。

ディーゼル機関車の場合30〜35%程度、電気機関車の場合発電所の発電効率を加味すると35〜40%程度でしょう。

補足)これらの熱効率は「負荷率が高い最高効率」の場合の値です。熱機関は全て、最大出力に近い状態で最高の熱効率を得られ、出力(負荷率)が下がれば熱効率も低下します。特に蒸気タービンは回転が下がると効率が激減することと合わせ、低負荷時の効率が低くなります。例えば、出力を1/2に下げても燃料は最高出力時の3/4消費する、といった状態になります。巡航タービンを設置するのも低負荷対策です。

機関車より大型で熱効率に有利な蒸気タービンで24%であれば、機関車で30%を実現するのは相当ハードルが高いことが分ります。エンジンに関わった経験者なら、熱効率を1〜2%上げるのがどれほど大変か実感しているでしょう。

1.7.3. 多段膨張による効率改善効果

高効率実現には高温・高圧蒸気の使用が必須ですが、その蒸気を活用するため必須の多段膨張複式機関について考察をします。蒸気タービンが(主に高出力を必要とする軍艦で)普及する以前、「汽船」の主動力だったのが蒸気レシプロ機関です。最終期においてこのエンジンは3段膨張3シリンダー(高中低圧各1気筒)、または3段膨張4シリンダー(低圧のみ2気筒)となりました。多段膨張なのは熱効率を上げ燃料を節約するためです。ではその熱効率はどうだったか。これも資料が乏しいですが

<杉田英昭:スチームレシプロエンジンを振返る、海事資料館研究年報(24)、1-16、1996>

の表1 蒸気機関の諸性能 から抜粋します。
【初圧10気圧前後(ゲージ圧):初温300〜350℃(過熱蒸気):復水式】の条件で

単段膨張:16.6〜18.6 %(中間値17.6%)
2段膨張:17.3〜19.9 %(中間値18.6%)
3段膨張:19.2〜20.9 %(中間値20.0%)

となっています。

蒸気機関車に比べ2倍前後の数字に見えますが、恐らく【石炭発熱量→動力】の総熱効率ではなく(石炭→蒸気のボイラ効率を除いた)【蒸気→動力】の機関熱効率ではないかと思われます。その場合、この数字に80〜90%のボイラ効率を掛けたものが総熱効率になるでしょう。

最大値・最小値の中間(平均)値を取ると

単段膨張:17.6 %
2段膨張:18.6%(単段比+1.0%)
3段膨張:20.0%(単段比+2.4%、2段比+1.4%)

「1段増やすと約1.0〜1.4%(絶対値)」の効率増加です。蒸気を2回・3回繰返し使っても効率向上は意外と小幅です。特に2段膨張で1%程度の向上幅だと、蒸機の複式化に対して「単式でもカットオフの減少(早めの蒸気停止でシリンダ内での膨張量を多く取る)で同等の効果を得られる」という主張にも説得力があります。それでも3段膨張になれば単段に比べ絶対値で2.4%、相対値で13.6%向上しており明確に差を生じています。

この例で多段膨張による効率改善が少なかった一因は、蒸気条件が比較的低温・低圧であることでしょう。蒸気の持つ初期エネルギ【熱エネルギ + 圧力エネルギ = エンタルピ】が少ないため、2段目・3段目では更に温度・圧力が低下し有効な機械仕事(出力)に変換しづらかったと推測できます。同時に、各段の容積比やバルブ開閉タイミングなどが経験則に依っていたなら、熱力学的に最適だったかも疑問です。

1.7.4. 蒸気温度上昇による効率改善効果

そこで蒸気温度・圧力を上げるとどの程度効率アップするかを推測してみます。

温度が上がると熱効率がどれだけ上がるかは、カルノーサイクルから推定できます(あくまで概算です)。理想的な熱機関の熱効率は動作流体(蒸気)の最高温度:T1(K)と最低温度:T2から以下の単純な式で計算できます。

1-T_2/T_1

ここで

T1に蒸気の最高温度=325 ℃=598 K
T2に 〃 最低温度=100 ℃=373 K

とおいて計算すると

熱効率ηL= 1 - 373/598 = 0.376 = 37.6 %

理論上可能な最高の効率でこの値ですから意外と低い値です。これに対し1段膨張機関の最高効率η=0.186は約49%、2段膨張のη=0.199は52.9%、3段膨張のη=0.209で55.6%を達成しているので、舶用蒸気機関の効率は意外と高いです。ただし蒸気機関車はこの約半分ですが。

ここで
T1 = 525 ℃ = 798 K
T2 = 90 ℃ = 363 K (復水器で大気圧以下に減圧するので沸点が100℃より低い)
に温度条件を変更すると

熱効率ηH= 1 - 363/795 = 0.543 = 54.3 %

熱効率ηHはηLに対して1.44倍に上がります。
つまり1段膨張なら26.8%、2段28.7%、3段30.1%となり「熱効率30%以上」をギリギリ達成できそうです。ただし前述の通りボイラー効率抜きの熱効率だったとすると、効率92%のボイラーと組合わせた場合、それぞれ24.7%・26.4%・27.7%となるためもう一工夫必要です。

1.8. 蒸気機関車概観

蒸気機関車を改めて考察してみると、その非効率性や運用の面倒さに驚く。冒頭で「未だ性能改善の余地を残したまま、潜在能力を全て発揮する前に淘汰された」と書いたが、検討の結果実感したのは「改善により潜在能力を発揮したところで、その能力はディーゼル・電気機関車に到底及ばない」という事であった。この考察では現代技術を用いた機関車を想定したが、戦前・戦後の当時の技術で開発された蒸気機関車では様々な問題があり、改善の労力に見合った結果は得られなかっただろう。

  1. 熱効率が極めて低く、最良でも12%、在来機では10%にすら届かない。ディーゼルや電機の1/3〜1/4の効率しかない。
  2. 出力が低く、狭軌の従来型では1000〜1600PS=700〜1200kW程度。これはディーゼル機関車の1/2、電気機関車の1/3程度。機関車1両で引ける客車・貨車は1桁程度に過ぎない。
  3. 石炭を燃料とする限り、本質的に省力化が望めず、煤煙の問題、石炭灰の処分等が必要。
  4. 煙管式ボイラを用いる限り、熱効率は低く、排熱は膨大で、復水器は非現実的で、大量の水の補給設備が必須。
  5. 駆動系の各部に走行100キロ程度で注油が必要。走行の都度数十リットルの潤滑油を消費、それを環境中に垂流す。
  6. 一度火を起すと簡単には止められず、停車中でも24時間番を置いて石炭を補給、火を維持する必要がある。そのための人件費も燃料費も余計に掛る。
  7. 基本後進運転ができず各地に転車台が必要。
  8. オーバーホール間隔が短く、作業も極めて大掛りで手間もコストも掛る。

酔狂でも無い限りこんなものに手間暇を掛けるのは馬鹿げた、不完全機械と言わざるを得ない。余りにも手間が掛り、費用が掛り、使用に不便で、特に日本において最初から電機・内燃機に駆逐される不完全車両と見なされていたのも当然という気がする。

2.客車列車

鉄道という交通手段をライバルである自動車・航空機と比べた場合、それらに無い一つの特徴が有る。それは「中で生活を営める」という点である。

自動車や航空機では内部が狭小で生活空間は限られ、また運動の特性上大きく揺れる事もあり、建物のような生活を行うのは困難である。しかし鉄道はかなりの広さがあり、また揺れも比較的少ないためコンパクトなビジネスホテルのような環境を構築可能である(なおこの特徴は船舶でより顕著である)。鉄道は小回りのきく移動性では自動車に、速度と到達時間では航空機にかなわない。一方で広いスペースによる居住性で大きく上回るため、これを営業に活用すべきである。

具体的な列車構想としては長距離の個室寝台特急、一例として東京・札幌間を結ぶかつての北斗星のような列車を考える。北斗星は1200kmを最高速度110km/h、表定速度75km/hで16時間で結んでいたが、利便性を高めるため所要時間は12時間、表定速度は100km/hを目標とする。したがって一部区間では営業最高速度は160km/hとする。機関車の出力6000kWは長編成の列車を高速で牽引することを想定したものである。利便性のため、東京を19時前後に出発、札幌に7時前後に到着し、到着日は朝から観光・用務に就くことが出来る。

2.1 個室寝台車(一般向け)

本列車の主力となるのが2階建て個室寝台客車である。

3軸台車を用いた連接車両である。営業最高速度160km/hを想定するため制動力を強化する必要がある。電車列車では無いため回生ブレーキは使用できない一方、摩擦ブレーキを高速行で使用すると摩耗や振動による乗り心地の悪化をもたらす。そのため3軸のうち中央1軸に発電機を取付け、台車下部には渦電流レールブレーキを装備する。発電機で制動を掛けながら発電した電力をレールブレーキに供給し渦電流によっても制動力を得ることで高速域で滑らかな減速を得る。速度が落ちると渦電流ブレーキの効果が落ちるため、各軸2基のディスクブレーキを使って減速する。

2.2 個室寝台車(観光向け)

2.3 個室座席車・半個室座席車

2.4 食堂車・自販機車

本列車は単なる移動手段では無く、移動それ自体に意味を持たせコト消費を促す事も目的であるため、食堂車も設置する。食堂車は1編成に2両設置し、高級車と一般車で異なる仕様である。2階部分の全幅を食堂に当て通路は1階の側方に設置、調理室は1階に設置する。一般車の食堂は回転寿司方式を採用し人件費の節減を図る。座席は1列と2列の横3列で、それぞれ窓側に食器運搬レーンを配置する。座席のタブレットにより注文し、調理室から自動でエレベータで2階へ上がり、運搬レーンから指定のテーブルまで運ばれる。

一般の食堂車で低収益になる元凶の一つは長居する客であるが、本列車では事前予約制を取り各室にあるタブレットで利用時間を予約、可能なら注文も予約しておき、一人30〜40分程度の時間枠で交代させる事で回転率を維持する。それ以外で利用率が低かった理由は、座席に荷物を置いて食堂車に出かけるのは不用心であった事、自由席であればその間に座席を取られる心配もあったためであった。しかし本列車は施錠可能な指定個室制であるためそうした心配は無く、事前予約できるために食堂車まで来ても満席で無駄足になる心配も無いため、使用率を高められると考えられる。

2.5 浴室車

3.ヴィークルトレイン(車運車)


車運車透視図

車運車(中間車)構造図 普通車4台または軽自動車5台を自走式で積載。昇降は編成前後端のスロープ車で側方から行う。
航空コンテナLD3-45WF(エアバスA320,321用)を床下に9個積載、空車時は床上にも同12個積載

ヴィークルトレイン(車運車)は欧米のそれと同様、乗用車を自走で積載する。また床下にかなりの空き空間があるため、航空コンテナLD3-45Wを搭載する。このコンテナはエアバスA-320/321用で左右対称、長さ1530mm、幅2440mm、高さ1140mmで丁度車両限界の床下にぴったりの大きさである。主に宅配便などの需要を想定する。1両につき9個を積載可能だが、乗用車に空きがある場合は車両デッキにも12個の合計21個を積載可能である。

3.1 ドア・ツー・ドアの移動提供

これまでの鉄道旅客輸送は駅間の輸送のみが対象で、「自宅→出発駅」「到着駅→目的地」の移動は考慮されていなかった。交通機関の発達した都市部はともかく、地方都市では駅と出発地・目的地間の移動手段の確保が重要である。

この移動手段として、自家用車両(乗用車・自動二輪車・自転車)をヴィークルトレインに積載し、鉄道の外での移動とシームレスに連携させることを構想する。乗用車(car)に限定せず、自動二輪、自転車等も想定するためヴィークルトレインと呼称する。

長距離個室車で想定される東京〜札幌の移動では、目的地に到着後車両で道内の旅行に向かう利用が想定され、それに適した車両込みの運搬を提供する。また都市部で自宅〜駅間の移動に多用される移動手段は自転車であり、これを鉄道車両に積み込み到着駅から目的地までそのまま利用可能なら、利用者の利便性は大幅に向上する。自転車は占有面積が比較的小さいことから、寝室車の個室にはこれを積載可能なスペースを確保し、利用者のシームレスな移動を可能とする。こうした自転車・自動二輪車・自家用車などの個人所有車両込みでの移動提供する列車をヴィークル・トレインと呼称する。

3.2 車載方法

基本は自動車1台5m長、1両に4台積載とする。6両1単位とし前端・後端の車両は側方へのランプを取り付け3台積載とし1単位で22台、1編成に2単位連結して44台積載を基本とする。4台の積載位置の中間と前後単に合計5本の上下フレームを設置し、フレーム間はドアを取り付け車載時の自動車ドアの開閉・乗降スペースとする。

かつてのカートレインは5ナンバー以下の車しか搭載できず、1両に3台しか詰めず、パレットに載せた上フォークリフトで積載するため時間も手間も掛るなど利便性が低かった。台数の多いSUV・ミニバン・3ナンバーの車両を搭載できるよう室内幅・高さを極力大とし、自走積込みにより所要時間も短縮する。車両幅は車両限界に近い3mとし、フレーム・壁面厚を各15cm、室内幅は2.7m確保する。フレームは5m間隔で、その間の壁面は車両積載時は外側へ開き、幅75cmの通路を形成する。このため車両積み込み時にドアを開けて運転者が昇降するスペースが確保され、積載車両は最大幅2m程度まで可能となり、全幅の広い大型乗用車も利用できる。

3.3 給水・受水車としての利用

ヴィークルトレイン用の車運車は運搬重量が軽い(最大でも10t程度)上、床下には空きスペースがある。これを活用し、固定編成両端の車両床下に給水タンクと受水タンクを設け、客車への水の供給、雑排水の受け取りを行う。車運車に大量の水を搭載可能なため、客車ではシャワーや浴室、食堂車の食器洗浄等に潤沢な水を供給可能である。また機関車からの温水によりタンクを保温し冬季の凍結を防ぐ。

またこの水を利用したスプリンクラーを設置し、車両火災時の消火に役立て、トンネル内通行時の安全性を向上させる。車両内に赤外線カメラを設置して高温・火災を検知し、ガス放出・スプリンクラー自動散水を行う。放水による鎮火が困難なEVは車載不可とする。

3.4 航空コンテナ輸送車としての利用

自動車の積載スペースの最大高を2.4m確保しても、車両限界に対し1.5m近い高さの余裕がある。そのため車載スペースの床下に航空コンテナの積載区画を設け、航空用コンテナLD3-45WF(エアバスA320 / A321用:幅2440,高さ1140,長さ1530,最大重量1134kg)を輸送して収益性を高める。連接台車により床下の前後長が長いため,1両に付き最大9個のLD3-45WFコンテナを積載できる。自動車を積まない場合は車載スペースにも台車に載せたコンテナを13個,合計22個輸送でき,A320が1機7個,A321が10個に対しかなりの積載量となる。運輸会社から速達性の高い荷物をコンテナで受入れ、終着駅近傍の受入れ施設まで運搬する。東京〜札幌間を12時間で結ぶ場合、所要時間・料金ともに航空便とトラック便の中間に設定し,また到着の定時性を確保して集荷に努める。ストによる欠便などは問題外であり、労使紛争の解消は大前提である。

3.5 EV充電サービス

※当初は以下のサービスを構想したが、EVの安全性に疑問が出てきたため中止

(EVは充電拠点が少なく充電に時間の掛かることから長距離移動が不便である。カートレインにEVへの充電設備を設け走行中に充電可能だと、利用者は目的地で満充電された状態で走り出せるので、EVオーナーにとって長距離移動の動機になる。また帰路では消耗した状態でも乗車により満充電されるため、EVでの長距離移動で問題となる充電施設問題を緩和しEVの利便性を高める。また充電電力のクリーンさをアピールするため、車運車にはバッテリーを設け列車の減速時の回生電力を蓄電、EVへの充電に利用する。)

【EVは特に充電中の火災発生と消火困難な点が懸念され、安全上の問題が大きいため充電は行わない。あるいはEVの車載そのものを行わないこととする】

3.6 安全装備

外燃機関車によるトンネル内走行、自動車の運搬、高速化などのため、従来とは違う安全装備が必要となる。

EVの充電、客室内の電子機器充電など、発火の危険が増大するため、赤外線検知器を各所に設置し温度上昇を検知した時は給電の停止、消火装置の作動などを自動的に行う。

高速走行では線路上の障害物との衝突問題が深刻化し、現状の600mでの停止も困難となることから、自動車のように前方に対物レーダー・カメラを設置し、障害物・人の侵入を発見した際は自動で制動を掛け被害を軽減する。

3.7 列車編成


4.ビジネスモデル

この蒸機牽引列車の構想のベースとして、在来線の再整備と活用により日本の物流を改革すると共に新しい需要を生み出すというコンセプトがある。鉄道は国力と経済発展を左右する国家インフラであり、一営利企業の事業として扱うべきでないという視点である。鉄道輸送が持つ省エネルギー・省人員で大量輸送という本質的なメリットを活かし、既に存在する在来線のインフラを再整備、21世紀の社会情勢下で有用な輸送手段として高付加価値化する狙いがある。

重要な観点として、列車単体・個別の運行会社レベルでの採算を考慮するのでは無く、鉄道を国と経済を支えるインフラと捉え国・国民全体の利便向上・経済活性化をもたらしそれに伴う経済効果・税収増等を総合して採算を考える国家経済事業としての捉え方である。

そこで実現しようとする要素を列挙すると以下のようになる。

4.1 客貨混載

路線上を運行できる列車本数は限られている以上、なるべく1編成で多数の車両を連結し多くの需要を運搬することが効率的である。旅客専用の列車は旅客需要が多い路線で無ければ定員割れを生じやすく、その場合運行本数も少なくせざるを得ないため利便性が低下、それが更に需要減を生む。これらのため、同一編成に客車と貨車を混在させ多種・多数の需要を同時に運搬して輸送効率、採算性、利便性を確保する。複数の需要を同時運搬すれば単独の需要が低い場合でも別種の需要の運搬により平均化され、空荷で運行する事態を回避できる。

特定のニッチ需要を対象としたかつての寝台列車は、情勢変化と共に需要が低くなり採算性が悪化して廃止された。運行されなければ需要の充足は不可能であり、運行するには恒常的に一定の需要・収益確保が必要である。

複数需要を混載すると列車1編成当りの一需要の運搬量は少なくなり、より多くの本数を走らせることになる。本数が多くなれば利用側にとっては柔軟な利用が可能となって利用しやすくなり、総需要を増加させる効果が期待できる。

旅客輸送で採算性を上げるには高速化が重要である。しかし地方路線では高速の旅客列車と低速の貨物列車を同一軌道で走らせると追越しとそのための待避が生じて利用効率が低下する。特に単線しか無い路線では尚更である。そのため現状では在来線の速度は旅客列車でもたかだか130km/h、一部路線でも160km/h止まりであることを逆用し、荷物を旅客と混載して旅客列車の速度で運行すれば限られた軌道を効率的に使用できる。旅客列車であれば所要時間は貨物列車より早くなるため、速達性が重要な宅配便などの需要を喚起できる。

並行在来線の採算性は悪化するが、在来線を活用した輸送インフラを維持することは国力増加・経済促進のマクロな視点から重要である。旅客と高速軽貨物を別の編成で運搬するのでは無く、単一編成で運搬し編成数を増やして運搬することで運搬総量の増大や、利用側の利便性向上を図り、新規需要の開拓を目指す。

本列車においては

  1. コト消費を行う観光客・富裕層           → プレミアム個室車両
  2. 移動を目的とする一般旅客             → 通常個室車両
  3. 旅客が使用する車両(自動車,自動二輪車,自転車) → ヴィークルトレイン床上
  4. 航空コンテナ(宅配需要などの荷物輸送)      → ヴィークルトレイン床下

を同時輸送する。また従来の寝台車は移動需要を満たすための夜行専用列車だったが、移動体験そのものを楽しむコト消費の増加、速達性と時間節約を至上目的としない価値観の変化も念頭に、昼行のダイヤも想定する。個室の中で景色を楽しみながら移動するという体験を提供し新規需要を開拓することも目的とする。昼行列車に対しては個室寝台車両以外に半個室(パーティション)の座席車両も設定し、定員を増やしつつ長時間の移動を楽しみながらリラックスして体験できるよう配慮する。

4.2 対象旅客

目的地までの距離をどれだけ短時間で、どれだけ低コストで移動できるか、という単純な価値基準だけでは在来鉄道による長距離輸送は旅客機や新幹線に対抗できない。ただしそれは「そうした価値観に対しては」ということで「鉄道移動には需要が無い」ことを意味しない。旅客機や新幹線で提供できない価値を提供することで、以前の鉄道では満たせなかった需要を創出することが重要である。

4.2.1 ビジネス客

鉄道による長距離輸送では価格競争力は余り高くない。航空機では早割により安い運賃で搭乗が可能である。また時間に余裕を持ち周到に旅行を準備する旅客なら、早割の航空便のほか、高速バス、フェリーなど他の交通手段も検討するはずである。比較的高い運賃で寝台列車を利用すると考えられるのは、旅行が直近になって決まり時間的余裕が少ない旅客である。この場合、安い航空券はもちろん予約そのものが一杯でできない場合、同様にホテルの宿泊も満室で取れない場合が想定される。その場合、比較的運賃が高くても宿泊込みで目的地に行ける手段があれば利用が見込める。

また近年増加した事情として、都市部のビジネスホテルの宿泊費が高騰したため夜行列車により夜間に異動、朝に目的地へ到着して用務終了後また夜行列車で帰るという、宿泊の代替手段としての寝台列車の要望がある。この場合は航空運賃+ホテル宿泊費の合計より列車運賃が安ければ価格競争力を持てる。(このアイデアを以前ヤフコメに書込んだところ「そういう需要は意外と無いんですよ。だから寝台列車が廃れたんです」という鉄オタ特有のアイデア否定コメントが付いたが、その1年ほど後にはホテル代高騰で夜行列車・夜行バスを利用したいという声が記事に載っていた)

そうした時間的余裕がない旅客に便利なサービスは何か?ひとつは事前準備なく飛び乗っても用事を間に合わせられるだけのサービスである。コンビニのような生活必需品、洗面・歯磨き用品や、替えの下着類・シャツなどが車内で入手可能。ビジネス利用の場合、車内でのPC利用が想定される。豊富な電源コンセント、無料Wi-Fi、プリントアウトサービス、文房具の車内販売。

4.2.2 家族・乳児・ペット連れ客

2〜4人位の大部屋を準備し家族や友人同士での旅行に使えるようにする。また公共交通難民とも言える乳児連れの親が利用し易いようにする。乳児連れの移動は泣き声やおむつの付け替えなどで公共交通機関の利用が不便であり親にとってストレスとなるが、個室寝台車両ではそうした問題がなく子育て世代の長距離移動手段として利用価値が高い。その支援の意味も込め、乳児連れの客に対しては割引運賃を適用する。同様にペット同伴者も公共交通を利用しづらいが、個室を利用することでトラブルを避けて移動可能になる。盲導犬の利用に対しても割引運賃を適用する。

4.2.3 車両込みの客

自家用車で長距離旅行をする旅客が対象となる。特に長距離走行が苦手なEVに対し,移動だけで無く充電を提供することで利用動機とする。旅行時は家族での利用も多いことから,上記家族連れ客にも該当する。家族連れの遠距離の自動車帰省では運転手の負担が大きいが、目的地近くまで車運車を利用して休息し、その後自家用車で目的地まで移動すれば過度の疲労を防ぐことが出来る。

4.2.4 観光客・富裕層

海外からの観光客は当列車の最大のカスタマーとなる。世界唯一の現用蒸気列車であること、総個室を実現した高付加価値列車であることから日本観光時のコト消費の対象となる。それに対応した高付加価値・高価格車両を設定する。

4.3 対象貨物

4.3.1 自家用車

これまでの鉄道旅客輸送は駅から駅までの輸送のみが対象で、旅客の「自宅から出発駅」までの移動、「到着駅から目的地」までの移動は考慮されていなかった。大都市圏はともかく、地方都市では駅と出発地・目的地間の移動手段の確保が重要である。

この移動手段として、自家用車両(乗用車・自動二輪車・自転車)をヴィークルトレインに積載し、鉄道の外での移動とシームレスに連携させることを構想する。長距離個室車で想定される東京〜札幌の移動では、目的地に到着後車両で道内の旅行に向かう利用が想定され、それに適した車両込みの運搬を提供する。また都市部で自宅〜駅間の移動に多用される移動手段は自転車であり、これを鉄道車両に積み込み到着駅から目的地までそのまま利用可能なら、利用者の利便性は大幅に向上する。自転車は占有面積が比較的小さいことから、寝室車の個室にはこれを積載可能なスペースを確保し、利用者のシームレスな移動を可能とする。こうした自転車・自動二輪車・自家用車などの個人所有車両込みでの移動提供する列車をヴィークル・トレインと呼称する。

4.3.2 航空コンテナ

車運車に積載できる乗用車は普通車で4台、軽乗用車でも5台と多くない。外国と異なり日本の車両限界では2段積載は困難で運送効率・採算性とも低い。その為床下にかなりの空き空間がある事を利用し、ここへ航空コンテナLD3-45Wを搭載し貨物運賃を稼ぐ。このコンテナはエアバスA-320/321用で左右対称、長さ1530mm、幅2440mm、高さ1140mmで丁度車両限界の床下にぴったりの大きさである。宅配便業者では急ぎ便では航空貨物、一般はトラックおよびそのフェリー輸送で行うが、その中間の速さの輸送手段が欠落しているためその隙間需要を狙う。ある程度の速達貨物をコンテナに収納し出発・到着駅近くの配送センターから車両に搭載、約12時間で目的地まで運ぶ。トラック輸送に比べ所要時間も短く、運転手も不要で人手不足解消にも貢献可能である。床下のコンテナ積載スペースを最大化し採算性を向上させるため連接台車とする。

4.3.3 災害支援物資など

災害時の緊急宿泊施設、災害支援物資の輸送手段としての活用を意図する。宿泊機能があり外部からの電力に依存せず機能する本列車は、災害時に車運車に支援物資やそれらを積載した車を積載し、被害地域の近隣駅までそれらを運搬するほか、そのまま臨時宿泊施設として被災者の短期居住施設として利用する。居住用の個室、シャワー室・浴室、食堂車を備えているため臨時ホテルとしての利用が可能である。必要に応じてそのまま被災者を別の地域へ輸送したり、その際車運車に被災者の家財や車を載せて運搬する事も可能である。電車では無いため災害で送電が止っても走行可能であり、発電機能もあるため場合によっては移動式小型発電所としての役割も果せる。被災時に支援活動を実施する条件で、普段の運用で国から補助金を受ける事も想定する。

4.4 イベント等の開催

硬直的な定期運行だけで無く、閑散期や季候の良い時期には積極的にイベント運行を実施、列車にもそれに適した設計をしておく。

4.5 宣伝・アピール方法など

以下は本列車を宣伝するための細かなアイデア案

4.5.1 速度記録の樹立

蒸気機関車の最高速度記録は1938年にイギリスのA4型マラードが記録した202km/hから永らく更新されていない。この世界記録が約90年ぶりに更新されれば、ニュースとなって世界中のメディアで報道され無料で大規模な宣伝が行える。インバウンドの観光客にとって、日本旅行の際に乗車するコト消費の大きな動機となる。

本機は設計最高速度200km/h、動輪許容回転数700rpm=速度221km/hでA4型の記録更新は十分可能と考えられる。A4型の記録は下り坂を利用して速度を稼ぎ、記録達成の結果駆動系に深刻な故障を生じた半分インチキの記録である。平坦区間で故障なしに200km/hを記録したドイツの02型の方がより高速だったと考えられるが、アメリカには記録は残されていないが200km/h越えを確実視される機関車が複数存在し、最有力のペンシルバニア鉄道S1型は225km/hとも言われる。

一方日本の国鉄は蒸機の高性能化に及び腰だったにも関わらず、1954年にC62で1両も牽引せず機関車単独で129km/hを捻り出し狭軌最速とうそぶいたものの、東南アジアの複数の狭軌機関車はこれを上回る速度を持っていたと言われる。日本の旧蒸機はレベルが低いため速度記録更新の対象にならず、「狭軌最速」等というチンケな記録ではなく「世界最速」「史上最速」の記録を打立てて世界的な宣伝効果を狙う。1世紀近い技術の進歩を投入すれば、狭軌鉄道であっても可能と考えられる。

4.5.2 「匂い」の活用

匂いは人間の原初的な感情に影響する感覚であり、これをアピールに利用する。具体的には食堂車の厨房排気、浴室車やシャワー室からの排気を車体側面からホームの人間に当る方向へ吹出す。駅に列車が停車・通過する際、ホーム上の人間にはこれらの匂いが伝わる事になる。料理の匂いがすればそれは食事を、風呂や石鹸の匂いがすれば入浴を、嗅いだ人に無意識に想像させる。それらは生活やリラックスを想起させ、列車の中でそうした「生活」「リラクゼーション」が営まれている事を潜在意識にすり込む。嗅いだ経験が通勤中のホームなどリラクゼーションと離れた情況であるほど、そのコントラストは強くなって意識に強く刻まれる。本能レベルで「この列車の中に食事を楽しんだり、入浴でリラックスできる世界が存在している」ことを通過・停車する駅のホームにいる人々にアピールする事で、その中から「この列車に乗ってみたい」と考える人を生み出す事を意図する。