架空軽巡洋艦 幾春別 級:構想
Fictional IJN Light Cruiser "Ikushunbetsu" class

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1. 概 要

1.1 背 景

太平洋戦争当時、日本海軍には有効な軽巡洋艦が存在しなかった。基本的に大正時代に設計・竣工した5,500トン型のみで、実験艦的な夕張、事実上の重巡である最上級の他は、開戦後に竣工した阿賀野級まで待たねばならなかった。しかも阿賀野級は旧態依然とした艦隊決戦用水雷戦巡洋艦であり、航空機が最大の脅威となった太平洋戦争には全く対応できない時代遅れの艦だった。古鷹級以降の日本重巡は航空機への対応能力はともかくとして世界最高峰の性能を持つ有力艦を揃えたのに対し、軽巡は第一線の戦闘には役者不足な旧式艦しか無く、結果半ば使い捨ての重雷装艦へ改装されたものが少なくなかった。

(この戦力上の穴が戦局に与えた影響は小さくなかったと考えられる。理由は、適切な設計を行えば軽巡洋艦は「艦隊防空の要」として重要な役割を果たしたはずだからである。防空専用艦として米海軍は6,000tのアトランタ級軽巡を、日本海軍は2,700tの秋月級駆逐艦を建造し、防空戦に活用した。防空艦は「有効な対空兵装を持つこと」と同時に「各艦隊・船団に配備し艦隊の周囲を守れるだけの数を建造すること」も重要である。それには、駆逐艦クラスの小型艦では十分な対空兵装を装備できず、一方重巡洋艦以上の大型艦では十分な建造隻数を確保できない。有力な対空兵装を装備可能でかつ隻数確保にも適した大きさは軽巡洋艦である。)

日本海軍の既往の軽巡は水雷戦特化型であり、小型の艦形と高速力をもって水雷戦隊を率い、砲撃で敵水上艦を牽制しつつ敵艦隊に接近、魚雷攻撃で敵艦を撃沈するという戦術に全振りした設計であった。結果として第2次大戦の実情で必要となった対空戦闘はもちろん、対潜戦闘、更には砲撃力による対艦戦闘にも不十分であり、阿賀野型を受領した宇垣纏は「役立たず(意訳)」と切って捨てるほどであった。

太平洋戦争における軽巡に必要な能力は適度な排水量による対空能力の発揮である。一方、相応の大きさと建造費のかかる巡洋艦を防空専用に建造するのは非効率であり、十分な対艦能力も必要である。従って中間口径の両用砲を主砲とし有力な高角砲を装備し、対艦・対空共に火力を発揮できる汎用防空巡洋艦が、日本海軍にあるべき軽巡洋艦の姿と言える。本級の基準排水量8,000 t、15.5cm砲8門という諸元は、米海軍がアトランタ級の拡大型として構想したクリーブランド級の当初案(8,000 t、15.2cm砲10門)に近い。また風不死級重巡で議論したように、一定以上の規模を持つ艦に魚雷兵装を搭載するのはリスクが大きく、砲熕兵装の足枷にもなるため魚雷は全廃することが望ましい。

本級は旧式化した球磨級以降の5500t型軽巡14隻を代替し、艦隊防空及び敵駆逐艦制圧の要として同型8〜12隻を配備するものとする。

1.2 基本仕様

●船 体

排水量:基準8,000t・公試9,300T・満載10,000T
寸 法:全長:180m 全幅:19m 水線幅:16m

●兵 装

主 砲:15.5cm60口径両用砲8門(連装4基)
    高射射撃指揮装置:2基(光学照準・電探測距、高度変化対応型)
    艦首側:2砲塔背負配置,艦尾側:2砲塔背負配置

高角砲:10cm65口径砲8門(連装4基)
    高射射撃指揮装置:2基(光学照準・電探測距、高度変化対応型)
    菱形配置:艦首1砲塔、両舷各1砲塔、艦尾1砲塔

長機銃:35mm70口径機銃32門(4連装8基)
    機銃管制装置:4基(光学照準・電探測距、前方2、後方2、各機銃3基を管制)

短機銃:25mm60口径20門(単装20機)
    目視照準

噴進砲:12cm30連装4基(対空・対潜両用。対空弾および対潜弾切替え)
    機銃管制装置(対空時:対空諸元を利用可能)
    発射管制装置(対潜時:探信儀の測定諸元を利用可能)

魚 雷:無し

水上機:零式水上偵察機2機

機 関

主 機:ディーゼル12基3軸90,000 SHP(艦本式15号10型12基)
速 力:34.5 kts
航続力:12,000 nm/18kts(過積載時14,000 nm)

1.3 基本コンセプト

本級の企画において最も悩んだのがコンセプトである。元々は防空巡洋艦として艦隊防空の中核となることを意図した。駆逐艦(秋月級)より強力な対空兵装を持ち、重巡洋艦(1万トン超)より多数を建造・配備して艦隊の防空を担う役割である。この場合アトランタ級のような対空専門艦とすると対艦能力が不足するためそれを他の重巡などで補う必要があり、建艦能力の限られた日本海軍には不適と考えられた。そのため15.5cm主砲と10cm高角砲を混載しかつ主砲は両用砲とすることで、対艦・対空どちらの能力も確保、加えて相応の対潜能力も装備した汎用的で活用範囲の広い艦とするコンセプトになった。

幾春別級は基本的には風不死級重巡をスケールダウンしたような内容で、米クリーブランド級を排水量・武装共に2/3にした艦とも言える。主砲が速射性の高い15.5cm砲であるため風不死級重巡より防空艦としての性格が強く、有効射程も高角砲より長いため艦隊防空の強化を意図した艦である。艦隊防空においては個艦の防空能力だけでなく艦数自体も重要であるため、多数の艦数を揃えられるよう軽巡として計画する。同時に、対空戦闘に特化した専用艦は利用効率が低く絶対艦数の少ない日本海軍には適さないため、対艦・対潜戦闘にも使える汎用艦として計画する。そのため主砲は軽巡洋艦最上級の15.5cm60口径砲を連装砲塔の両用砲として4基搭載して対艦・対空どちらにも使用可能とし、高角砲も10cm65口径砲を連装で4基搭載し遠距離〜中距離までの対空火力を確保する。

汎用防空型巡洋艦の究極と言えるのは米クリーブランド級軽巡洋艦である。12門に及ぶ15.2cm砲は対空・対艦共に強大な威力を持ち、加えて12門の12.7cm両用高角砲を装備し、隙のない極めて有用な艦であり、故に計画52隻、竣工27隻という大量建造が行われた。しかし基準排水量は約12,000tと条約型重巡を上回り、この規模の艦を日本の国力で大量建造するのは不可能である。防空艦は強力な艦少数より有力な艦多数によって艦隊を包囲して対空防壁を構築する方が効果的であり、個艦性能を高めるために大型化するよりも、適度な大きさ・能力の艦を多数建造することが重要である。従って幾春別級はクリーブランド級に対し排水量・砲熕兵装とも2/3である。

艦隊防空のほか、艦隊防衛の中核として駆逐艦を指揮しつつ対潜および対艦(対駆逐艦・水雷艇)の防衛戦を行うことも本級の目的である。そのため対潜用には30連装噴進砲(対空対潜両用)を装備する。索敵面では水上偵察機・電探・水中聴音機・探信儀を装備し対潜戦闘に活用する。運用面では対空・対潜用の状況分析・指揮室を設け、ここに自艦の測的データのほか偵察機・指揮下の駆逐艦からの情報を集約し、グループとして脅威に対処するための作戦行動を行う。そのため通信機能も強化し、一般の無線通信機をはじめ指向性通信機、発光通信機を指揮室から直接使用可能とする。

戦闘部隊のみならず、輸送船団を駆逐艦とともに護衛し日本の国力維持に不可欠な南方からのシーレーンを維持する任務も想定し、電探・聴音機・水上機による広範な偵察・探知能力、麾下の船団に対する指揮能力などを備える。従来の日本軽巡が水雷による攻撃を重視した艦種だったのに対し、防御的な運用をより重視した艦である。

2. 船 体 ー工芸品ではなく工業製品ー

基準排水量/満載排水量は8,000t/10,000Tと阿賀野級の6,650t/8,340Tの約2割増しである。大型化したのは阿賀野級の排水量では対艦・対空に十分な兵装を搭載できないことと、水雷戦(野戦)を重視しないため艦形を小型にまとめる必要性が無いためである。

風不死級と同様、主砲に加えて多数の高角砲を装備する幾春別級は復原性の確保が最重要である。6,000tの米アトランタ級は12.7cm砲16門では復元性が不足し12門に変更されたが、8,000tの幾春別級が8門の高角砲と8門の主砲を搭載するためには重心降下等の安定性確保が死活問題である。この点他の日本巡洋艦と同様、米巡洋艦より甲板数が少なく乾舷の低い点は絶対的に有利である。

安定性の確保のため、排水量に比し全幅が大きくL/W比の小さい船形である。防空巡洋艦として能力を発揮するには艦の安定性が重要であり、船幅を大きくして安定性を高める。

防空艦に不可欠の要素が「隻数の確保」であることは既に述べた。従って本級は船体を徹底的に量産に向くように配慮する。船体構造は風不死級重巡で実践した直線的形状・溶接の大幅導入・ブロック工法を更に進め、量産性に最大限配慮した改風不死級の先鞭を告げる内容である。阿賀野級軽巡の船体構造は日本海軍造艦技術の到達点ともいうべき洗練されたものであり、事実沖縄特攻作戦においても軽巡とは思えない強靭な防御力を発揮した。しかし同時にその構造は「工芸品」とも称すべき徹底した最適化設計(例:僅かな軽量化のための舷側装甲上下端部の座繰り加工など)を伴い、完成度追求のため量産性は度外視された構造である。幾春別級ではあくまで「工業製品」として、量産性・低コスト化を追求し、国力・工業力の低い日本だからこそこの点は重要である。

3. 兵 装

3.1 主 砲

砲諸元

口 径 :15.5cm
砲身長 :60口径
砲呼称 :60口径三年式15.5cm砲(実在)
砲弾重量:55.9 kg
装薬量 :19.5 kg
初 速 :920 m/s
最大射程:27,400 m
最大射高:18,000 m(零式通常弾、仰角75度)
発射速度:8発/分
旋回速度:12度/秒
俯仰速度:18度/秒
俯仰範囲:-10〜75度
装填角度:0〜75度
旋回範囲:0(正面)〜155度

主砲は軽巡時代の最上級と同じ15.5cm 60口径砲であるが、両用砲としての機能を高めるため連装砲塔とし、かつ左右砲を連結して小型軽量とすることで砲塔の旋回速度を向上させる風不死級と同様の手法を取る。最上級の3連装砲塔を3基9門搭載するのが最も簡易な設計であるが、対空射撃用としては3連装砲塔では旋回速度が遅く艦後方への火線数も不足するため、連装砲塔4基8門とする。高角砲より長い射程と砲弾重量により、遠距離および高高度への対空能力を提供し重層的な防御火力を発揮する。

俯仰範囲は-10〜75度、発射速度は8発/分、旋回速度は12度/秒、俯仰速度18度/秒、全角度での自由装填方式である。当然信管自動調定装置を持ち、徹甲弾と通常弾それぞれの揚弾装置を持つ。発射速度の向上や信管調定装置搭載は連装砲塔としたことによるスペースの余裕を利用して実施する。砲身自体は同じでも対空砲としての能力は最上級の三連装砲塔とは別次元で、カタログ上の砲門数ではなく対空砲として必要とされる機能の実現を重視した。本級の主砲塔は装甲強化の上、秋名級巡洋戦艦の両用副砲としても採用される。

電探測距による正確な測距情報を元に、三次元で標的経路を計算する高精度の射撃盤で射撃諸元を算出、信管秒時を自動的・正確に調定する機能により、水平爆撃機・雷撃機に対してのみならず急降下爆撃機に対しても米軍のVT信管に劣らない断片命中率を実現する。高い初速と発射速度、良好な弾道特性を持つ本砲は対艦用としても高い能力を持つ。

3.2 高角砲

高角砲は10cm65口径砲を連装4基を菱形配置する。このため片舷砲力は6門で従来の日本重巡と比べても1.5倍である。前後各1基の高射装置で高角砲群を管制する点、主砲方位盤も高射機能を持ち主砲と高角砲を相互に管制できる点も風不死級と同様である。

高発射速度の高角砲と両用主砲により、艦隊へ魚雷攻撃のため接近してくる敵駆逐艦を撃退する能力にも優れる。

3.3 長機銃

35 mm70口径長射程機銃を電探併用の射撃指揮装置で管制射撃する。本級の場合、艦隊防空艦という位置付け上個艦防御というより艦隊の他の艦への援護射撃用としての役割が強い。そのため射程の長い長機銃を多数搭載し僚艦への援護弾幕を展開できるようにする。4連装機銃2基を1群とし電探併用射撃指揮装置1基で管制、これを両舷の前後に合計4群32門装備する。連装機銃座4基8門を左右2基上下2段に並べこれを電探併用機銃射撃指揮装置で管制する機銃群を単位とし、これを両舷の前方及び後方と艦尾に合計5群、40門を配置する。前方機銃群は前方から側方、中央機銃群は側方から斜め後方、後部機銃群は後方を射界とし360度全周に隙の無い弾幕を展開する。

3.4 短機銃

25 mm60口径短射程機銃を単装・目視照準で搭載する。搭載要領は他の艦に準じ、主砲・高角砲の爆風を受けにくい場所に、射界を犠牲にしてでも砲廊式に搭載し、操作員の死傷を局限する。

3.5 両用噴進砲

織姫級・松茸級駆逐艦と同様、対空・対潜両用の30連装噴進砲を4基装備する。このため対空のみならず対潜能力も有し、それに合わせて対潜警戒用の聴音機に加え攻撃諸元測定用に探信儀も装備、対潜射撃盤から管制発射する。爆雷は誘爆の危険性や中型艦の操縦性を鑑みて搭載しないが、対潜水艦戦用に水上機・対水上電探・水中聴音機・探信儀・噴進砲と相当有力な装備を持つため、対艦・対空・対潜の汎用性が高い。駆逐艦と共同して、艦隊へ攻撃を図る航空機・潜水艦を撃退する。

3.6 航空兵装

対潜水艦用の偵察・攻撃のため水上機を2機艦尾格納庫へ搭載する。要領は風不死級と同様だが、艦型が小さいため機数は1機減である。艦尾に搭載することの得失も風不死級と同様である。格納庫は前後に2機を直列に並べ、長さ24m幅10mと最小限とする。搭載ハッチは、艦型が小さいため主翼折畳み機構付きの零式水偵の使用を前提とし、長さ13m幅9.5mと小型のものとする。ハッチを船体中心より左舷側にオフセットし、右舷にカタパルトを1基装備する。

水上機は対潜水艦の見張り及び攻撃の用途として重要であり、潜水艦捜索用に3式1号探知機を装備した11乙型を搭載する。対潜攻撃用に60kg爆弾を相当数搭載する。搭載場所は主砲の後部弾薬庫内であり、ここから甲板上に搬出し露天甲板上で装着することで攻撃からの脆弱性を防ぐ。

風不死級と同様、艦尾格納庫は補給物資の積載にも適しているため、敵勢力圏下での輸送任務にも利用可能である。

3.7 戦闘における運用

既述のように、本級は艦隊防空の中核艦として運用し、更に対潜警戒にも用いることを想定する。

中規模の艦隊に風不死級重巡1隻、幾春別級軽巡2隻、織姫級駆逐艦4隻を配備すれば、20.3cm両用砲8門、15.5cm両用砲16門、長10cm高角砲60門、35 mm長機銃約120丁、25mm短機銃約100丁の5段階の弾幕が展開される。かつ長機銃以上の火器は半電探管制を受け従来の10倍以上の命中率を持つため、全体として米艦隊に匹敵する防空能力を発揮し、護衛空母部隊程度の航空攻撃に対しては最小限の被害で撃退可能と考えられる。また水上偵察機も7機搭載するため、艦隊周囲をローテーションしつつ対潜警戒を行える。


4. 防 御

4.1 船体防御

防御力は大淀とほぼ同等で、機関部は側方を60mmCNC、上方を30mmCNC、弾薬庫は側方75mmCNC、上方50mmCNCで防御する。全幅が小さいため、垂直装甲の傾斜は船体の形状に合わせた僅かなものである。

4.2 主砲塔防御

従来の日本軽巡は水雷戦指揮艦の性質上主砲塔は断片防御レベルだが、幾春別級は水雷兵装を持たない純砲戦艦であるため相応の防御を実施する。但し主砲塔は両用砲として対空射撃を行う際の旋回速度確保のため軽量化する必要があるため、15.5cmに対する完全防御は実施せず、対12.7cm砲弾の完全防御(被弾後の使用可)と、15.5cm砲弾に対する貫徹阻止防御を実施する。前面には被弾経始を持たせたVH鋼板(80mm)、上面と側面にはCNC鋼板(50mm)による装甲を設置する。

生産性に配慮し鋼板は平面主体とし、前面に関しては風不死級と同様にくさび形の被弾経始を考慮した形状とする。

4.3 舵取り機室防御

舵取り機室は側面・後面を75mm傾斜25度、前面を100 mm垂直、上面を50mm、下面を30mmのCNC装甲で覆い、また左右の舵取り機の間を25mm鋼板で隔離する。生残性に直結する部位のため、板厚は弾薬庫と同様である。

5. 機関・航海

諸 元

機 関:ディーゼル12基3軸(艦本式15号10型12基)
出 力:90,000 SHP
速 力:34.0 kts
航続力:12,000 nm/18kts(過積載時14,000 nm)

5.1 機 関

3軸推進で、合計で90,000 SHP、速力34.0 ktsである。各軸には4基の15号10型内火機械を1台の減速機で接続する。本級は少ない排水量で砲熕兵装に多くの重量を割くため機関部は妥協する必要があり、またタービンに比べ出力に劣るディーゼルのため出力はより小型の阿賀野級に比べ10%減、同大の大淀に比べ18%減となる。このため3軸推進の効率を加味しても速力は34ノットと若干低下するが、水雷戦を想定しないため大きな問題とはならない。

機関配置は1軸に対し、前方に2基、中間に減速機、後方に2基配置し合計で30,000 SHPである。中央軸の主機群は前方中央に、外舷軸は後方の左右に配置する。外舷軸主機は2軸分が横4列に並び、中心隔壁は設けず傾斜耐性を強める。1室の浸水により主機4機を失う反面、1機関室が大きくなるため容積効率が高まり小型の軽巡には好都合である。前後方向に前方主機室・減速機室・後方主機室の3室構成とする。中央軸も同様の前後3室構成であるが、機関室長を短くするためブロアを主機の側方に配置し、更に余剰スペースに発電機を配置する。機関は前後4区画に分散配置される。

軽巡大淀は缶室6・機械室4を中心縦隔壁の左右に配置したが、右舷機械室に命中した爆弾により5番缶室と1番機械室に浸水、右舷に転覆して着底した。軽巡のように小型で船体が細長い艦は片舷浸水に伴う傾斜は致命的であり、中心縦隔壁の廃止は必須である。幾春別級は中心隔壁を廃したことで傾斜耐性が高まり、また他の日本巡洋艦と異なり中央軸は左右両舷から離れた位置にあるため被弾時の防御力・生残性に優れる。

航続力は12,000 nm/18 ktsである。ディーゼル推進のため当然燃料消費量が少ない。防空艦として多くの艦隊をエスコートする場合、航続力のほか消費燃料が少ないことも資源の乏しい日本にとって重要である。ディーゼル推進の幾春別級の燃料消費はタービン推進の駆逐艦と同等であり、燃料事情の厳しい環境下で有効な活躍を支える。

発電機・ブロア駆動補機に22号改多燃料ディーゼルを使用し、積載燃料の最大15%を灯油・軽油で代替できることも他の艦と同様である。

5.2 発電機

600kWのディーゼル発電機を6基装備し、合計3,600kWの容量を持つ。主砲をはじめ全てが電力で駆動されるため8倍の排水量を持つ大和級戦艦の3/4の発電能力である。発電機は機関室前方の両舷の発電機室に各1基、中央軸の2機関室に各2機ずつ配置される。

5.3 舵

舵は2枚舵で中央軸後方に推進器を挟む位置に配置する。推進器後流を避け効率を上げるとともに、冗長性を高める。舵取り機室は喫水線上の航空機格納庫の後方に設ける。



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