1. 基本構想
本級の基本構想は、対米決戦とそのための漸減作戦しか頭になく、島嶼防衛やそのための兵站補給・船団護衛・シーレーン確保の重要性を顧みず、結果として目ぼしい民間船を船員共々片端から徴発し、護衛もせずに輸送任務に当たらせた挙句、ことごとくを撃沈されるとともに船員たちに海軍軍人よりはるかに高い7割もの死亡率をもたらしたのみならず、戦後は徴発・撃沈された民間船に賠償も行わず、死亡した船員に遺族年金も支払わなかった「大日本帝国バカ海軍」(略して日本バ海軍)へのアンチテーゼである。
その目的は艦隊護衛でも敵艦隊への攻撃でもなく、海上輸送の動脈である輸送船、特に武装を持たず脆弱で軍人年給も支給されずに生命を賭して輸送任務に当たる民間船員たちによって運行される民間輸送船を最大限敵の脅威から守るという、本来海軍にとって最も重要な任務を全うすることである。そのために「本来任務」以外の目的(艦隊型の運用)には意図的に使いづらくする一方、護衛や輸送という戦前の建艦計画ではあまり想定されなかった役割を効率的に実施可能なものとする。もちろん現実の戦闘結果をもとに、効果的だったであろう仕様を後知恵で盛り込むというこのシリーズの方針は踏襲する。
1.1 設計方針
建艦の目的は以下のようなものである。
- 船団護衛・輸送用2等駆逐艦(ただし排水量は1,000tを越える)
- 対潜能力を重視(輸送船・民間船への最大の脅威が潜水艦)
- 対空能力を重視(高角砲、長距離機銃、射撃管制システム)
- 物資輸送能力を重視
- 航続力・低燃費を重視(松型の2倍弱@同量の燃料)
- 量産性・低コストを重視し建造数を確保
- 抗胆性・生残性を重視し損耗を局限
以上の実現のため、以下のような性能上の特徴を持つ。
- 対潜能力が非常に高い。
- 防空能力が相当高い。
- 輸送能力が高い。
- 低燃費かつ大航続距離。
- 建造が容易で隻数を確保できる。
- 生残性に優れ、乗員の安全性も高い。
- 沈没船の乗員の救助能力が高い。
- 水雷装備はおまけである。
- 低速で艦隊護衛・攻撃には使いづらく、船団護衛に回さざるを得ない。
1.2 特 徴
- 簡易船形
- 単動低出力ディーゼル:艦本型22号改内火機械(架空)
- 簡易輸送機能:艦尾を広幅トランサムスターンとし、格納庫・ハッチを設け発動機艇・輸送ドラム缶などを迅速発進。爆雷投下軌条を併設
- 意図的な低速により、艦隊護衛に使い難く船団護衛に優先使用
- 探知・見張り能力強化(潜望鏡探知用レーダー、見張り台)
- 前方投射型対潜兵器(ヘッジホッグ類似の対潜ロケット弾。敵の上にいかなくても攻撃可能)
- 側方爆雷投射装置(投下だけでなく投射可能)
- 音響追尾魚雷に対する防衛設備(米海軍には音響ホーミングの対潜用魚雷有り)
- 12.7cm高角砲を主砲に:照準装置の改良で対空射撃力を大幅向上
- 35mm高角機関砲(長射程)
- 20mm単装機銃(装弾数100発、連続射撃可能)
1.3 基本スペック
●船 体
排水量:基準1,500 t、公試1,750 T、満載1,900 T(松型2割増)
寸 法:全長105 m、全幅9.8m
●兵 装
主 砲 :89式12.7cm40口径高角砲:3門(単装1基・連装2基)
高射射撃指揮装置:1基(光学照準・電探測距、高度変化対応型)
長機銃 :35mm70口径高角機銃:12門(連装6基:前方中心1、後方中心1、左右舷2)
機銃管制装置:2基(光学照準・電探測距、前方1、後方1、各機銃3基を管制)
短機銃 :20mm2号機銃 単装20基 20門(ドラム装弾数100発)
魚 雷 :53cm魚雷発射管:6門(6連装1基 予備魚雷なし)
噴進砲 :12cm30連装4基(対空・対潜両用。対空弾および対潜弾切替え)
機銃管制装置(対空時:対空諸元を利用可能)
発射管制装置(対潜時:探信儀の測定諸元を利用可能)
爆雷投射装置:4基・即応爆雷12個
爆雷投下軌条:2連・爆雷80個(海防艦と同数)
水中聴音機 :4式聴音機、3式探信儀
電 探 :対空13号改・対水上電探22号改(潜望鏡に対する感度改良)
●機 関
主機 :ディーゼル8基2軸 18,800 SHP(艦本式22号10型改 過給機付き 2,350 SHP)
速力 :27.0 kts
航続力:6,000 nm / 18 kts (松級の1.7倍)
燃料搭載量:400 t(松型とほぼ同量。重油・軽油・灯油いずれでも可)
2. 兵 装
2.1 主 砲
それまでの日本海軍駆逐艦の平射砲ではなく、松級と同様89式12.7cm40口径高角砲を主砲として採用し、併せて高射機能のある射撃管制装置で管制することで完全な対空射撃力を確保する。単装砲架を艦首に1基艦尾に2基の3門を配置する。連装砲架を前後各1基の計4門とし、松級より1門増加している。長10cm砲は生産性も低く、かつ秋名級巡戦・風不死級重巡・幾春別級軽巡・織姫級駆逐艦などに大量装備されるため、量産された12.7cm砲を採用する。砲架には重量増加を偲び砲塔型防盾を装備する。耐候性の確保もあるが、最大の理由は機銃掃射や炸裂弾片からの砲員の保護、それに伴う継戦能力の確保である。
対空能力で重要なのは砲熕以上に射撃管制装置であり、管制装置の改良により大幅な命中率の向上を図る。高射機能を備えた両用方位盤はマック式後部檣楼の最上部に設置され艦の全周を照準可能で、前後主砲を管制する。両用方位盤は光学照準と13号電探改良型による測距を行い、射撃盤は高度変化も含めた3次元の標的演算を行う点は上級艦と同様である。
2.2 長機銃
長射程機銃として35mm70口径連装機銃(架空仕様)を6基12門搭載する。前後の中心線上に各1基、両舷側に各2基のヘキサゴン配置であり、首尾線方向を始めとした射界確保を重視している。射撃管制装置を前後に各1基ずつ配置し、前部管制装置は前方3基の機銃を、後部は後方3基を管制する。この管制装置は対空噴進砲の管制にも用いられる。高角主砲と併せ艦の全方位に対空管制射撃を可能とし、防空能力を確保する。全体を弾片防御用防盾で覆い、12.7mmの機銃掃射程度では反撃力を失わないようにし、継続的な戦闘力維持を図る。
2.3 短機銃
短射程機銃として、艦艇用で一般的な25mm機銃ではなく、航空用の20mm 1号機銃を単装で装備する。これは25mm機銃では装弾数が15発と少なく、敵機が接近して命中が期待できる頃には弾倉を撃ち尽くしてしまう事態を生じがちだったためである。航空用20mm機銃の場合、100発入りの回転弾倉を装備可能なため、近距離までの連続射撃により射弾修正を行い、命中率の向上を期待できる。射程と命中威力は25mm機銃より劣るが、実質的な命中率向上と軽量性を重視する。また大戦後半では航空用には2号銃が主用され1号銃は余剰が想定されることも(後知恵としての)理由である。ただし艦載運用では空冷効果が低く、その状態で連射すれば銃身過熱を招くため、予備銃身の搭載が必要である。軽量小型であることを活かして艦全体に極力多く搭載し、近距離での対空能力を発揮する。
2.4 対空・対潜噴進砲
実在した30連装噴進砲の改良型である。改良点は以下の通り。
- 弾頭の交換により対空・対潜どちらにも使用可能
- 対空用として使う場合、長機銃用の電探併用射撃盤の諸元を利用して正確な測距・照準が可能。
(発射機は前部主砲の前方と後部主砲の後方に各1基ずつ装備し、それぞれ両舷への発射が可能である。)史実の対空噴進砲では時限信管のため発射タイミングの判断が最重要であったが、本改良型では電探による正確な測距を併用するため命中確率はかなり向上すると推測される。また噴進砲は撃墜の実効以上に、盛大な噴煙を伴う飛翔による威嚇・牽制効果が大きかったと言われ、撃墜できずとも船団への攻撃を食い止める効果を期待できる。前方発射機は長機銃用の前方管制装置、後方発射機は同後方管制装置の射撃諸元を基に照準され、操作員は角度通信機の指示に基づいて発射機を指向、距離情報に基づいて発射タイミングを決める。
高角主砲・長機銃・短機銃・噴進砲で4段階の対空火力網を構成し、有効な管制装置も装備することで陽炎級までの日本駆逐艦とは別次元の防空能力を持つ。電探測距と3次元計算の管制装置が適切に機能すれば、94式高射装置を用いた秋月級防空駆逐艦を上回る防空能力を発揮する。
2.5 魚 雷
魚雷は小型の53cm魚雷発射管を6連装1基装備する。これは松級駆逐艦に要求され、その後威力不足として61cm発射管4連装に改められた当初案と同じである。理由は、艦隊型駆逐艦のような敵艦殲滅より、護衛駆逐艦として敵を牽制・無力化し船団の安全確保を優先するため、威力は低くとも射線数を多くして命中確率を高めるためである。本級は「輸送船・民間船を守る」ための艦であり、「敵艦艇を倒す」ための艦ではない。
発射管の位置は全長の中央付近の中甲板であるが、本級は船首楼が後方まで伸びた構造であるため、船首楼の内部に格納された状態となる。左右舷側に巡洋艦のような開口部があり、ここから指向して発射する。開口部は重巡に見られるような縁を舷外に折り返した構造ではなく、単純に長円形に切り取った構造である。次発装填装置はなく、搭載魚雷は全6発である。艦内に収納された状態のため耐候性に優れるほか、上甲板がスプリンター防御の役目をし魚雷に銃弾・弾片が当たり誘爆する危険を低減する。誘爆時は駆逐艦の排水量では耐えるべくもないため、誘爆時の爆圧拡散より誘爆させないことを優先する。
2.6 対潜兵器
対潜能力は本級の武装で最も重視した点である。
太平洋戦争における最大の敗因は、南方諸島からの物資を日本へ運ぶシーレーンを潜水艦により攻撃され、全戦争期間を通じて3000隻以上の輸送船を沈められ、資源不足となって艦艇や航空機の運用もままならなくなった点にあった。特に太平洋戦争終盤、潜水艦により日本空母のほとんどが撃沈され輸送船の被害も多かった一方、日本の駆逐艦は十分な対潜能力を持たず被害の拡大を招いた。この生命線であるシーレーンを特に潜水艦の脅威から守り抜くことが本級の最大の開発目的である。
対潜能力の不足原因として、探知能力不足と前方投射型兵器欠如の2点が挙げられる。このため電探・聴音機・探信儀を統合した水測管制システムと、爆雷のみに頼らないヘッジホッグ類似の対潜噴進砲を搭載し、対駆逐艦用の誘導魚雷さえ備えた後期の米潜水艦に対しても有効な対潜能力を付与する。当然ながら、太平洋戦争当時の日本の技術力+αで実現可能な範囲で構想を行う。
2.6.1 対水上用電探
大戦後半において米潜水艦が日本艦船に対し多大の戦果を挙げた最大要因は、レーダーを使用して日本艦艇を遠距離から探知し浮上航行による追跡で攻撃点に占位したこと、他の潜水艦に無線で連絡し共同攻撃を実施したことによる。太平洋戦争当時の潜水艦はあくまで可潜艦であり、行動時間のほとんどを浮上航行し、攻撃のため接敵(待ち伏せ)時のみ潜水する。したがって浮上状態でこちらを捜索・追跡している段階でその存在を発見することが最重要であり、そのために対水上レーダーによる捜索・発見能力が不可欠である。
電探は浮上状態だけでなく潜望鏡の発見にも有用であるが、史実の日本海軍の22号電探は発信器を船体に固定し、送受波器へ至る円筒状の導波管を垂直部で回転させ探知方向を変えた。このため探知方向を変えると偏波面の角度も回転してしまい、偏波面が水平になると垂直な潜望鏡に対する感度低下が危惧される(出典:)。このため発信器と送受波器を同一架台上に載せ、常に偏波面が垂直となるよう改良して潜望鏡の探知感度を最大化する。
2.6.2 聴音機・探信儀
聴音機・探信儀はASWにおいて最も重要な装備である。橘級(改松級)と同様、最新の3式探信儀と4式聴音機を装備し、設置用に艦底部に直径3mの平面部を設ける。聴音機の探知方位・強度および探信儀の探知方位・距離は角度通信機により逐次下記の管制装置と対潜兵装操作盤へ送られ、状況把握と迅速正確な攻撃に役立てる。
聴音機室は前部主砲弾薬庫の直前に配置し、火薬庫冷却機を利用して高温海域においても適切な空調を維持する。長時間神経を張りつめる聴音手に対し、快適な環境を提供することは間接的に探知能力の向上に資する。なお優秀な聴音手は重要な人的資源であるためその安全策に留意する。聴音室は喫水直下の船体中心に配置し、砲弾等の被害を受けにくくする。また脱出経路の確保には慎重を期し、弾薬庫方向(後方)と露天甲板への脱出トランク(上方)の2系統を用意、さらに脱出トランクは周囲より厚板とし抗胆性を高める。間違っても「聴音室の外側からボルト締めして閉じ込める」ような出入口とはしない。
2.6.3 対潜管制装置
防空能力と同様、対潜攻撃においても測的・状況判断・指示を含む攻撃の管制機能が最も重要である。命中させられなければ高性能な火器も価値がない。そのために複数の観測手段から得られた敵潜水艦の位置情報を集約し、それを兵装側に伝え、命中を期する手段としての管制システムが重要である。対潜戦闘の指揮室を設け、ここに態勢表示装置を設置する。角度通信機により、上述の聴音機からの探知方位・強度情報と、探信儀からの探知方位・距離・深度情報が逐次表示され彼我の態勢を把握する。これに基づく照準情報は対潜噴進砲、爆雷投射装置、爆雷投下軌条、艦橋に逐次表示され、操艦を含めた対潜戦闘を効果的に行えるようにする。
2.6.4 対潜噴進砲(対空両用型)
日本海軍の対潜兵器には前方投射型のものがなく、わずかに15cm 9連装噴進砲が大戦末期に試験されたのみであった。英国・米国では24連装の対潜迫撃砲であるヘッジホッグを実用化し大きな成果を挙げていることから、本級でも架空の対潜兵器として対潜噴進砲を搭載するものとする。この12cm 30連装対潜噴進砲は対空用の12cm 30連装噴進砲(当初の28連装から改良型は30連装となった)の発射機を流用し、弾体を対潜用に交換したものである。12cmではやや弾頭威力不足だが、多連装であることから命中公算は大きいこと、対空用からの改良が容易であるため採用した。ただし対空用に比べ射距離はごく短くて済むため、推進剤は減らしその分弾頭重量を大きくして威力を増加させる。
発射火炎の相互影響を避けるため艦橋側方と後檣側方に各2基の合計4基設置される。対潜管制装置からの指示により方位・射距離を調整し発射される。この噴進砲は発射火炎により発射機が高温となり再装填に数分を要する点が問題とされたが、対潜戦闘では対空戦闘ほど迅速さは求められないので大きな問題にはならないと考えられる。艦の前後に装備されているので、1方の使用中に他方を装塡可能である。弾頭は圧力信管ではなく着発信管とし、命中しない限り爆発しない点はヘッジホッグと同様である。これは爆発の有無で命中・失中を明確に判断できること、失中時に不要な爆発・気泡で探信儀・聴音機の機能を妨げず迅速に連続攻撃を行なうためである。
ヘッジホッグは1発が命中すると他の弾頭も爆発する。これは着弾パターンが数珠繋ぎで弾頭同士の距離が5mと近く、衝撃波により隣接弾頭が連鎖的に誘爆していくためである。本噴進砲では着弾位置は5m間隔の碁盤目状で、着弾範囲は25m×20mの長方形で、同様に1発の命中により隣接する弾頭が連鎖的に誘爆し敵潜を破壊する。(砲弾は全6斉射分180発を搭載定数とするが、これは発射機が高熱により溶融するなど、余り多数回の攻撃は困難なためである。)
2.6.5 爆雷投射装置
近距離への投射兵器として爆雷投射装置を両舷各2基、計4基装備する。これも管制装置からの目標方位・距離が投射機へ伝達され、正確な位置に投弾できるようにする。
2.6.6 爆雷投下軌条
艦尾格納庫内から発動機艇発進用スロープを通じて投下軌条を設置し、艦尾ハッチから投下する。搭載爆雷数は格納庫スペースを活用して120発と駆逐艦としては相当多い。これに投射機用の即応弾が各3発計12発加わる。他の駆逐艦も後期になる程爆雷搭載数を増やしており、対潜戦闘の必要性が高まっていたことを示している。
3. 防 御
駆逐艦である本級の防御力は間接防御に依存し、機関冗長性と人員被害削減の2大要素からなる。
その最大の効果は、ディーゼル主機によるシフト配置からもたらされる。松級駆逐艦においては日本艦艇として初めて完全な機関のシフト配置が実現され、前方から缶−機−缶−機と配置された機関部により、被害を受けても片舷軸により航行し生還可能な例が増えた。本級では8基のディーゼル主機を左右2基並べた単位を前後に4列配置し、それぞれを別室に格納するため更に被害分散が徹底されている。4機関室のどれか1つでも生き残ればそれにより航行が可能であり、それを確実にするため上級艦と同様に減速機水没時の遠隔操作機能を装備する。加えてディーゼル機関は蒸気タービンと異なり被弾時に水蒸気爆発の危険がなく、特にそれに伴う機関科員の死傷を防げる。駆逐艦は直接防御がないため機関に直接被害を受けることが多く、このメリットは特に大きい。
機関室の左右は燃料タンクを配置した二重構造とし、防御力を高めている。ディーゼル機関は比較的幅が狭いことを利用した配置である。(爆雷の項で説明したように爆雷は艦尾格納庫内・発動機艇発進通路に搭載するため、敵の機銃掃射や炸裂断片による誘爆を起こしにくい。)
間接防御の中でも乗員の死傷を極力防ぎ、戦闘力とダメージコントロール能力を維持することを重視する。機銃座は航空機の機銃掃射で真っ先に標的とされ死傷者が多いため、重量・重心面の不利を偲び極力防盾・遮蔽板を設置する。長機銃は全機銃座に防盾を設置し弾片防御を行い、短機銃座も両舷のものは前檣・後檣の側面に配置し、後方を檣楼で遮蔽することで背後からの被弾を防ぐ。また機銃座前面には遮蔽板、上方に天蓋を設け機銃掃射に備える。露天甲板や上部構造物に極力ショットトラップを設け、銃弾・断片の反跳を防止する。人員が配置される場所には極力遮蔽物を設置し、特に後方が暴露されないよう配慮する。
4. 機関・航海
4.1 機 関
速力は意図的に30kts未満に抑え、艦隊型駆逐艦として使い難くする※)。これはシーレーン確保という本来海軍にとって最も重要な役割を理解できていない日本馬海軍に、艦隊用として使用され船団護衛がおろそかになることを避けるためである。本級はあくまで輸送船や商船などの海上輸送の主役を、敵潜水艦・航空機などの脅威から護衛することが最大の目的である。
※)実際には単動ディーゼルでは高速力の実現が無理だったため。
主機として航続力・燃料節減を重視して全ディーゼルとするが、上位艦で用いてきた15号内火機械は2サイクル複動ディーゼルであるため構造複雑で量産性が悪く、大量生産型の松茸級駆逐艦には不適である。そのため構造が簡便で製造性も整備性も(相対的に)良好な、4サイクル単動ディーゼルである22号改10型内火機械(過給式)を用いる。4基を1台の減速機で結合して1軸を駆動し、これを前後にシフト配置した2軸推進とする。4サイクルで掃気ブロア不要のため比較的省スペースである。単基で2,350 SHP、8基合計18,800 SHPである。出力自体は松級駆逐艦と同等で排水量は2割ほど大きいが、艦首のバルバスバウ化により抵抗減少を図り、最大速力は同等の27.0 ktsである。全長が大きいのはディーゼル機関を前後4列に配置し機関区画長が長くなったためでもある。各機関室には同じ2号改3型による発電機を1台ずつ計4台分散配置し被弾時の冗長性を確保する。
ディーゼル推進のため航続力は大きく6,000 nm/18 kts、これを3,500 nm/18 ktsの松級と同量の燃料400 Tで実現する。松級に当初要望された航続力を、燃料消費量は増やさずに機関効率向上で実現した。この航続距離は高速連続航行の余裕を与えるため、鼠輸送や水道における敵潜水艦の待ち伏せ回避にも有利である。当然、省燃費性により燃料事情の厳しい日本海軍において行動の自由度が上がる。
なお、この架空スペック22号改型内火機械は秋名級巡戦や風不死級重巡のターボブロア・発電機駆動用にも使用される多燃料切替機関である。噴射バルブの調整により、重油・軽油・灯油どの燃料でも運転可能であるため、戦時中に重油・ガソリンが過剰消費され軽油・灯油が余剰となった状況において、余剰油を燃料として使用できる。秋名級巡戦や風不死級重巡では補機駆動用だったため軽油による代替量は重油の最大15%だったが、松茸級では主機として用いているため必要なら全燃料を軽油・灯油とすることが可能である。機関室側面の燃料タンクに対しては、従来の蒸気管に替えて機関冷却水を利用した加温装置を設置し、北方の低温海域において重油の流動性を確保する。排熱利用のため若干の燃料節約になる。またディーゼル機関は重質油への適応性が蒸気タービン(ボイラー)より劣るため、低質重油を使用する場合に備え、冷却水を使用した燃料予熱装置を装備する。
ディーゼルであるため機関出力の増減は蒸気タービンより迅速であり、対潜水艦戦における停止・高速移動などの機動に有利である。ただし後進タービンを装備するタービン艦に比べ後進への切り替えに時間がかかるため魚雷回避などに不利を生じる可能性はあるが、日本海軍では回避運動はあくまで舵によって行い機関逆転は使用しなかったと思われる。
ディーゼルは振動・騒音がタービンより大きく、対潜戦闘で不利になる可能性はある。このため次に示す防振マウントによる静音化を実施する。
4.2 防振マウント
本級の最大の役割は対潜能力であるが、騒音の大きいディーゼル推進であることは対潜戦闘で大きな欠点となる。そこでディーゼル機関本体を硬質ゴム製の防振マウント上に設置し、水中放射雑音を低減し敵潜から探知され難くする。
各主機毎に防振マウント上に設置、ここからユニバーサルジョイントを介した軸で減速機に接続する。これは主機が低出力の22号改であるためと、減速機前の低トルクの軸であるために可能である。主機同様にディーゼル発電機も防振架台上に設置し騒音の水中伝播を抑制する。更に機関室内壁に吸音材を貼付け機関からの放射雑音を低減する。
これらの対策により機関部からの騒音・振動を蒸気タービン艦よりも小さなものとする。これにより敵潜からソナーにより探知されにくくすると共に、自艦の水中聴音機の効力を最大化し探知能力を向上させる。
4.3 舵
舵は上下長の長い半釣合舵を1枚装備し、面積が大きくアスペクト比も大きいため効きが良く、回頭性に優れる。本級は艦尾に格納庫があるため舵の直上には舵取機室を設置できない。前方に舵取機室を設け、ここから鎖チェーンにより舵軸を操作する。よって格納庫にいると転舵の都度チェーンの音が聞こえる。
5. 船体
基準排水量は1,500tと松級駆逐艦よりは大きく排水量からは1等駆逐艦に分類されるが、必要な能力を確保するにはこの程度の船型が必要と判断した。また簡易船形の採用や低強度材料の使用により同じ仕様でも重量は若干増加する。
5.1 船体一般
船形は駆逐艦として一般的な長船首楼型であるが、船首楼部分がかなり長く後部主砲等直前まで続いており、船内容積を大きく取っている。これは本級が輸送機能を持ち、艦内格納庫をはじめとして船内容積を必要とするためである。また艦尾ハッチや多くの発動機艇・短艇を搭載する本級は沈没艦からの乗員救助にも有用であり、救助した人員の収容、負傷者の治療スペースの確保などの点からも艦内容積が必要である。戦時急造艦ではないが、建造費・資材・工数を抑え、護衛駆逐艦として必要な数を揃えることが重要なため、改松級(橘級)に準じた簡易船型とし、鋼材の質も落とす。
船首楼をそのまま船体後半まで伸ばせば重量過大を招くため、艦橋より後方ではフレアーをなくし、中甲板から上甲板にかけて上すぼまりのタンブルホーム形状とする。これにより重量を節減するとともに、横風を逃しやすくし荒天下における実質的な風圧側面積を減少し復元性を良好とする。船体横断面は直線で形成されるため、舷側の中甲板レベルに明確なナックルラインが生じる。船首楼の後端は段差とせずに連続した斜面とし、露天甲板の応力をそのまま伝える構造として重量を抑える。
5.2 多目的格納庫
構造上の大きな特徴は、艦尾に多目的格納庫を設置しここに物資・小型発動機艇を収容し、艦尾のスロープ付きハッチから海上へ迅速に物資を搬出可能で、高速輸送船としての機能を持つことである。多くの島嶼を持つ南太平洋海域において、敵の脅威下で前線基地へ物資を運搬するには高速で小型の駆逐艦が有用なことは明らかで、実際にそのように使われた駆逐艦が多かったが本級は最初からそれに対応した設計とする。
この格納庫と発進用スロープは通常時は爆雷格納・投下軌条の設置スペースとしても使用される。また必要に応じて機雷の格納・設置に用いることも可能で、機雷施設艦としての利用も可能である。格納庫は一種の多目的スペースであり、通常は発動機艇・短艇および爆雷を搭載するが、必要に応じて輸送物資の搭載、場合によっては輸送人員の居住スペースとしても使用する。このほか船首楼後端部にも多目的スペースがあり、これは船首楼後端の段差部に水密ハッチを持ち後部露天甲板への物資の出し入れが容易である。この区画は動揺も少なく、沈没船救助などの緊急時には負傷者の医療スペースとしての利用を想定している。これらの人員・貨物収容スペースは、戦後に復員船として利用される場合にも有用である。
上部構造の舷側部、艦尾近辺にはクレーンを配置し、物資や短艇類の積み降ろしの便を図る。
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