1. 概 要
1.1 概要および主要諸元
駆逐艦織姫級は艦隊型1等駆逐艦であり、対艦・対空・対潜の能力をバランス良く備えた艦である。
旧来の日本海軍駆逐艦が対艦特化型であること、秋月級は防空特化型であるのとは異なり汎用型といえる。また艦隊の行動の制約要因となる航続距離は大幅に増加し正規空母と同等、それまでの戦艦・重巡より長いため、作戦上の自由度が高くなる。戦場ではどんな状況でどんな敵と遭遇するか不明であり、あらゆる状況下で能力を発揮可能な汎用性を重視した。
コンセプトは以下の諸点である。- 艦隊型汎用1等駆逐艦
- 対空能力を重視
- 対潜能力を重視
- 大航続力(秋名級巡戦、風不死級重巡に同行可能)
こうした汎用性を実現するための技術上のポイントは
- 高角砲を主砲とし、重量増加なしに対艦・対空火力を両立
- 噴進砲を改良し対空・対潜両用に使用
- 35 mm長射程機銃を採用し、近距離では魚雷艇などへの攻撃力も確保
- ディーゼル機関を主機とし、低燃費と大航続力を実現
- 主砲・長機銃とも電探併用の高性能管制装置を使用
- 高性能な探信儀・聴音機を採用し、諸元を対潜兵器の管制に使用
- 水雷兵装は次発装填装置を廃止し若干妥協
- 速力も夕雲型と同等とし高速化は妥協
- 排水量は基準2,250tと夕雲型よりわずかに大型化
などである。
駆逐艦(Destroyer)の本来の目的は艦隊に攻撃してくる魚雷艇を駆逐(Destroy)することであるが、本級は魚雷艇・航空機・潜水艦など多様な脅威を駆逐する、語義通りの駆逐艦といえる。
排水量 | 基準2,250 t、公試2,800 T、満載3,050 T |
寸 法 | 全長、全幅 |
主 砲 | 10cm 65口径高角砲 6門(連装×2・単装×2) |
主砲高射射撃指揮装置 | 光学・電探併用型1基(後部)、94式1基(前部) |
長機銃 | 35mm 70口径 連装11基 22門 |
長機銃管制装置 | 3基:前方1、中央1、後方1 |
短機銃 | 96式25mm 60口径 単装24基 24門(銃側目視照準) |
魚 雷 | 61 cm魚雷発射管5連装2基 10門(予備魚雷なし) |
対空・対潜噴進砲 | 12cm 30連装 4基 対空噴進砲の改造型。機銃管制装置および探信儀の測定諸元を利用可能 |
速 力 | 35.5 kts |
機 関 | ディーゼル6基2軸 54,400 SHP 艦本式15号内火機械:2型×4、10型×2 |
航続力 | 10,000 nm / 18 kts |
燃料搭載量 | 700 T |
1.2 背景および構想
本級の基本構想は陽炎級(夕雲級)の後継となる標準的な艦隊型駆逐艦である。史実としては陽炎級の後継として島風が建造され、また別系統の防空駆逐艦として秋月級が建造された。島風は15門という強力な水雷兵装とそれを活用するための39 ktsという高速力を実現した日本海軍伝統の艦隊決戦型設計であり、言い換えれば第2次大戦の新しい戦闘局面である対空戦・対潜戦に対応できない役立たずの艦であった。
一方秋月級は元々駆逐艦とは別種の防空直衛艦として計画され、高性能な高角砲を8門搭載し8,000 nmの大航続力と相応の対潜能力を持った有用な艦であった。しかし初期の軽巡洋艦に匹敵するほど艦型が大型化、日本海軍伝統の複雑な船体構造と相まって建造性が低く調達数確保に難点を抱えた。また速力も33 ktsと巡洋艦より低速となった。また最大特徴である対空能力も、主砲は優秀だが射撃指揮装置の性能は米海軍にはるかに及ばず、有力な中間射程の機銃も存在しないなど決して十分とは言えない。相対的に日本海軍艦艇としては有効な防空能力を発揮したが、絶対的には米海軍のような航空機を駆逐・撃破するほどの能力は有していない。
本級はこうした史実の駆逐艦の問題を是正し、第2次大戦の日本海軍において最も有用となる性能を具備した艦隊型駆逐艦を構想する。特型から島風に至る日本駆逐艦は、敵主力艦撃破のため強力な雷装を基本とし、結果第2次大戦で重要となった防空・対潜能力が不足、更に実戦で生残性も不足した。魚雷による敵主力艦撃沈という一発芸に特化し過ぎ、艦隊のワークホースとして要求される多様な任務への対応能力が不足していた。
加えて個艦性能の追及に執着し過ぎた結果量産性が低く、戦時下の急激な消耗に対して建造が追いつかなかった。一方米海軍は全ての艦種において量産性に配慮し、それを巨大な工業力・経済力で建造したためフレッチャー級駆逐艦は全175隻竣工するなど日本の数の劣勢はより顕著だった。この格差を縮めるには、高い量産性と生残性の向上は必須である。
本級で実現しようとする目標は以下のようなものである。
- 排水量は2,000 t強で陽炎級・米フレッチャー級と同程度とする。
- 汎用性が高く、対艦・対空・対潜のいずれにも相当の能力を発揮する。
- 防空能力が非常に高い。
- 対潜能力が相当高い。
- 対艦能力も、魚雷射線数で陽炎級と同等、砲撃力では速射性で優る。
- 航続距離が非常に長く、大航続力の秋名級・風不死級・大型正規空母に随伴可能。
- 低燃費・省資源。
- 生残性が高い。(損耗の多い駆逐艦の数を揃えるには、建造数と並んで損失しないことが重要)
- 建造が比較的容易で駆逐艦として必要な隻数を確保できる。
2. 兵 装
本級は対艦・対空・対潜の各兵装をバランスよく搭載する。限られた大きさの駆逐艦でそれを実現するキーポイントは「両用化」であり、主砲は対艦・対空の両用砲、噴進砲は対空・対潜の両用型である。一方で魚雷兵装は相対的に軽装備となり、5連装発射管2基により射線数は10門を確保するものの次発装填装置は廃止し、射線数・魚雷数とも島風の2/3である。
大戦後半に急激に脅威を増した米潜水艦に対処するため強力な対潜兵装も装備する。捕捉手段として対水上電探・水中聴音機・探信儀、攻撃手段として対潜噴進砲による前方投射能力・爆雷投射装置による側方投射能力・従来より搭載数を増加させた爆雷投下軌条を装備する。更に重要なのは指揮管制系統であり、捕捉した諸元を総合的に判断し攻撃兵器へ伝達することにより、警戒・発見・接敵・攻撃の一連の対潜能力を確保する。
2.1 主 砲
主砲は九八式10cm65口径高角砲を採用、2,250 tの基準排水量に対して上限の6門を装備する。連装砲塔2基と単装砲塔2基を2・1・1・2門の順で前後対称配置し、日本伝統の前方2門・後方4門とは異なる。これは対空射撃時に前後で分火する際の利便性と、魚雷攻撃実施時など敵艦隊へ突撃する際に前方火力が必要となるためである。米駆逐艦は戦争経過とともに前方の攻撃力が重視され前方4門・後方2門の配置となったが、これは重心の上昇をもたらすため本級では前後3門ずつとした。単装砲も砲塔形式とし発射速度向上のほか、砲員の安全を図るのは当然である。
高射射撃機能を持つ電探併用方位盤を前後に計2基装備する。1基しかないと後方目標を照準中は前部主砲が方位盤射撃できないなど火力の無駄が発生する。1基しか装備しなかった秋月級でも戦闘所見で前後主砲の分火のため2基装備が要望されている。
夕雲級までの日本駆逐艦は主砲が平射砲かつ高射射撃指揮装置との連携機能が無く対空能力を持たなかったので、高角砲を主砲とする本級の対空火力は大幅に向上する。
2.2 長機銃
長距離機銃として35mm 70口径連装機銃を7基、4連装を2基で計22門装備する。
装備位置はヘキサゴン配置を基本に連装を上部構造前後に計6基(中心2基、舷側4基)、艦尾中心線に1基、4連装を上部構造中央(2基の魚雷発射管の中間)に片舷に1基ずつ2基である。
2.3 短機銃
短距離機銃として25mm 60口径単装機銃を装備する。
2.4 魚 雷
魚雷は島風に搭載された61cm 5連装発射管を2基装備し射線数10本とするが、次発装填装置は持たない。
2.5 対空・対潜噴進砲
30連装対空・対潜両用噴進砲を4基装備する。両用噴進砲については2等駆逐艦松茸級において詳述する。
2.6 爆雷投下軌条・投射装置
爆雷の投下軌条および投射装置は松茸級駆逐艦と同様である。
2.7 水中聴音機・探信儀
3. 防 御
生残性こそ太平洋戦争において日本駆逐艦に最も求められた能力であった。小型で防御力の低い駆逐艦は被害により喪失しやすく、戦争が長引くに連れ数が消耗し作戦自体が実行困難となっていった。直接の戦闘はもとより島嶼部などへの物資補給にも使われるため、その損耗はボディーブローのように日本海軍の戦闘力を低下させた。したがって建造数の確保と同時に、戦闘において沈没せずに生還することは戦力維持の上で非常に重要である。
3.1 断片防御
小型の駆逐艦は直接防御を施せないため装甲鈑は持たないが、要所には主に人員の保護を意図したスプリンター防御を実施する。実戦を経験した乗員は極めて重要な戦闘資源であり、その保護を最大限重視する点は他の架空艦とも、また米軍艦艇とも共通する基本コンセプトである。
3.2 機関配置
機関で詳述するが、2軸を駆動する6基の機関を前後3室の機関室に分散配置し、2機関室までは破壊されても航行能力を失わないため生残性が高い。またディーゼル主機であるため被弾時の水蒸気爆発とそれに伴う機関要員の全滅を生じず、また動作流体としての蒸気(水)を必要としないため真水の喪失による機関の運転不能に陥りにくい。
4. 機関・航海
コンセプトで述べた通り本級は汎用性を重視した艦であり、それは魚雷攻撃に重点を置き過ぎないということでもある。特型以降の日本駆逐艦は強力な魚雷兵装を装備し敵主力艦を撃沈することを重視しており、雷撃の射点に占位するには高い速力が必須であった。そのため水雷型駆逐艦の到達点とも言える島風に至っては75,000 SHPの大出力で39 ktsという高速力を実現した。しかし航空機が主役となった現実の戦闘においては数ノットの優速は大きな意味を持たず、また潜水艦の脅威も増大した条件下では短時間の最大速度より長時間の巡航速度を高める方が重要であった。
こうした条件に適応すべく、本級は最大速度は陽炎・夕雲級の現状維持として多くを求めない一方、巡航速度や行動半径に直結する航続性能は倍増させる。そのためにディーゼル機関により燃料消費率改善を行い、単純な燃料搭載量増加は行わない点は他の架空艦と同様である。また日本駆逐艦の喪失原因は機関損傷による航行不能が多かったため、機関系の冗長性・抗胆性の確保も重視する。
4.1 主機・速力
機関は艦本式15号内火機械2型を4基、10型を2基搭載する。駆逐艦用であるため定格出力を1気筒当り800 SHP、2型で9,600 SHP、10型で8,000 SHPとし、合計54,400 SHPで35.5 ktsを発揮する。前後3つの機関室に2基ずつ主機を配置し、3主機を1台の減速機で結合する。第1機関室は左舷軸用2型、第2機関室は左が左舷軸・右が右舷軸用の10型、第3機関室は右舷軸用2型を配置する。各機関室間に減速機室が配置される。機関室が前後3段になったシフト配置であり、かつ間に減速機室があるため機関全滅をおこしにくく、生残性が高い。
1機関室に2台の主機を横に並べ、その横に2台のターボブロア補機(艦本式22号改内火機械)を前後1列に配置して全部で横3列とし、機関室の前後長を節約する。補機の位置は第1機関室で右舷側、第2は主機に挟まれた中央、第3は左舷側である。ただしこの構成では機関室幅が船幅ギリギリとなり、機関室側方へ燃料タンクを配置することができず、機関室の防御力は若干犠牲とならざるを得ない。それでも機関がディーゼルであるため、被弾時に機関が蒸気爆発を生じることはなく生残性は相当高い。
4.2 航続力
燃費の良いディーゼル主機に加え燃料を700t搭載し、10,000 nm / 18 ktsという夕雲級の2倍、正規空母と同等の航続力を持つ。夕雲級が燃料600tで5,000 nm / 18 kts(計画値。実測6,000 nm)、秋月級の1,100tで8,000 nm / 18ktsと比較すると本級の低燃費と大航続力が明瞭である。艦隊の運用時に航続力の制限要因となるのは最も脚の短い駆逐艦であり、それが長大な航続力を持つことにより艦隊全体の機動性が大幅に高まる。艦隊の巡航速度が高まり潜水艦の脅威などへの対処力が高まる。秋名級巡戦・風不死級重巡と同様、補機が多燃料機関であり重油搭載量の最大15%を軽油・灯油で代替し燃料事情への柔軟な対応を可能とする。
5. 船 体
船体は松茸級と同様長船首楼型である。船首楼が従来の日本駆逐艦より長く、船体後半部まで伸びている。魚雷発射管も船首楼内部に格納される形となり弾片防御により誘爆の危険を減少させるほか、発射管上部のスペースを対空兵装その他に利用しやすくなる。船首楼の重量を節約するため艦橋後方はタンブルホーム形状となるのも松茸級と同様である。(駆逐艦の大きさではバルバス・バウは有効でないので採用しない。)
船体構造は松茸級に準じて簡易船型を採用し、極力直線的な構造として建造性を高める。船尾はトランサム・スターンで垂直な平面である。
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