大和級の一般的特徴
大和は,ワシントン軍縮条約により陸奥の竣工以来長らく新造戦艦建造のなかった日本海軍が,約20年ぶりに建造した戦艦である。その間の技術の進歩を反映して多くの新機軸が盛り込まれ,長門級とは全く類似点がないほど設計は異なっている。個艦優越主義を徹底的に追及した艦のため,史上初の18インチ主砲を採用し,排水量は一挙に長門の2倍となった。
主砲配置は連装砲塔4基から三連装砲塔3基に変更され,艦容は全くといっていいほど異なる。砲塔が3連装になったため,弾薬庫が2層から3層になった。副砲は当然砲郭式を廃止し砲塔式となった。しかもその一部を射界確保のため船体中心線上に檣楼の前後に配置したのは世界でも例がない。高角砲も改装後の長門と比べても5割増しとなった。
もっとも変化したのは防御方式で,2段防御から1段防御へ変更され,垂直装甲は20度の傾斜鋼鉄となり,艦底部まで水中弾防御が施されてこれが水雷防御も兼用する。水平防御は大幅に強化され,煙路にはコーミングアーマーに代わり蜂の巣鋼鈑が採用された。さらに艦底起爆魚雷に備えて世界で唯一弾薬庫の艦底に装甲を設置した。限られた重量で厚い装甲を設置するため,長門級はおろか加賀級にも増して集中防御が徹底され,全長に対する主要防御区画長の比率は日本の戦艦中最小である。また舵取り機室に主要防御区画と同等の装甲を設置した。
船体も艦首がそれまでの二重湾曲式に替わって艦首露天甲板の広い朝顔形の形状となる。さらに水線下は造波抵抗の低減のため球状艦首となったが,その張り出しの大きさは他に例を見ないものだった。船体の構造に一貫性を持たせ構造重量を節約するため,露天甲板は艦首から艦尾直前まで連続している。一方で不要部の重量節約と重心低下のため第一主砲塔部が低くなり,甲板が波打った独特の構造となった。檣楼もそれまでの6本の柱にやぐらを渡したものではなく,塔状構造になった。また上部構造全体の前後長が短くなり,さらに通風塔などを集約した結果露天甲板が非常にすっきりしている。
設計の当初から水上機の搭載が考慮され艦尾にカタパルト2基を設置し,さらに主砲の爆風を避けるため後部甲板下に飛行機格納庫を設けた。短艇類も爆風を避けるため艦内に収容される。舵は2枚を左右ではなく前後に並べる独特の形式を取った。
機関出力はほぼ倍増したが,排水量も倍近く増え,特に幅が大きくなったので速力は新造時の長門に比べ1kt,改装後に比べて2kt増加しただけである。幅が広いため4軸の機関系統を全て並列に並べ,しかも1基1区画にする世界でも例のない配置になった。
全体的な構成としてはアメリカのサウス・ダコタ級をそのままスケールアップしたような艦容であった。また船体形状もアイオワ級の全長を短く,幅を広くしたような形状である。これら3級は,外観や主砲配置だけでなく傾斜鋼鉄と水中防御など防御要領まで非常に似通っている。まったく独立して設計された日米の戦艦が,これだけ類似点の多い設計になったことは興味深いものがある。
主要要目
全 長 263m
喫水線長 256m
水線間長 244m
最大幅 38.9m
喫水線幅 36.9m
深さ(キールラインより
最上甲板側線まで)18.915m
喫水(公試状態) 前 部 10.4m
後 部 10.4m
平 均 10.4m
排水量(公試状態) 69,100t
排水量(満載状態) 72,809t
平均喫水 10.86m
重油満載量 6300T
航続距離 7200nm/16kts
速 力 27kts
軸馬力 150,000SHP
基準排水量(完成) 65,000T
乾 舷 前 部 10.000m
中 央 8.667m
後 部 6.400m
乗員数 計 画 約2,200
実 際 約2,500
機関要目
主機械 タービン4基
軸馬力 前 進 150,000SHP
後 進 45,000SHP
回転数 225 rpm
推進器直径 6.0 m
罐(重油専焼罐) 12基
蒸気圧力 25kgf/cm2
蒸気温度 325℃
推進器器数 4
主要兵装
摘 要 要 目
数 量 主 砲 46cm 45口径
3連装3基 9門
副 砲 15.5cm 62口径
3連装4基12門
高角砲 12.7cm(爆風除付)
2連装6基12門
機 銃 25mm(爆風除付)
3連装8基24門
13mm
2連装4基 8門
飛行機 水偵,観測機
6機
射出機
(火薬カタパルト)
2基
電波探信儀
(レーダー)対空見張り 2号1型(21号)
1基
(アンテナ2組)対水上見張り
〃 射撃管制2号2型(22号)
2基
対空見張り
〃 射撃管制1号3型(13号)
2基
水中聴音器
(パッシブソナー)
1組
探信儀
(アクティブソナー)
1基
測距儀 檣 楼 15m
1基
主砲砲塔 15m
3基
後部指揮所 10m
1基
副 砲 8m
4基
探照灯 150cm
8基