大和級の武装
主 砲
1.一般的な特徴大和は主砲に46cm(18.1インチ)45口径砲を採用し,これは戦艦史上最大の主砲である。射程距離は理論最大値で41,400m,砲塔の最大仰角43度では40,800mであり,イタリア戦艦ヴィットリオ・ヴェネト級の15インチ主砲の42,500mに次いで長い。砲弾は対艦用に日本海軍独自の九一式徹甲弾,対空用に零式通常弾・三式対空弾を用いる。長門の主砲はすべての仰角で装填可能な自由装填式だったが(実際には7度に固定して装填した),大和の主砲は仰角3度の固定装填式。発射間隔は約40秒であり,戦艦の大口径主砲は一般に30秒前後であるのに比べ,口径が大きくなったため発射間隔も長くなってしまった。
●九四式40cm砲の主要目
口 径 46.0 cm(18.11インチ) 砲身長 45口径(20.7m) 砲身重量 160 t 砲弾重量 1,460 kg(九一式徹甲弾) 砲弾長 1.9535 m (同 上) 装薬量 330 kg 初 速 780 m/s (2.3 Mach) 最大射程 41,400 m 艦載射程 40,800 m(仰角43°)
- 正式名称はディスインフォメーションのため「40cm砲」と呼称した。
- 口径は正味46cmであり,正確には18インチではないことに注意。
- 砲身長とは砲口から尾栓内面までの距離(薬室を含む)を口径の倍数で表したもの。
- 砲弾の速度は意外に低いことに注意。対空ミサイルよりは遅く,砲弾が飛んでいく(飛んでくる)様子は肉眼でも見える(光の点に見えるわけではなく,鉄の塊として)。
●威力一覧
射 距 離 20,000 m 30,000 m 仰 角 12°43'
23°12'
落 角 16°31'
31°21'
存 速 522 m/s
1.54 Mach475 m/s
1.40 Mach飛行時間 32 s
53 s
甲鉄貫徹力 垂直鈑 566 mm
417 mm
水平鈑 168 mm
231 mm
- 仰角は発射時の,落角は着弾時の水平面に対する角度。
- 垂直鈑に対する貫徹力は射距離の近い方が大きく,水平鈑に対しては遠い方が大きくなる。この理由は「軍艦の防御方法」を参照。
- 九一式徹甲弾を大和級以前の日本海軍の装甲鈑に命中させたときの貫徹力を示す。
- 九一式徹甲弾の甲鉄貫徹力は諸外国の徹甲弾に比べ相当劣っていた。
- 英米独の装甲鈑は日本海軍のそれより高品質であり,それに対する貫徹力はこの数字よりかなり小さくなる。
●主砲塔要目
俯仰範囲 -5 〜 +43 ° 発射間隔 40 s/round 旋回速度 2°/s 俯仰速度 10 °/s 砲身間隔 3.05 m ローラパス径 12.274 m 砲塔重量 2,774 t 甲鉄厚 前楯 650 mm
天蓋 270 mm
側壁 250 mm
後壁 190 mm
- 発射間隔は外国の戦艦に比べ約10秒長い。ただし長門級の主砲よりは若干短い。
- 旋回速度が遅いことに注意。正面から正横へ向けるのに45秒もかかる。艦の旋回速度よりはるかに遅いので,艦が回避運動などを行うと目標を指向できなくなる。
- 砲塔重量は超大型駆逐艦(秋月級)1隻分に相当する。
- 砲塔は船体のローラパス(巨大なスラスト荷重用ローラベアリング)上に載っているだけ。よって艦が転覆するとひっこ抜けて落ちてしまう。
- 日本海軍は遠距離砲戦を重視していたので,天蓋の装甲は諸外国の戦艦より100mm前後も厚い。ただし大和の主砲塔天蓋は若干前方に傾斜していて貫徹されやすくなっており,その分を差し引いて考える必要がある。
- 650mmという甲鉄厚は,近代軍艦史上もっとも厚いと考えられる。
大和は日本海軍で戦艦としては初めて三連装砲塔を採用した。大和は特に限られた排水量で最大の戦闘力を具備することが求められ,重量効率のよい多連装砲塔の採用は必然であった。三連装砲塔は二連装にくらべ1門あたりの重量が小さく,また砲塔数も減るために主要防御区画長を短くして排水量を節約できる。その一方で船幅の狭い1・3番主砲塔部に主砲3門分の弾薬を収納するため,弾薬庫は砲弾庫1層・火薬庫2層の計3層にする必要がある(連装砲塔なら各1層の2層ですむ)。このため主要防護区画の前後長は短くなるものの上下長が高くなるデメリットを生じる。実際大和では弾薬庫のスペースがぎりぎりなため舷側装甲内側の水防壁は1層だけで,魚雷を受けた際にこの水防を破られ弾火薬庫に浸水したことがある。この点については防御の項でさらに検討する。
艦の前部から2・3・3・2連装の4砲塔を配置する10門装備であれば,防御区画の前後長は伸びるものの弾薬庫は2層ですむため垂直装甲の上下長が減って重量を節減でき,三連装3基とほぼ同じ重量で1門余計に主砲を搭載可能だったといわれる。この配置は平賀譲造船中将が強く進言した方式だったが,2種類の砲塔を設計・製造する困難さから実現されなかった。
同時期のアメリカ海軍のノース・カロライナ,アイオワも大和同様三連装3基の配置となっており,諸般の事情を考慮するとこの配置は合理的であったと考えられる。イギリス・フランスは重量効率を重視して四連装化を推進した。ドイツ海軍は連装砲塔に固執したが,これは2層防御方式のため弾火薬庫を3層にできなかったためと思われる。
大和の46cm主砲は,散布界がかなり広く命中率が低かった。従来日本海軍はドイツ海軍とともに射撃精度については優秀だった。特に砲弾の散布界は諸外国に比べかなり狭く,高い命中率を誇っていたといわれる。しかしこれは大和の主砲には当てはまらなかったようである。
タウイタウイ島での射撃訓練中,大和および武蔵の主砲散布界は35,000mの大遠距離射撃とはいえ800〜1,000mに達した1)。横を向いた戦艦に対する命中界は遠近50〜60mであるから,挟夾しても命中率5〜7%程度と推測される。長門の主砲が射距離20,000mで散布界250m程度,命中率は25%に達したことに比べ,大和級の命中率はかなり低かったことになる。方位盤射手も砲塔に若干のゆがみを感じていたといわれ,史上初の大口径砲に,戦艦としては日本海軍初の三連装砲塔を採用した結果,砲塔の工作精度が低くなった可能性が高い。1921年の陸奥の竣工以来20年間戦艦の建造が無く,大口径砲製造のノウハウも低下していたと考えられる。もっとも散布界の広さはアメリカ海軍も同様であり,アイオワ級は遠近600m,左右200m前後だった(射距離不明)。
大口径砲の利点として,相手の主砲の射程外から一方的に攻撃するアウトレンジ戦法が可能になるという説があるが,これは実際には不可能である。それが可能なのは最大仰角が15度程度だった第1次大戦頃で,第2次大戦においては最大仰角が40度前後となったため,最大射程では弾道は高い放物軌道となりまず命中は期待できない。第2次大戦における艦砲の最遠距離の命中記録は23,400mといわれる。したがって大和が戦闘に際して相手の射程距離外から砲撃を行ってもほとんど実効性がない。
また破壊力については,大和の主砲は砲身長が45口径であるが,アイオワ級の主砲は16インチ(40.6cm)ながら50口径であり,口径と砲身長から計算される貫徹力に大きな差はない。また九一式徹甲弾は水中弾道を考慮した設計や工業水準の低さなどにより,貫徹力が諸外国の徹甲弾より相当劣っていたといわれる。単位時間あたりに投射できる砲弾の重量も破壊力の重要な尺度であるが,大和は口径が大きいため1斉射あたりの発射重量は大きい反面,発射間隔が長いので発射弾数は少なく,トータルでの砲弾重量の差は1割程度である。
直観的には46cm砲は40.6cm砲より当然強力なように思えるが,口径以外の諸要因を検討すると大和級の主砲がアイオワ級より強力であるとは考えにくい。
副 砲 大和の副砲は三連装15.5cm62口径砲であり,これは最上級軽巡の主砲塔をそのまま利用したものである。新造時にはこの砲塔を4基12門搭載し,うち2基を上部構造物前後の船体中心線上に,2基を側面に搭載,片舷砲力を9門とした。旧式戦艦の片舷砲力が総副砲数の半分であるのに比べ,砲威力の発揮が大きく向上したかに見えるが,これは防御上の弱点を作ることになった。この点は防御の項で述べる。
英米の新造戦艦がいずれも副砲を廃止し,高角砲と副砲を兼ねる両用砲を搭載したのに比べ設計思想の面で後れをとっていた。大和級は改装時に両舷の副砲塔を撤去し,そこに大和は高角砲を,武蔵は機銃を増設した。この砲は高性能だっただけに,実戦においても駆逐艦の撃退などにかなり威力を発揮したようである。
高角砲 新造時の大和級は12.7cm40口径高角砲を連装6基,12門搭載した。艦の大きさに比べかなり少なく,航空機の威力に対する認識が不十分だったことがうかがえる。大和は後に24門に増設し,門数の上では世界最多の高角砲搭載艦となったが,発射速度が低いことに加え高射射撃指揮装置の性能が低かったため,あまり有効な対空攻撃力は有していなかった。高角砲の内,新造当初は全砲塔に主砲の爆風よけの覆いがあったが,大和では増設した下段高角砲に爆風よけを移設し,上段の高角砲は露出していた。
艦自体の設計とは別次元のこととはいえ,アメリカ海軍は前後檣楼上のレーダー装備の高射装置で両用砲を管制したため,航空機に対する測距が非常に迅速かつ正確に行え,高い命中率を得た注)。さらに電波探知による近接信管(VT信管)を用いた対空砲弾は,目標に接近すると炸裂し破片を投射するため,その実効性は三式対空弾よりはるかに高い。これらの併用により米艦は極めて高い対空攻撃力を発揮し,日本の攻撃機は大半が攻撃前に撃墜された。こうした兵器システムに対する総合的なアプローチの点で,日米海軍には歴然とした実力の差が存在した。
よく大和は航空万能時代に生れた為に悲劇的な生涯を送ったと言われるが,もしアメリカ海軍と同等の対空装備を持っていれば,航空攻撃に対しても相当の抵抗力を発揮し容易には撃沈できなかったはずである(だから戦艦も有用である,という意味ではない。費用当たりの効果という点で,戦艦は空母に比べ圧倒的に劣っている)。航空万能時代に生れた戦艦の悲劇と言うより,効果的な対空システムの開発ができなかったことが根本的な敗因といえる。機銃も含めて,門数の増加ばかりに終始して高性能な管制装置の開発ができなかった点は国力の差だけでは説明のつかないものがある。
注) 攻撃する日本機のパイロットによれば,着弾の弾幕がどんどん自機に接近してきたという。
戦争後期の未熟なパイロットは,そうした事態に機体を横滑りさせて射弾を回避する術を知らず,そのまま編隊に従って直進し敵弾の餌食となっていった。
機 銃 実戦における苛烈な航空攻撃の対策として,最終的には25mm 60口径機銃を約150門搭載したが,射撃管制装置が不備なことに加え,第2次大戦の航空機に対しては25mm口径では根本的に射程も破壊力も足りず,有効な対空能力とはなり得なかった。
おまけ 46cm砲は何馬力か? 福井静夫著「世界戦艦物語」2)では,お遊びとして大和の主砲の馬力を計算している。その計算によれば,
砲弾質量1460kg,初速780m/s,両者を掛けると1138800 kg m/s。
1馬力は76kgf m/sなので,これで割れば14984である。
つまり1門当たり約15000馬力,9門合計で135000馬力であり,機関出力とほぼ同じである。となる。これは(大)間違いである。上で計算した14984は砲弾の運動量[kg m/s]であって砲の出力[kgf m/s = W]ではない。質量の単位であるkg(キログラム)と,力の単位であるkgf(キログラム重)を混同したため,運動量を出力(仕事率)と勘違いしている(それ以前に出力の概念を把握していない)。
馬力(出力)とは,「一定時間にどれだけの機械的エネルギーを発生できるか」という単位である。馬力が小さくても,長い時間を掛ければ大きな仕事はできる。しかし短時間に大きな仕事をするには,大きな馬力が必要である。数十分の1秒間に砲弾に莫大な運動エネルギーを与える砲の出力が,エンジンのそれと同レベルであるはずがない。
砲の馬力(出力)を計算するには,砲弾の持つ「運動エネルギー」を,それを与えるのに要した「時間」で割る必要がある。正しい計算(ただし仮定を含む)は以下の通りである。
1)運動エネルギーの算出
運動している物体の持つエネルギーは
(質量 ×速度2)/2 ‥‥(1)
で与えられる(単位としては質量にkg,速度にm/s,エネルギーにJ(ジュール)を用いる)。発射直後の砲弾の持つ運動エネルギーは
1460 [kg]×780 [m/s]2/2=4.44×108 [J] ‥‥(1')
2)加速時間の算出
砲弾の加速に要した(運動エネルギーを与えるのに要した)時間も必要である。砲口まで等加速度運動すると仮定すれば平均速度は初速の1/2の390 m/s,砲身内の移動距離が18mと仮定すると,加速に要する時間は
18 [m]/390 [m/s]=0.0462 [s] ‥‥(2)
となる。(実際には点火直後は圧力が高く,また運動エネルギーは速度の2乗に比例するので低速な時ほど加速しやすい。そのため点火直後は急速に加速するはずで,平均速度は初速の1/2よりかなり大きく,従って所要時間はより短いと考えられる)
3)瞬間出力の計算
砲の出力=砲弾の運動エネルギー/加速に要した時間 ‥‥(3)
であるから
4.44×108 [J]/0.0462 [s]=9.61×109 [W]
=9.61×106 [kW] ‥‥(3')つまり1門当たり約960万kWである。1kW=1.341 HP(英馬力)であるから換算すると約1260万HPとなる(仏馬力[PS]で表せば約1310万PS)。この場合,主砲1門の発砲は1260万馬力のエンジンを0.0462秒間だけ働かせたということになる。(実際には上のように加速時間がより短いので,出力は1500万HPを越えると推測される。つまり1門で機関出力の100倍以上である。)
なお9門斉射の場合は9倍の1億1300万HPとなりそうだが,実際には射撃遅延装置により約0.3秒間隔で3回に分けて発射される。この斉射中の平均出力は,発射開始から終了までを0.6秒と仮定すると平均666万kW=893万HPとなる。大和の主砲9門の斉射は,890万馬力のエンジンを0.6秒間働かせたに等しいことになる。
4)連続出力の計算
ただし上の馬力は装薬が爆発してから砲弾が飛び出すまでの時間だけで考えた「瞬間出力」である。装填時間も計算に入れると1発の発射に40秒を要するので,これも計算に入れた連続の出力を計算すると
4.44×108 [J]/40.0 [s]=1.11×104 [kW]
=1.49×104 [HP] ‥‥(3'')つまり約1万5000馬力で,偶然にも福井氏の計算結果とほぼ同じである(あくまで偶然であって,福井氏の計算が正しいわけではない)。
参考資料(一部)
● 松本 喜太郎:戦艦大和・武蔵──設計と建造(2版),芳賀書店,1972,\5,000 1) 児島 襄:文春文庫 戦艦大和 上巻,初版第1刷,文藝春秋,p.213,1978 2) 福井静夫:福井静夫著作集/第六巻 世界戦艦物語,初版第1刷,光人社,p.49,1993
更新履歴
98.9.21 「4.46cm砲の実力」を微修正。
「おまけ 46cm砲は何馬力か?」を追加。