4.包囲網

アイスランド沖海戦に勝利した後,ドイツ艦隊はグリーンランドの浮氷群にそって南西へ全速で航行していた。その後方にはノーフォークとサフォーク,そしてプリンス・オブ・ウェールズが至近距離で追跡を継続していた。1230時,ビスマルクは速度を24ktに落とし,進路を南へ向けた。

イギリス国民にとって,フッドはトラファルガー海戦以来の名誉ある大英帝国海軍,ひいては海軍国イギリスの象徴そのものだった。そして大西洋はヨーロッパ大陸を席捲したナチス・ドイツと戦うイギリスの生命線だった。イギリスの誇るフッドを一瞬のうちに轟沈させ,新鋭戦艦を撃破した世界最大の戦艦を,海上輸送の動脈である大西洋に取り逃がし通商破壊戦を許すこと。それは飢えた狼を野に解き放つことに等しく,そのことがイギリスに与える軍事的,経済的,何より心理的ダメージは計り知れない。イギリス首相ウィンストン・チャーチルは,軍令部長サー・ダドリー・パウンド元帥にビスマルク撃沈を厳命した。

この時点で本国艦隊司令官トーヴィー大将がビスマルク追撃に投入していた英艦隊は、旗艦キング・ジョージ5世,空母ビクトリアス,巡洋戦艦レパルスの部隊,その南方で船団護送中の戦艦ロドネー,ジブラルタル海峡方面の巡洋戦艦レナウンと空母アーク・ロイヤルからなるH部隊,カナダのハリファックスにいた戦艦レヴェンジ,大西洋で輸送船団護送中の戦艦ラミリーズなどだった。言いかえれば北大西洋に存在するイギリス海軍主力艦のほぼ総力がビスマルク追撃に投入されたのである。

今や戦艦ビスマルクが北大西洋の中心だった。北からはノーフォークの部隊が,東からはトーヴィー艦隊とロドネーが,南からはH部隊が,西からはレヴェンジとラミリーズが,ビスマルクを目指して全速で近づきつつあった。しかしドイツ艦隊までの距離は遠く,ビスマルクは依然高速で航行を続け,捕捉できる目途は立たなかった。トーヴィー大将はドイツ艦隊を足止めして追撃の時間をかせぐため,高速な空母ビクトリアスと巡洋艦4隻を艦隊から分離させ,ドイツ艦隊への接近を命じた。


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参考資料
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