ここでは太平洋戦争で日本海軍が所有していれば最も効果的だったであろう「使える」巡洋艦を,結果論的に構想します。現実の巡洋艦建造の背景にあった用兵思想などは無視しており、また他国海軍の同等艦を凌駕する「最強巡洋艦」を意図するものでもありません。
日本海軍の重巡洋艦は古鷹級以降利根級に至るまで優秀な艦が揃っていましたが、その仕様は必ずしも実戦、特に太平洋戦争の実態に即したものではありませんでした。本級は最上級・利根級巡洋艦の後継として日本海軍が建造したものとします。軍縮条約の縛りは無くなったものとし、基準排水量は15,000トン程度としますが、建造費節減・建造隻数確保の必要もありむやみに大型とはしません。
艦名は1番艦より「風不死」「羊蹄」「利尻」「羅臼」です。
1. 特徴・概要
1.1 主要目
排水量 :基準=14,800t、公試=16,800T、満載=17,800T
全 長 :208m、全幅:23m、喫水線幅:21m
主 砲 :20.3cm/60口径 8門(連装×4基)
高角砲 :10cm/65口径 20門(連装×10基)
機 銃 :35mm/70口径 48門(4連装×12基)
25mm/60口径 24門(単装×24基)
魚 雷 :無し
水上機 :3機(格納庫収納)
舷側装甲:弾薬庫=145mm(35度傾斜)、機関部=100mm(35度傾斜)
水平装甲:75〜35mm(中甲板) +35〜40mm(上甲板)
水雷縦壁:弾薬庫=100〜65mm、機関部=60mm
速 力 :34.0 kts
最大出力:120,000 shp
航続距離:13,000 nm / 18 kts
主機関 :ディーゼル16基・3軸
本級は基準排水量14,800 t、満載排水量17,800 T、全長208m、全幅23mと条約型巡洋艦より約5割大きく、米ボルティモア級、独アドミラル・ヒッパー級と同等である。
主砲は20.3cm 60口径両用砲を8門(連装4基)、高角砲は10cm 65口径高角砲を20門(連装10基)、長距離機銃は35mm70口径機銃を48門(4連装12基)、短距離機銃は25mm 60口径機銃を24門(単装)搭載し、防空巡洋艦的な性格を持つ。一方で魚雷兵装は全廃し、水雷部隊の一翼としての機能は放棄する(嚮導艦としては使う)。大幅に刷新された光学・電探併用式の射撃管制システムを搭載し、主砲・高角砲・遠距離機銃の対空射撃における命中率を従来の200倍に高め、特に両用砲である主砲でも実用的な対空射撃を可能とする。総合的な対空能力は米防空巡洋艦アトランタ級を上回る。
航空兵装は水上機3機を艦尾格納庫に収容する。このため機体の可動率維持が容易で、砲撃時も爆風による機体損傷を生じないなど最上級以前より運用能力は高く、また被弾・機体火災時の被害も局限できる。
防御は垂直装甲は35度傾斜で弾薬庫145mm、機関部100mmである。さらに米巡洋艦同様に主砲塔に直接防御を行った。水雷防御を重視し、バルジの大型化と水雷防御壁厚を高雄級の58mm・利根級の45mmから60mmへと増厚した。
機関は全ディーゼル、3軸推進であることは秋名級巡洋戦艦と同様である。巡洋艦の船体に出力/容積比の小さいディーゼルを搭載するため最大出力は120,000 shpと日本重巡としては小さく、また艦型がやや大型であることから、速力では若干の低下を忍ぶ。ただし球状艦首や3軸推進の採用により、34.0ノットと同馬力の米ボルティモア級より1ノット優速である。一方ディーゼルの低燃費性により13,000 nm/18 ktsの大航続力を、8,000 nm/18 ktsの利根級と同じ燃料搭載量で実現する。予備燃料として軽油・灯油を搭載すると15,000 nmの大航続力を持つ。
日本重巡の多くは苛烈な実戦により撃沈されたが、本来軍艦は戦闘下に置かれる時間より平時の訓練・警戒に置かれる時間が圧倒的に長い。そのため平時運用での利便性も考慮し艦橋・上部構造に余裕を持たせ、戦闘だけに特化した艦とはしない。巡洋艦はバランスによって成り立つ艦である(後述)。
外観図 風不死 級
船体は安定性および内部スペース確保のため全幅が広く、特にフレアーにより喫水線より露天甲板部の幅が相当広い。艦首は造波抵抗低減のためバルバスバウ、艦尾は構造簡易化および容積確保のためトランサムスターンである。
主砲塔を前後に2基ずつ背負い式に配置し、射界は左右各155度とし一般的な150度より大きく取る。高角砲は船体中心に1基、両舷に背負い式に2基の5基配置を前後2群配置し、航空攻撃を受けやすい首尾線方向の火力を重視する。
航空兵装は艦尾に配置し、高角砲配置の自由度を高めるとともに被弾時の火災等の影響を局限する。船央楼は高角砲甲板の上に更に上部高角砲甲板を設けた2層とし内部スペースを確保する。
構造図 風不死 級
船体は以前の日本重巡同様に4層構造で、米重巡より1層少なく重心降下に留意しているが、その分艦内容積は不足気味となり居住性にしわ寄せが来る。対策として高角砲甲板の上に第2高角砲甲板を設置しスペースを増やす。
主機を横に4軸並べ、3軸の推進器を駆動する。中央軸は主機6基、外舷軸は5基で駆動される。中央軸の主機は被雷時の生残性が高まり、浸水に伴う横傾斜を軽減する。ディーゼル主機の採用に伴い、出力は120,000馬力と最上・利根級より32,000馬力低下するが、機関部長は14m程長くなり艦内スペースは圧迫される。。推進軸は3本とも首尾線に平行かつ水平で、推進効率と建造性を向上。
艦尾には水上機3分の格納庫を設置し、これによる居住スペースの不足分を船央楼の2層化により相殺する。米重巡は船尾が3層であるため舵取り機室の上部に格納庫を配置するが、本級は2層であるため舵取り機室前方に配置する。
横断面図(第6・7・8機関室部)
図中赤字は防御目的の鋼板厚、青字は強度目的の鋼板厚を示すが、防御鋼板も強度は負担する。
垂直装甲はインターナルアーマーとして外板による被帽破壊後、35度傾斜させた装甲により避弾経始を行う。水雷防御は爆圧拡散を行う液体層を持つ4重構造で、防御縦壁は30mmDSを2枚重ね、背後の水密隔壁も16〜22mmDSと厚めにし、4枚合計で最大108mm+液体層と重防御。水平装甲は上甲板に20mmDS2枚重ね、中甲板に60mm(水平部)〜100mm(傾斜部)CNC。
バルジ内部・二重底に急速注排水区画を設け傾斜補正能力を強化。垂直装甲・水雷防御壁は表裏を重油タンクとして長期腐食を防止。艦の脊髄・動脈である電線通路は被害時の継戦能力・生残性向上のため中心線・舷側の3系統を設ける。
強度甲板は上甲板および船底であるが、上甲板は同時に水平装甲も兼ねる。船底は他の日本重巡はV字になっていて船底中央部への応力が強く中央寄りほど板厚が厚いのに対し、本級はV字を弱めて応力分散し均一な板厚としている。
機関室は3軸推進に合わせ横に3室並び、この横断面位置ではディーゼル主機を中央(第6機関室)に2基、舷側(第7・8機関室)に1基配置される。推進器は外舷軸が改鈴谷級と同じ直径3.9m、中央軸が馬力差に応じた4.25m。推進軸は3軸とも同高さ、首尾線に平行、水平(艦底と平行)で建造性を向上させると共に推進効率も高め、機関位置を最低化して重心を降下させる。
建造性を向上させるため水雷防御用多層構造は全て垂直、艦底部中央は水平、二重底は全て同厚、甲板のシアは円弧で無く薄い台形(直線)とし、当該断面で曲面はバルジ下端の2500R部のみ。
(図は検討中のため左右で若干構造が異なる)
1.2 巡洋艦とはどんな艦か
本級の仕様の前提として、巡洋艦の定義を検討してみたい。
巡洋艦と戦艦の違いを端的に述べれば「戦艦は主力艦であり、巡洋艦は補助艦艇である」と言うことになる。主力艦とは決戦において最強を求められる艦であり、補助艦艇とは主力艦のサポートを含め多様な局面で役に立つことを求められる艦と言える。
注)主力艦とはロンドン海軍軍縮条約において定められた分類であり、戦艦・巡洋戦艦をこれに分類したものだが、ここでは条約の定義から拡張した意味で用いている。
戦艦はその発達過程の大半を通じて「主力艦」であった。主力艦とは決戦兵器であり、その至上命題は「最強」である。主力艦が負けることは海戦に負けることであり、その海軍が負けることであり、ひいては国が負けることである。大砲が最強兵器であった時代、最強を目指して建造された艦のことを「戦艦」と呼び、最強故に主力艦と位置づけられたのである。第2次大戦で主力艦の地位を空母に譲るまでは、戦艦は最強であることを常に要求された戦略兵器であった。
一方巡洋艦は「補助艦艇」であり、その至上命題は「役に立つこと」である。「役に立つ・使える艦」が具備すべき条件を列挙すると、巡洋艦のあるべき姿が浮き上がってくる。列挙すると以下のようになるだろう。
- 大き過ぎず、建造コスト・運用コストとも適度で、必要な隻数を揃えられる。
- 小さすぎず、攻撃・防御・機動・偵察などの各能力が一定以上の水準にある。
- 特定の能力に特化せず、攻撃・防御・機動・偵察など広範な能力をバランス良く持つ。
- 補助艦艇の親玉としての、戦闘力・機動力・指揮能力を持つ。
- 偵察能力が高く、できれば航空機を運用できる。
- 有力な(最強を意味しない)攻撃力を持つ。
- 有力な防御力を持ち、相応の被弾に耐える継戦能力を持つ。
- 自分と同クラスの敵艦とは互角に戦い、上のクラスの敵艦(戦艦)からは逃げられる。(この「より強い敵からは逃げる」という点が「どんな敵にも勝つ」ことを求められる戦艦との最大の違いである)
- 高速で、あらゆる艦と交戦機会を得られ、必要なら追撃を振り切り逃げられる。
- 高速の駆逐艦などを引き連れ、敵へ遊撃戦を行える機動性を持つ。
- 相応の防空能力を持ち、主力艦(空母・戦艦)を防衛できる。
- 抑止力として彼我の心情に訴えるだけの戦闘力・艦容を持つ。
反対に、巡洋艦が具備する必然性の無い機能を列挙すると以下のようになる。
- 圧倒的な攻撃力・防御力:これは主力艦たる戦艦の役割であり、そのために戦艦の設計は砲撃戦に特化され、その他の能力(低コスト=調達性も含む)が犠牲となる。それをカバーするのが巡洋艦である。
- 対潜能力:対潜戦では小回り・加減速などの機動性が必要で、かつ敵の主目標に選ばれない小型・安価な船の必要がある。
- 艦載機運用能力:言うまでもなくこれは空母の役割である。(注:艦載機はフロートを装着した水上機とは異なる)
- 特定の能力への特化:砲戦に特化した戦艦、水雷戦を重視した駆逐艦・水雷艇、航空戦に特化した航空母艦、潜航能力に特化した潜水艦。それらのいずれとも対照的に、水上艦として必要とされる多くの能力を「バランス良く備えた汎用性」が巡洋艦の特徴である。
以上を総括すると「バランス」「汎用性」「有力」などが巡洋艦の本質を表すワードとなる。これらをもう少し文学的に表現すると以下のようになろう。
大洋を長駆航海し、偵察・威圧・戦闘により国力を投射できる。そのための航続力・航洋性・居住性、それを実現可能な大きさを持つこと。一方でそれを実現するのに過大なコストを要しないこと。この例として、ジョージ6世戴冠記念観艦式に英国へ派遣された重巡洋艦足柄を考えてみたい。国の代表として参加するのに、駆逐艦や練習艦では役者不足で務まらないのは当然である。一方戦艦では、これを地球の裏側まで派遣するのに要するコスト(人件費、燃料費、消耗品費、通航可能な水路・港湾の制限)は大変なものになる。しかし巡洋艦なら、一国の海軍を代表するだけの威厳も、遠洋航海をリーズナブルにこなすだけの利便性も兼ね備えている。
艦容はバランスが取れ端正である。人の精神の中では、機能的なバランスも外観的なバランスも強い相関を持った概念である。人間によって設計される以上、機能的な巡洋艦はスマートで端正な艦容を持つ。仮に人間ではない(美意識を持たない)人工知能が、要求仕様を満たすために人間と異なる方法で巡洋艦を設計した場合、その艦容は人間の設計したそれとかけ離れる可能性がある。見方を変えると、巡洋艦はあらゆる軍艦の中で最も機能的バランスを要求されるが故に、その艦容に設計者の美学が最も反映される艦種と言える。
攻・防・走のバランスで言えば、巡洋艦は戦艦に比べ「走が圧倒的に高い」。最上級以降の日本重巡の出力はあらゆる日本戦艦を上回る。数分の一の排水量に同等以上の出力だから、船体の半分近くがエンジンである。一方で戦艦と比べ「防が圧倒的に低い」。戦艦の防御重量は全体の30%前後だが、重巡洋艦では10%程度、軽巡洋艦はそれ以下である。艦型が小さい以上に、巡洋艦の防御力は戦艦より低い。
1.3 巡洋艦の条件
重巡洋艦私案を構想するにあたり、「巡洋艦」と呼ばれる艦種が具備すべき具体条件として、ここでは以下の4点を定義した。
1)基準排水量は1万5000トン以下
過度な大型化は建造コスト・運用コストの高騰をもたらし、補助艦艇として必要な隻数を確保できない。巡洋艦はあくまで補助艦艇であり際限の無い大型化は許されない。各種能力をバランス良く備えるためには1万トン以上の排水量が必要な一方、コスト過大を防ぐには基準排水量15,000トン程度が上限と考えられる。
デ・モイン級は基準排水量17,000トンに達するが、この艦は伝統的砲戦(非ミサイル)巡洋艦の最終形態であり、終焉でもある。その性能はむしろミニ戦艦で、かつ就役が戦後であることから、巡洋艦としては過大である。
最強を要求される主力艦=戦艦と、汎用性を要求される補助艦艇では必要な特性は異なる。シャルンホルスト・アラスカ・超甲巡などの亜戦艦は主力艦としては弱過ぎ、補助艦艇としてはコスト過大かつ運用性が低く、存在意義が低い。25,000トンの亜戦艦1隻より、12,000トンの巡洋艦2隻の方が戦術上有用である。
2)主砲口径は8インチ以下
1万トン台前半の排水量で各種性能をバランスさせるには、主砲口径は8インチが限度である。
主力艦として相手の戦艦を撃破できる攻撃力を備えるには最低14インチ以上の口径が必要である。逆に言えば14インチ未満8インチ超の主砲は帯に短く(戦艦相手には役立たない)、たすきに長く(重巡洋艦未満に対しては威力過大・弾数不足・両用砲として利用不可)、存在意義が乏しい。
あらゆる巡洋艦、特にデ・モイン級を圧倒しようとすれば8インチ超の主砲が必要となるが、それを装備した超巡洋艦は巡洋艦キラーである以外に取り柄の無い戦艦もどき=亜戦艦になる。巡洋艦を圧倒するのは戦艦・巡洋戦艦・空母の役目である。汎用性・コスト面から排水量に制限を受け、性能のバランスを要求される巡洋艦は、そもそも最強の艦ではあり得ない。最強を目指して設計すればそれは巡洋艦ではなく、中途半端な亜戦艦や雷装の化け物艦などに成り果てる。「有力かつ有用」を求められるのが巡洋艦である。
3)各種性能のバランスが取れている
軍艦の能力を表す「攻撃力」「防御力」「機動性」「航空能力」をはじめとした各種の能力が、バランス良く実現されていること(攻撃力だけが突出したりしていないこと)。
「軍艦としての能力」と「船舶としての能力」もバランスされていること(戦闘力のために航洋性などが犠牲になっていないこと)。
攻撃力についてもバランスの取れた武装であること(雷装・航空兵装などに特化していないこと)。
特殊な条件・特定の艦に対する対抗策などの結果、主砲だけが不相応に大型、装甲が不自然に薄弱、航洋性が極端に低く外洋航海が不得手、などのバランスを欠いた設計の艦は巡洋艦と呼べない。
4)魚雷が主兵装ではない
魚雷は運用の難しい兵器であり、攻撃に当たっては高速もしくは夜陰を利用しての敵艦への接近が必要であり、その際敵の反撃で大きな被害を受ける可能性も高い。防御に当たっては誘爆し易く、その場合は艦が失われる危険性が高い。威力は高いがリスクも大きく、また汎用性にも欠ける特殊な兵器である。
重雷装艦のように魚雷を主兵装とした大型艦は、リスクを冒して敵艦の近くまで接近する必要があり、その間の敵の牽制を他の艦に依存し、被弾した際は誘爆・轟沈の可能性もある。沈んでも余り惜しくない低価値艦でなければ取れない兵装である。
重巡洋艦は補助艦艇の中では最大・最有力の高価値艦であり、リスクを冒した一発芸に掛けられる艦ではない。水上艦が雷装を主兵装とすることは、その艦が低価値(小型、旧式など)であることの証明でもある。
1.4 設計方針 - 汎用防空型巡洋艦 -
第2次大戦において水上艦、特に日本の水上艦に何より必要とされたのは防空能力であった。これが無ければ敵艦隊との会敵もできないまま航空攻撃で撃破・撃沈されてしまう。艦艇の5倍以上の速度を持つ航空機に狙われれば、一方的に攻撃を受け離脱する術は無い。一方で、航空機や駆逐艦による妨害を受けずに巡洋艦同士がその攻撃力と防御力のみで雌雄を決するような海戦は、絶無ではなくとも可能性は低い。従って、主要敵となるアメリカ海軍の巡洋艦と主砲門数・装甲防御・速力などを比較し、数値上それを凌駕するという建艦オリンピック的構想は、軍縮条約失効後には余り意味を持たないと考える。
最強の巡洋艦として、日本海軍では超甲巡を構想し、米海軍は実際にアラスカ級を建造したが、これらは事実上の中型戦艦であり、汎用性の高い巡洋艦とは別物である。そしてこの種の中型戦艦は中途半端で利用価値が低いことが事実として判明している。こうした戦艦もどきを、ここでは便宜上「亜戦艦」と呼ぶ。
伝統的巡洋艦の到達点とも言うべき米デ・モイン級(1948竣工)を凌駕する巡洋艦を、40年代の日本海軍の技術力で構想するのはほぼ不可能である。更に言えば、デ・モイン級は大砲を主兵装とした巡洋艦の最終形態で、就役後すぐにミサイルの時代となり早々に退役した。デ・モイン級を凌駕する巡洋艦を構想した場合、その艦は就役時点で時代遅れの無用の艦となり、構想する意義自体が無くなってしまう。デ・モイン級は架空巡洋艦構想時の「罠」とも言うべき艦であり、構想時には念頭から消した方が良い。巡洋艦にとって重要な要素は、最強ではなく有用である。
実際の戦闘結果から見て、日本海軍において「有用」な重巡洋艦の具備すべき性能は、以下のようなものと想定する。
- 高い防空能力:これ無くして、太平洋戦争下での活躍は不可能である。航空戦力で対米劣勢である以上、米国の巡洋艦と同等以上の防空能力が必要。ただしそのために対艦砲撃力を犠牲にはせず、防空専用艦とはしない。専用艦を造り分ける国力・物量は日本には無い。
- 全天候での索敵・攻撃能力:レーダーにより敵艦、特に潜水艦の脅威を夜間でも把握できること。レーダーと射撃指揮装置を連動させ、夜間・悪条件下でも攻撃力を発揮できること。この能力がなければ、数値上の攻撃力・防御力が高くても役立たずに終わる可能性が高い。
- 高い対水雷防御能力:実戦における巡洋艦喪失の最大要因は、砲弾・直撃爆弾ではなく魚雷・至近弾による浸水であり、それに対する防御力が重要である。航空魚雷4発、または潜水艦魚雷3発を同一舷に受けても生還可能な水雷防御を目標とする。
- 高い生残性:単純な装甲厚ではなく、圧倒的な航空攻撃・潜水艦の雷撃に曝され被弾しても戦闘力の低下が少なく、乗員の死傷も少なく、行動不能にならず生還可能な生残性が必要。
- 水上機による偵察能力:米海軍では小型空母の運用により航空偵察能力を発揮したが、日本海軍にはそのような空母の余剰は無い。広い海域で効果的な索的を行うため、巡洋艦搭載の水偵は重要である。
- 長い航続力:広い太平洋海域で運用する以上、また前衛・偵察と縦横に使用するためにも、長大な航続力は日本巡洋艦には不可欠である。その航続力は、燃料搭載量の増大によってではなく、燃費性能の向上によって達成する。
- 低燃費性:燃料資源の乏しい日本が運用するには燃料消費の少ない艦が必要である。大戦末期の日本海軍は、燃料不足で行動そのものができない状態に追い込まれた。
2. 船 体
2.1 船体主要目
基準排水量:14,800 t
公試排水量:16,800 T
満載排水量:17,800 T
全長:208 m 喫水線長L:204.5 m
全幅:23 m 喫水線幅B:21 m
L/B比:9.74
喫水:6.5 m
乾舷:艦首7.5m、艦央4.5m、艦尾6.0m、高角砲甲板7.0m、第2高角砲甲板9.5m
<以下は今後修正予定:前部砲塔を前方へ移動、バイタルパート長を伸す>
第1主砲塔中心:艦首喫水より36m
第4主砲塔中心:艦首喫水より162.5m、艦尾喫水より42m
第1主砲塔中心〜第4主砲塔中心:126.5m
バイタルパート長:132.5m(喫水線長の65%)
2.2 艦形一般
基準排水量は巡洋艦の上限と言える基準排水量15,000 tのほぼ一杯である。各種性能、特に対空火力の充実と水雷・主砲塔防御力確保の必要上、利根級より15%、改装後の高雄級より10%程大型化し、米ボルティモア級と同等である。それに伴い全長もやや大きく、喫水幅はディーゼル機関搭載および水雷防御強化のため広くなり、甲板幅は凌波性の向上と対空火器搭載スペース確保のためかなり広い。船形は直線を比較的多く取り入れ、建造性を高めている。航続力の割に基準排水量と公試排水量の差が小さいのは、低燃費で燃料搭載量が相対的に少ないためである。
排水量が大きいため全長も208mと若干大きいが、それ以上に幅が全幅23m、喫水幅21mと大きい。理由はディーゼル主機を横に4基並べるため、水雷防御のスペース確保のため、船体全体にフレアを付け喫水幅以上に上甲板幅が広いことによる。本級は装甲防御を施した主砲塔、大重量の長10センチ高角砲塔10基など艦上部に重量物が多く、魚雷兵装の約200t分の重量が無いとは言え重心が高いため安定性の確保が重要である。艦内容積及び予備浮力の確保の必要のため、喫水以上の船体幅を広めに取る。結果舷側はフレアのついた上広がりの断面となる。
外観上は艦の中央部が1段上がった中央楼形式であるが、利根級重巡と同様に高角砲甲板は船体強度を受け持たず、一段下の上甲板が強度甲板となる。艦尾に水上機格納庫を設置するため3番主砲塔直前からスロープとなり艦尾は1.5m高い。またコスト及び建造期間短縮のため横断面に直線を基調とした形状が多いこと、艦の全長に渡りフレアを付け凌波性を高めたこと、上部構造は電波反射軽減のため傾斜していることなどから従前の日本重巡とはかなり異なる艦容である。
排水量は従来の日本重巡よりかなり大きく米ボルティモア級と同等であるが、船体は日本重巡同様4層構造で、ボルティモア級より1層少ない。そのためボルティモア級と比べると乾舷がかなり低く、復元性の向上・砲戦における被弾確率の低下などをもたらすが、艦内容積の点で不利である。特に水上機格納庫を後部艦内に設置したため居住スペースは不足気味である。
2.3 復元性確保
本級の最大の技術的課題と成り得るのが、高重心に伴う復元性不良の防止である。本級の重心を上昇させる要因を列挙すると以下のようになる。
- 主砲塔に直接防御を実施。
- 高角砲を重い砲塔形式で10基搭載。
- ディーゼル推進のため省燃費で、水線下の燃料重量が少なめ。
- 露天甲板幅が大きく、また水上機格納庫を設置したため喫水上の船体容積が大型化。
一方重心を低下させる要因は以下のようである。
- 主砲塔が4基で従来艦より1基少ない。
- 魚雷兵装を持たず約200トン軽い。
- ディーゼル機関は吸排気量が少ないため、煙突・吸気塔は小型で済む。
- ディーゼル機関(水線下)は同馬力の蒸気タービンより重量が大きい。
- 水雷防御縦壁(水線下)が厚く大重量。
- 米巡洋艦と比較すると船体が1層少ないため乾舷が低い。
復元性の問題を解決するため、以下のような設計を行う。
- 船形を大型化し、更に全幅をそれ以上に大きくした肥えた船形とする。
- ディーゼル機関の全高が低いことを利用し、船体中央付近の乾舷を利根・最上級より0.3m下げ、凌波性・予備浮力確保のため舷側にフレアーを与え露天甲板幅を広くする。
- 船体の強度構造は利根級と同様、強度甲板を上甲板とし高角砲甲板は強度を持たない6ミリ程度の薄板とする。最上級までは高角砲甲板およびその舷側外板も強度を受け持ち、最大45ミリの厚さを持っていた。
- (高角砲のうち4基は高角砲甲板より低い上甲板に設置。)
2.4 上部構造
秋名級巡戦と同様、船体中央後方に煙突と一体化したマック形式の大型後檣を持ち、ここが各種指揮装置の中枢となる。高角砲甲板上に更に1層の下部艦橋甲板が連続しており、不足する艦内容積を補足する。重巡洋艦は機動力の高さから艦隊旗艦の任務に就くことも多い。このため後檣に艦隊司令部用の指揮所を設け、後檣基部には司令部用の施設を設ける。
前部檣楼も極度な小型化はせず余裕を持たせた大きさとする。高雄級の檣楼は過大であると批判されたが実戦において特に不都合はなく、スペースの余裕から利便性が高かった。本級では特に指揮や状況判断に係る施設の充実のため、上部構造の容積には余裕を持たせる。
2.5 構造の簡易化
補助艦艇に限らないが、建造費が安いことは数を揃える上でも重要で、また戦時中なら工期が短く修理が容易なことも重要である。そのため本型の設計は、松級駆逐艦に見られるような簡易構造を性能の低下を極力抑えつつ採用する。具体的には以下の諸点である。
- 船体に可能な範囲で直線構造を取り入れ、工数を削減する。
- 甲板のキャンバーは連続的な曲面ではなく中央部は水平、左右は斜めの直線構造とする。
- 船体の舷側水線下も湾曲したバルジではなく垂直な構造とする。内部の水雷防御縦壁も極力垂直な平板とする。従来の日本重巡と異なり、舷側の防御・船体構造は水線部装甲を除き垂直な平板である。
- 艦尾は平面からなるトランサム・スターンとする。
- 二重底は間隔を極力同厚とし、縦通材・肋材とも工作を容易にする。
- 電気溶接を材料上可能な範囲で導入する。改良された電気溶接では強度上の問題は無かったことが判明している。これは同時に軽量化と、船体外面を平滑化し船速向上にも貢献する。
- 建造には極力ブロック工法を用いる。
- 推進軸が1軸少なく、また各軸が上から見て平行(大抵の船は後ろ拡がり)、3軸とも同じ高さ(大抵の船は内舷軸が高い)で艤装工事が容易。
- 機関および減速機を秋名級巡戦、幾春別級軽巡、織姫級駆逐艦と共通化。
以上により、船殻工事の所要工数は最上級の5割減、利根級の4割減を目指す。ただし砲熕兵装、射撃管制装置、電探、主機械などに複雑で生産性の低いものを多数装備するので、艦全体としての工数・コストはむしろ増加すると推測される。
3. 兵 装
3.1 兵装主要目
●主 砲:(架空)20.3cm 60口径砲:8門(連装砲塔×4基)
射撃・高射管制装置2基
●高角砲:(実在)10cm 65口径砲:20門(連装砲塔×10基)、
射撃・高射管制装置(主砲と同型)2基
●機 銃:(架空)35mm 70口径機銃48門(連装×24基)、機銃管制装置8基
(実在)25mm 60口径機銃32門(単装×32基)、直接照準
●探索・照準
・対水上見張り装置:22号電探
・主砲射撃管制装置:
対水上:光学・電探照準(22号電探)切替式、光学・電探測距併用式
対 空:光学照準・電探測距(13号電探改)
・対空見張り装置:13号電探
・高射管制装置 :光学照準・電探測距(13号電探改)、高度変化見越し機能付き
・機銃管制装置 :光学照準・電探測距、高度変化見越し機能付き
●魚雷発射管:無し
●航空機:水上機3機(偵察機3)、格納庫収納、カタパルト2基
20.3cm両用砲を8門、10cm高角砲を20門搭載し防空巡洋艦としての性格が強く、一方魚雷兵装は廃止した。砲のスペック以上に射撃指揮システム改良による命中率向上を重視し、特に防空能力はそれまでの日本重巡の1,000〜2,000倍(命中率200倍×実火力5〜10倍)を目指す。
強力な対空火力を発揮するため、照準に光学、測距に電探を用いる光学・電探併用式の射撃装置、敵機の高度変化に対応可能な射撃盤による射撃管制システムを持つ。日本海軍の対空能力で最も問題だったのは、砲それ自体ではなく射撃管制システムであった。最新の射撃管制装置である94式高射装置でさえ、標的機の高度変化に対応できず一定高度を飛ぶ機体しか照準できないなど、第2次大戦の航空戦に対応するにはお粗末な物であった。更にレーダーを照準に使えず、特に測距誤差が大きい点も問題であった。全体として高角砲に後から管制装置を付けたような内容であり、システムとして探知・照準・攻撃を総合的に設計されていたとは言い難い。
また従来の日本巡洋艦では、主砲は高射装置による管制がなく対空射撃が実質不可能であり、また高角砲と25mm機銃の中間射程の対空火器もなく、距離的には2段階の弾幕しか張れなかった。本級では主砲・高角砲・35mm長機銃・25mm短機銃と4段階の弾幕を展開可能で、射程分布の点でも効果的な対空射撃が可能である。また35mm機銃は爆風避けを装備、25 mm機銃は主砲・高角砲の爆風を受けにくい場所へ配置し、4種類の防空火力を同時使用可能とする。
3.2 主 砲
3.2.1 設計方針
最大の特徴は、主砲を対空射撃に対応した両用砲とした点である。このため対空射撃に必要な高速な旋回・俯仰速度、高い発射速度、全仰角における装塡機能、時限信管自動調停装置を持ち、高射機能を持つ射撃管制装置による照準を行う。また対艦砲撃においても、初速が高いため貫徹力が高く、発射速度が速いため8門艦ながら投射弾量は最上級などの10門艦を上回る。高い旋回速度は近距離の乱戦においても有効である。
砲諸元
口径/砲身長:20.3cm/60口径
(砲呼称 :仮称50口径3号20センチ砲(実在))
搭載方式:連装砲塔4基8門(左右砲身同時俯仰式)
砲弾重量:kg(一式徹甲弾)
(装薬量 :39 kg)
初 速:1020 m/s
最大射程:33,000 m
最大車高:
発射速度:5発/分
旋回速度:7.5度/秒
俯仰速度:12度/秒
俯仰範囲:-5〜75度
装填角度:0〜45度(自由角度)
旋回範囲:0(正面)〜155度
3.2.2砲 熕
砲身は20.3cm60口径自緊式成層砲である。その性能は独アドミラル・ヒッパー級の8インチ60口径砲と同等である。
以前は試作のみ行われた実在の3年式3号20センチ砲(55口径)を想定していたが、ヒッパー級に見劣りするため変更した。
3.2.3 装備方法
搭載方式は連装砲塔4基であり、主砲塔には直接防御を実施する。最上級までの5砲塔から4砲塔への減少理由としては、ディーゼル主機による長い機関区画と高角砲の中心線配置スペースの確保、砲塔に直接防御を実施したための重量節減、弾薬庫防御強化等である。実質的な攻撃力を高めるため射界確保に留意し、全砲塔とも旋回範囲は正面から左右155度とする。このため艦首から25〜155度の範囲(130度)へ8門全門を指向可能で、防空戦・追撃戦などで柔軟性を確保する。このため背負式砲塔の中心間距離は10mとやや長く取っている。
日本海軍では高雄級巡洋艦や特型駆逐艦などでいわゆる「両用砲」を採用してきた。この場合の両用砲とは、平射砲より高い仰角、空中目標を照準可能な高角方位盤の採用を意味する。実際には両用砲として必要な性能はこの他に高い旋回・俯仰速度、高い発射速度、高仰角での装填機構、信管秒時自動調定などであるが、最も重要なのは有効な射撃管制システムとの連動である。高雄級重巡の主砲は最大仰角を70度まで引き上げたが、対空砲としては砲塔の旋回速度が4度/秒と遅いこと、高仰角では装填が困難だったため実用にならなかった。対空射撃には旋回速度10度/秒以上が望ましいが、大口径砲でこれを実現することは難しかった。
本級ではこの点を改良し、旋回速度を毎秒8度、俯仰速度を毎秒12度まで上げる。砲塔に高角砲的な要素を取り入れ、連装の砲身間隔を近づけ、連結し同時に俯仰させる。これにより重量の軽減と旋回軸周りの慣性モーメントを減少させ、旋回動力の強化と合わせてそれまでの2倍とする。可能なら10度以上が望ましいが、砲塔に直接防御を施すこともありそこまでは困難と判断した。最大仰角は対空射撃のため75度である。装填も仰角45度までで装填可能な自由装填式とし、高仰角時の発射速度を確保する。装填機構の改善と力量アップにより発射速度は毎分5発と従来の3発より高速化する。また装填機構に時限信管の自動調定装置を装備し、対空砲弾(通常弾)を発射する際に自動的に信管秒時が調定される点も高角砲と同様である。左右砲身が同時俯仰で一方の装填中に他方を発射する交互射撃はできないため、2門同時発射が基本となる。したがって砲弾の飛行中に衝撃波干渉による散布界拡散を防ぐため、発砲遅延装置は必須となる。
対空能力を重視してはいるが、対艦攻撃力も従来の日本重巡より高い。まず砲身長が60口径と長いため高初速で、空力性能に優れた一式徹甲弾との組み合わせにより、利根級以前はもとより米重巡にも勝る舷側装甲貫徹力を持つ。また自動砲には及ばないものの、改良された装塡機構により発射速度が従来の6割増の5発/分となり、投射弾数が最上級の30発/分に対し40発/分と上回る(ただし弾着修正を行う際は最大発射速度より遅くなり、また連射を続ければ砲身が過熱するので単純に優位とは言えない)。自由装塡方式のため装塡に伴う俯仰操作が必要なく、実発射速度の向上のみならず命中精度の向上も期待できる。旋回速度・俯仰速度とも速いため乱戦や接近戦での標的変更も迅速かつ、回避運動にともなう変針時も標的に追従可能である。揚弾薬機構も水上弾(徹甲弾)と対空弾(通常弾)用に2系統用意した点は高雄級重巡・秋名級巡戦と同様である。このため必要時は徹甲弾と通常弾の迅速な切替が可能で、混乱した実戦における対処能力が高い。
砲弾定数は1門当り180発(徹甲弾90発・通常弾90発)、合計1,440発である。巡洋艦は敵との接触機会が多いため定数は多めが望ましく、また本級は砲門数の割に排水量が大きいため搭載量に余裕がある。対空射撃も可能な両用砲であるため、対空用の通常弾の定数も全体の5割とした。弾種としては徹甲弾として1式徹甲弾、通常弾として零式通常弾を想定する。3式対空弾は対艦攻撃に向かない上、対空射撃においても危害半径が零式弾より狭いため採用しない。
3.3 高角砲
高角砲は本級の最大特徴であり長10cm砲を採用する。高初速化・高発射速度化・砲門数の増加・砲配置の適切化・高射装置の高性能化・レーダー測距の導入などにより従来日本重巡より圧倒的な対空火力を持たせる。首尾線方向への火力を重視ししつつ片舷砲力も高めるため、船体中心線にも搭載しているのが特徴である。中心線への配置は、主砲塔が4基へ減少し前後長に余裕が生じたため可能となった。
連装砲塔を10基・計20門という巡洋艦としては限界に近い高角砲を搭載し、片舷砲門数12門はアトランタ級軽巡の後期型と同じである。秋名級巡洋戦艦と同様、首尾線方向を含めた各砲塔の射界確保を重視する。これに両用砲の主砲8門の火力が加わり、防空火力は砲門数上は圧倒的である。また片舷12門の高角砲は、その速射性・旋回速度の速さから対駆逐艦への攻撃力に優れる。夜間戦闘など近距離での戦闘で特にこのメリットが生きる。アトランタ級も防空艦という本来の目的以外に、駆逐艦の制圧に威力を発揮した。
高角砲を前後5砲塔ずつ搭載するため対空射撃時に艦橋への爆風が激しく、指揮に悪影響をおよぼす。この対策の意味も兼ねて、艦隊指揮所は後檣(MACK)に設置し、後檣基部には艦隊司令部・通信施設も設置する。
装備形態はそれ以前の巡洋艦の砲架式ではなく、秋月級駆逐艦と同様下部に砲室を持つ砲塔式である。重量が大きくなるが発射速度の向上や即応弾数の確保など実戦力は上回る。砲弾定数は1門当り600発、合計12,000発であり、一方98式10cm砲の命数が350発であるため、秋名級巡洋戦艦と同様艦内で内筒交換を実施することとなる。
3.3.1 高射管制装置
対空射撃の管制システムは秋名級巡洋戦艦のそれと同様である。強力な対空火力を発揮するため、照準に光学、測距に電探を用いる光学・電探併用式の射撃装置、敵機の高度変化に対応可能な射撃盤による射撃管制システムを持つ。高射装置は13号電探を組合せ、方位角・仰角を光学照準、測距をレーダー照準する。また94式高射装置では目標が水平直線飛行する場合しか対応できないが、下降・上昇中の目標も照準可能な方式とし、信管自動調定機構と併せ完全光学式より遥かに高い照準能力を持つ。これらの照準機能改良により、命中率は従来の94式高射装置を用いた純光学照準より20倍の命中率を見込む。
高射装置は前檣・後檣に各1基ずつ装備されそれぞれが前後の高角砲群を管制するが、必要に応じて全高角砲を管制することも、前後逆に管制することも可能である。また主砲も両用砲であるため方位盤及び電探測距装置は高角砲と同じであり、主砲の方位盤で高角砲を管制することも高角砲の方位盤で主砲を管制することも可能である。
日本海軍の対空能力で最も問題だったのは、砲それ自体ではなく射撃管制システムであった。当時最新の射撃管制装置である94式高射装置でさえ、標的機の高度変化に対応できず一定高度を飛ぶ機体しか照準できないなど、第2次大戦の航空戦に対応するにはお粗末な物であった。更にレーダーを照準に使えず、ステレオ式測距儀に頼るため測距誤差が大きい点も問題であった。米軍のようなVT近接信管でも砲弾が敵機の至近に到達しなければ無意味である。全体として高角砲に後から管制装置を付けたような内容であり、システムとして探知・指揮・照準・攻撃を総合的に設計されていたとは言い難い。こうしたレーダーなどの単体技術だけでない「システムアプローチ」こそ米海軍と日本海軍の最も大きな技術格差だったと言える。
<照準は一人の射手が俯仰・旋回の両操作を行うスターウォーズ式で、多数の航空機による乱戦の中でも誤照準を起しにくい。 測距には改良した13号電探を照準と同期して俯仰させレーダーによる測距を行い、小型で高速の航空機に対し光学式より遥かに高精度の測距を行う、光学・電探併用式。 射撃盤は敵機の降下・上昇にも対応したものとし、特に急降下爆撃に対しても効果的な管制射撃を可能とする。なお、対空射撃指揮装置は主砲も管制下に置き、対空砲撃時は高角砲と主砲を共に管制する>
3.4 機 銃
秋名級と同様、架空スペック35mm長砲身連装機銃および25mm単装機銃を装備する。これにより両用主砲、高角砲、長射程機銃、短射程機銃と4段階の防空火力を実現する。機銃に関しては「門数より命中率・命中威力」が基本方針である。
35mm長砲身機銃
架空スペック35mm70口径連装機銃を使用し、専用の射撃指揮装置により3〜4台を管制射撃する。詳細は秋名級巡洋戦艦を参照。
25mm単装機銃
日本海軍で標準的に使用されていた、仏オチキス社製の96式25mm高角機銃である。多くの日本艦艇で採用された95式射撃指揮装置を用いた連装・3連装機銃の従動照準は精度が低く、単装機銃での照星による射手の直接照準の方が命中率が高かったと言われる。そのため秋名級・風不死級では単装機銃のみを搭載し、射手の目視による銃側照準である。
配置場所は基本的に上部構造の上、前檣と後檣の中間部に側面を向いて配置する。これは主砲発砲時の爆風の影響が少ないためである。風不死級は主砲・高角砲共に対空射撃を実施し、その爆風が大きい。銃手が露出した単装機銃をこれら大口径砲の近くに配置すると、主砲の対空射撃時は単装機銃は使用できず、逆に単装機銃の使用時は主砲の発砲を控える必要が生じる。本級は主砲のみならず高角砲も比較的前後に集中配置されており、その中間部は比較的爆風の影響を受けにくいため、爆風避けの無い単装機銃はここへ配置し、対空戦闘時は両用主砲・高角砲・35mm機銃・25mm機銃の全火器を同時使用可能にする。単装機銃は重量が軽いため前後檣楼の上にも適宜配置し、特に上部構造などへ機銃掃射してくる敵機への牽制を行う。
また射手が暴露されており敵弾や弾片の被害を受け易いので、射手の心理面も考慮し、広い射界を得られる反面多方向からの銃弾・弾片に曝される場所ではなく、左右を面で遮られ前方の脅威にのみ集中できるように配置する。特に後方に壁があり背後から銃弾を受けないことは絶対条件である。また複数の機銃・射手を横に近接して配置し、弾幕を濃くするだけでなく射手の恐怖心や心理的負担を軽減する。檣楼などの配置では突き出した架台上ではなく、壁面に開けた銃眼の中から射撃する構造とする。
圧倒的な敵航空優勢下で戦闘する場合、戦闘機が人員の殺傷を狙って行う機銃掃射による死傷者数は非常に多く、操作員が極力機銃弾から防御される配置法が重要である。
3.5 集中発令所
集中発令所には態勢表示図板が置かれ、指揮官はこれを見ながら操艦及び各種火器の運用を決定する。対水上・対空両指揮装置とも集中発令所に射撃諸元が表示され、ここで各砲をどの指揮装置に管制させるかを判定し、全ての火力を合理的に目標に指向させる。
火器態勢表示板には、水上・対空方位盤の指向方向・測距距離と各砲塔の指向方向が円形メーターで表示され、更に各砲等がどの方位盤の管制を受けているかが表示される。
敵勢表示板にはその都度水上・空中の目標・脅威の所在を担当者により手書き記入され、指揮官はこれを見ながら各砲塔をどの水上・空中標的に割り当てるかを判断し、各方位盤にどの目標を照準するかを指示する。
3.6 防空能力総合
総合的な対空能力について検討する。数値は単位の存在しない非物理値で、かなりいい加減な概算値であることに留意されたい。
最上級重巡と比較した場合の相対的な対空能力を以下のように推定する。
●主砲
・門 数:20.3cm/49.3口径平射砲10門→20.3cm/55口径両用砲8門(信管調定機付)
・初速:
・発射速度:3発/分 → 4発/分
・旋回・俯仰速度:5度・ 度/秒 → 7.5度・12.5度/秒
・仰角:55度→70度
・装填角度:固定→自由
・高射装置:無し→光学照準・電探測距・高度変化対応
<相対有効性>
門数:0.8倍
砲単体能力:4倍
高射装置:照準能力1.5倍×測距能力5倍×高度変化対応能力5倍=37.5倍
総合:門数×砲単体×高射装置=0.8×4×37.5=120倍
●高角砲
・門数:12.7cm/40口径8門 → 10cm/65口径20門
・高射装置:光学照準・光学測距・高度変化非対応→光学照準・電探測距・高度変化対応
<相対有効性>
門数:2.5倍
砲単体:2倍(89式40口径12.7cm砲に対する98式65口径10cm砲の効果)
高射装置(測距レーダー含む)の精度:倍
射撃盤の精度(高度変化への対応):5倍
高射装置:照準能力1.5倍×測距能力5倍×高度変化対応能力5倍=37.5倍
総合の対空能力:2.5×2×37.5=187.5倍
●機銃
門数:25mm/60口径8門+13mm4門 → 35mm/70口径48門 + 25mm/60口径32門
管制装置:光学照準・光学測距・高度変化非対応→光学照準・電探測距・高度変化対応
●噴進砲
門数:非搭載 → 4基
管制装置:35 mm長機銃用を併用
100倍以上というと荒唐無稽な夢物語にも感じられるが、むしろ史実の日本海軍艦船の防空能力が非常に低く、巡洋艦では数十機の航空機から攻撃を受けても撃墜できるのはせいぜい1機以下、被弾損傷が数機程度と推測され、牽制の域を出ない。米艦隊では接近する爆撃機・攻撃機の大半を撃墜していることから、日本海軍とは2桁程度の防空力の差がある。それを米海軍に対抗できるレベルまで上げた結果としての75倍である。イギリスが高射砲の照準にレーダーを用いた処命中率が100倍に向上したが、それでも命中率は0.5%台という話がある。
3.7 航空兵装
本艦は偵察巡洋艦として前線で広範囲を索敵することを目的の一つとしており、最低限の水上機の搭載は必須である。特に大戦後半では潜水艦の脅威が激増しており潜水艦の発見・攻撃用の戦力として零式水上偵察機の搭載が重要である。水上機を搭載する艦種には戦艦もあるが、水上機を回収する際は海上を蛇行または円旋回し、旋回圏内部に作った平水域に着水させた上、艦を減速・停止してクレーンで揚収するという手順が必要であり、軽快な巡洋艦の方が一連の作業を行い易い。また前衛には巡洋艦の方が適しているため、水偵運用の機会も多い。実際に偵察巡洋艦として航空兵装を重視した利根級は実戦において非常に有用であった。
本級は水上機(偵察機)を3機搭載するが、同じ定数の最上級以前とは以下の点で異なっている。
1)閉鎖式格納庫を設置し、定数を全て艦内に格納すること。
2)搭載位置が艦尾であること。
3)搭載機は全て偵察機(竣工時で零式水上偵察機)
3.7.1 格納庫の設置
艦内格納庫に収納する理由は1)機体の可動性の維持、2)砲戦時の機体の破損防止、3)火力の後方射界の確保のためである。
1)日本重巡では、露天搭載した水上機は長期の航海では可動性に不安が有ったとされる。特に電装系の品質の低い日本機ではこの問題が顕著だったと考えられ、格納庫への収容は実戦力を考えた際に大きな利点がある。
2)砲戦時に水上機を主砲の爆風から保護する。従来の日本重巡、長門級以前の戦艦では砲戦後は水上機は破損して使用不能になることを前提としていた。またこれを防止するには砲戦に先立ち全機の発艦を完了させる必要があった。
3)水上機を後部甲板上に繋止すると後方への射撃の障害となるためこれを甲板下に収容し、かつクレーンを除くカタパルト・格納庫ハッチなどをいずれも4番主砲塔の仰角0度の射線より下方に抑える。このために後部船体及び3・4番主砲塔も前部船体及び1・2番主砲塔より1.5m高くしたため、重心上昇と射撃諸元計算時の潜差計算の複雑化を生じるがやむを得なかった。
水上機収容のため、艦尾上甲板下に長さ24m、幅18 m(前部)〜13 m(後部)、高さ5 m(甲板2層分)の格納庫を持つ。4番主砲塔後部から舵取機室間の船体全幅である。至近弾による被害・浸水を考慮し、側壁は2重構造である。格納庫後半中央の天井に長さ13m × 幅10mのハッチがあり、ここからクレーンによって水上機を出し入れする。ハッチは全体が1枚で前方へスライドして開き、その上に水上機を載せられるだけの強度と、ある程度の弾片防御力を持つ。ハッチ上には水上機搬送レールとターンテーブルがあり、閉鎖状態のハッチ上に水上機を載せるとレールにより左右カタパルトへ移動可能である。ただしハッチ開放状態(前方へ移動)では4番主砲塔を横に向けないとここに水上機を置けない。ハッチ上には幾つかの換気用ハッチがあり、被弾損傷で火災発生・ハッチ開放不能になった際ここから排煙可能にする。搭載機としては零式水上偵察機3機を基本とするが、必要な場合は零式水上観測機を搭載することも可能である。この場合、零式水観は全幅11mで主翼折畳みも無いので、機体を45度斜めに向けハッチの対角線を通して通過させる。ハッチ幅が必要最小限なのは幅の狭い艦尾上甲板(強度甲板)に余り大きな開口部は設けられないためである。
ハッチ後方に起倒式クレーンが設置され、格納庫からの出し入れ・カタパルトへの搭載を行う。ハッチ両舷は甲板がスポンソン状に広がっており、この上に左右それぞれカタパルトが設置される。倒した状態のクレーンおよびカタパルトは4番主砲塔の砲軸より低く、仰角を掛けずに後方へ射撃可能である。
ボルティモア級をはじめとした米巡洋艦は船体の甲板数が日本巡洋艦より1層多く乾舷が高い。このため艦尾も3層あり、舵取機室上に2層分の格納庫高さを確保できるが、風不死級では日本巡洋艦と同様重量軽減・重心低下を重視して艦尾は2層である。このため格納庫をやや前方へ設置し、その後方へ舵取機室を配置する。また格納庫の高さを確保するため、3番主砲塔から後方は船体中央よりやや高くなっている。
3.7.2 搭載位置
搭載位置が艦尾なのは、直接的には艦中央部に格納庫を設置するスペースは高角砲の搭載位置・射界を制限しない限り取れない為である。本級は防空巡洋艦でもあるため、高角砲の威力発揮は最優先事項である。もう一つは防御上の理由で、攻撃を受けた際に航空機は火災を生じやすく、米巡洋艦においては艦喪失の主要原因になっている。このため後期の米巡洋艦は火災の影響局限のため水上機を艦尾に搭載したが、本級もこれに倣い艦尾搭載とする。
加えて安全策として格納中の水上機は燃料を空にすることを原則とする。軽質油(航空用ガソリン)タンクは艦後部の防御区画外・喫水線下に設置し、ここから舷側の配管を通じて艦尾露天甲板へ導く。給油はカタパルト上での実施を原則とし、火災発生時は機体を速やかに海中投棄する。また配管はタンクから航空機への給油のみでなく、航空機からタンクへの逆送油も可能とし、残存軽質油を廃棄することなく水上機から除去可能にする。実際に被弾して火災が生じた場合に備え、格納庫には空母と同様の泡沫式消火装置を設置し十分な消火能力を持たせる。一般的な海水スプリンクラー・放水銃では油火災に対して効果が不十分なためである。なお、格納庫後方に隣接して舵取機室があるため、格納庫火災の影響が舵取機室に及び難くする必要があり、これは防御の項で解説する。
一方艦尾に収容することのデメリットは以下の通りである。
- カタパルトや収容クレーン等航空関連装備のため、艦尾に対空火器を設置しづらい。また後方への射界が制限される。
- 舵取機室と格納庫のスペースが競合する。
- 艦尾を幅・深さ共に大型化する必要が生じ重量が増加する。従って排水量が10,000t程度の条約型巡洋艦では実施困難。
- 艦尾の相当な容積(通常、兵員居住区に充てられる)を格納庫に充当するので他の区画容積が減少し、特に居住区画が狭くなる。
3.7.3 搭載機種
搭載機が全て零式水上偵察機なのは、実戦において偵察機が観測機より重要だったからであり、利根級重巡も開戦時搭載数が偵察機・観測機各2機だったものが、途中から偵察機5機に変更されている。観測機を使って弾着観測をしながらの砲撃戦は実際には行われず、航続距離が長く乗員数も多く遠距離偵察に向く偵察機の方が有用であった。もう一つの理由は零式水上観測機は主翼折畳み機構を持たず全幅が11mあり、これを格納庫に収容するには最低でも10m幅のハッチが必要となるためである。この幅の開口部を艦尾の狭い強度甲板に設けると船体強度の確保が難しいことから、主翼折畳みが可能で有用性も高い零式水偵のみを搭載する。
3.7.4 その他
容積の大きい格納庫は、物資を搭載して前線へ輸送する際にも有用である。大戦後半で多用された、駆逐艦による夜陰に乗じた鼠輸送・Tokyo Express的な用途にも対応できるよう、可能ならばハッチを船尾後面に設け海面からの搬出入を容易とする簡易輸送船的機能を持たせたかったが、格納庫後方に舵取機室を配置したため実現できなかった。
3.8 雷 装
本級は魚雷兵装を全廃した。理由は大型水上艦では有効な雷撃を行いづらく、一方で魚雷は被弾時に「自爆装置」となってしまうためである。
有効な雷撃を実施するには、何よりも適切な射点に位置することが必要である。実戦の結果として、雷速の遅い魚雷は10,000m以遠からの攻撃は非現実的であり、相当相手に接近する必要が有った。そのためには艦艇より圧倒的に優速な航空機か、自艦の存在を秘匿できる潜水艦による運用が望ましい。艦艇が雷撃を行う場合、適切な射点まで接近・専位するには敵艦よりも大幅に優速(10〜15ノット以上)であるか、夜陰に乗じて接近することが必要で、大型巡洋艦では有効な雷撃を行いづらい。
一方で積載された魚雷は被弾により誘爆を生じた際、致命的な損害をおよぼす可能性が高い。ひとたび魚雷が誘爆すればその艦は喪失する可能性が高く、建造コストの高い艦種に装備するのは危険である。現実に航空攻撃で撃沈された日本海軍の重巡洋艦の多くが魚雷の誘爆を生じており、誘爆前に魚雷を投棄できるかが艦の生命を左右することが少なくなかった。
日本重巡が強力な雷装を持ったのは、敵主力艦に砲撃しつつ接近し、その間に主砲を破壊されても魚雷で主力艦と差し違えるという、主力艦の数的劣勢を補うための1回限りの決戦思想に基づく。当然そのような局面は太平洋戦争で生じ難く、持久戦の様相を呈した中で攻撃の都度艦船と熟練した乗員を使い捨てるような戦法は不合理である。このため重巡洋艦の兵装としては、魚雷は利点より欠点の方が大きいと判断し、雷装を全廃する。米巡洋艦においても雷装は廃止されており、福井静夫はこれを「戦訓から判断して卓見であった」と述べている(→日本の軍艦)。
3.9 B案(水上戦型)
原案では、ここに記した防空型(A案)の他に水上戦型(B案)の2種類の建造を構想していた。水上戦型は以下のように兵装が異なっていた。
主 砲:10門(2・3・3・2連装:4砲塔) 防空型 +2門
高角砲:12門(連装6基) 防空型 -8門
その他の要目・船体は防空型とほぼ同じである。2種類の主砲塔のうち3連装砲塔のみ新設計で、連装砲塔は利根級以前と同一とし設計の手間を節約する構想だった。そのため両用砲としては使用できず、発射速度も従来のまま(3 rpm)で艦の投射弾数自体は防空型より少ない。2門の主砲増加と引き換えに、高角砲減少のみならず主砲の防空火力も無くなり、一方主砲の対艦火力も実質あまり変わらない。更に防空型と並行建造すれば主砲塔の新設計が2つになる(従来型砲塔も装甲化するので実質3設計)など、総合的に見て建造意義が低いと判断し防空型に一本化した。
兵装総括
本級の武装について、魚雷兵装を全廃しながら主砲門数は最上級以前より減少しており、建造意義が乏しいという見解もあると思う。しかしいかに重武装でも、攻撃前に撃沈されるか戦闘不能になってはそもそも意味が無い。攻撃機会を得られない重武装艦より、攻撃機会を得られる軽武装艦の方が余程有用である。主砲10門超でも目標到達前に敵航空機・潜水艦に撃沈・撃破されてしまう艦と、主砲8門だが防御線を突破して目標に攻撃を行える艦と、どちらが現実に有用かという問題である。高雄級の摩耶が改装により主砲2門を減じてでも高角砲4門を追加した事実を指摘したい。
航空攻撃も潜水艦の待ち伏せも受けずに無傷のまま米重巡のみと遭遇し、オリンピックのごとく対等条件で戦えれば実力を発揮できる「はず」の艦を構想しても意味がない。日本海軍の艦艇は、米艦隊が太平洋対岸から馬鹿正直に一斉渡洋進撃してくると仮定しこれを段階攻撃する漸減作戦(九段作戦)に準拠して設計されたが、現実の戦闘局面が漸減作戦通りに進行したことなど一度もなかった。相手の裏をかき目論見を崩すように戦闘を行うのが戦争の基本であり、事前想定が崩れた状況下でも最大限役立たなければ有用な兵器とはなり得ない。航空攻撃をしのぎ、潜水艦をかわし、敵艦隊を発見し、交戦状態に持ち込めて、初めて主砲は意味を持つ。主砲の威力以前に「交戦状態に至る能力」が不可欠であり、その為に主砲門数を抑えてでも対空火力・航続力・防御力を重視した。
「攻撃は最大の防御」という決まり文句は、用兵上はともかく技術上は無意味な言葉遊びでしか無い。現実の海戦では敵味方の判定ができず敵に先制攻撃を許した場合、それどころか夜間電探射撃で敵のみが攻撃可能な場合、あまつさえ攻撃を受けても味方の誤射と信じて最後まで反撃しなかった場合など、常に想定外の事態が生じ得る。攻撃のために防御を犠牲にした艦がそうした状況に置かれれば、艦と作戦と人命の喪失につながる。第1次大戦の英巡洋戦艦は軽防御により速力を高め不利になれば高速で離脱するコンセプトだったが、「現実の戦闘」では敵を前に逃げるわけに行かず、多数の艦と乗員が犠牲となった。現実に生じ得るあらゆる事態を念頭に置いて開発すべきであり、事前シナリオが崩れれば馬脚を現すような設計は最初から設計ミスである。根幹となる仕様設計を、言葉遊びや概念の弄びで行えば、その後の全ての努力が無駄になりかねない。
4. 防 御
太平洋戦争の実情として、巡洋艦は戦艦以上に近距離での砲撃戦が多かった。これは島嶼部での夜間戦闘が多く、夜戦では必然的に戦闘距離が近くなるためである。夜間の砲撃戦は5,000 m前後の近距離で行われることが多く、近距離砲戦での舷側防御は戦艦以上に重要となる。従って風不死級の耐弾防御要領も近距離砲戦に対応したものとする。巡洋艦においては弾薬庫は最初から喫水線下に置かれるため、喫水上にある機関部の舷側防御がポイントとなる。砲弾防御と水雷防御の両立を図ることも意図し、舷側水線部装甲は35度という非常に強い傾斜角の装甲を設置する。
巡洋艦であるため、主要防御区画の構成が戦艦とは若干異なる。日本重巡の定石通り、前後の弾薬庫部は下甲板を防御甲板として2層分の高さ、艦央の機関部は中甲板を防御甲板として3層分の高さを防御区画とする。弾薬庫を対8インチ砲、機関部を対6.1インチ砲防御とするのも同様であるが、全体に舷側・水雷防御を強化し、加えて主砲塔に対8インチ直接防御(貫徹阻止)・対6.1インチ完全防御(砲塔機能維持)を行う点が特徴的である。また機関の分散配置・ディーゼル化により被害時の抗胆性は大幅に高い。
(修正予定:艦としては集中防御であり、主要防御区画長は132.5mで喫水線長204.5mの64.8%である。1番主砲塔の位置が艦首(喫水)から36mと利根級・最上級より4mほど後方にあり、一方4番主砲塔の艦尾から距離は最上級の5番主砲塔とほぼ同じで、防御区画全体がやや後ろ寄りである。これは前部弾薬庫の幅を大きくし容積確保と防御充実、第1・第2機関室の幅を確保するためである。機関部の全長は93mと利根・最上級より18mも長く、弾薬庫長は39.5mである。)
4.1 舷側防御(対砲弾および水雷)
秋名級巡洋戦艦と同様、実戦結果として砲撃戦は比較的近距離で行われるものと想定し、相対的に舷側部の垂直防御を重視する。ただし巡洋艦の大きさ・重量では防御構造を大きく変更はできないため装甲の傾斜角増加で対処するものとし、秋名級のように実質零距離射撃に耐えるほどの近接防御力はない。
太平洋戦争において日本巡洋艦の多くは魚雷または至近爆弾による浸水で沈没している。巡洋艦は戦艦に比べ排水量・予備浮力とも小さく絶対的防御力も低いため、被雷は少数でも致命傷になりやすく、場合によっては至近爆弾でも大きな浸水被害を受ける。そのため浸水を抑える対水雷防御と、被害を受けても航行能力を維持する生残性、傾斜を抑制する注排水機能などが特に重要である。また巡洋艦は被雷すると機関に大きな損傷を受け航行能力が低下し、敵の追撃を許して喪失に至る例が多かったため、耐水雷防御に関しては機関部も弾薬庫部と同等の防御とし行動力の低下を局限する。
横断面図(第6・7・8機関室部) 水線部装甲は35度傾斜しているため、10度以上の落角の砲弾に対しては45度以上の撃角となり、外板で被帽を失った砲弾は先端の鋭角部でぶつからず避弾経始が有効に機能する。
本級の舷側防御は独特の構造で、水線部は35度傾斜したNVNC甲鉄、水線下は垂直なDS材が共に船体外板内部に配置される。水線部と水線下を合わせて高雄級の湾曲型水雷防御鋼鉄に似た形状となる。厚さは機関部では水線部100〜65mm NVNC(テーパー)、水線下が60mm DS(30+30)、艦底部が30mm DSである。弾薬庫では水線部から水線下まで145〜65mm NVNC(35度傾斜)である。板厚自体は日本重巡で最も重防御の利根級と同じである。利根級も20cm砲弾に対して十分な耐弾防御と評価されているため、更に傾斜角を増加した本級の耐弾防御力も十分なものと考えられる。排水量が増加したのに装甲厚が変わらないのは、機関部全長が利根級以前より18mほど長くその分防御重量が嵩むためと、耐弾防御以上に水雷防御を強化するためである。
垂直装甲が外板に覆われたインターナルアーマーであることと、傾斜角が35度有ることが特徴である。砲弾の被帽は薄い外板を貫徹することでも破壊され弾体が露出する。弾体の頭部頂点は一般に45度前後の角度であるため、装甲への撃角が45度以上になると先端部の点で装甲に当るのではなく、頭部側面の肩部分の面で当ることになり貫徹力が大きく低下する。35度の傾斜装甲は砲弾の落角が10度以上なら撃角が45度以上となり防御力が高まる。
砲弾の侵徹距離に関しては利根級までの20°傾斜装甲は垂直装甲と比べ、落角0°の砲弾に対し6%、15°の砲弾に対し22%増加する。一方風不死級の35°傾斜装甲は落角0°の砲弾に対し22%、15°に対し55%増加する。利根級と同様、強度甲板である上甲板がある程度の水平防御を担当するのに合わせ、中甲板と上甲板間の舷側も25mmとやや厚めの外板とし、かつ約15度傾斜しているので若干の防御力を持つ。
水雷防御縦壁は最上級ではCNCだったものが利根級でDSになったのは、柔軟性による爆圧吸収、船体強度部材としての利用しやすさ(特に接続部で)等が理由と思われるが、風不死級でもそれに準じてDS材とする。大和級戦艦では、20度傾斜した上部装甲下端の支持構造に問題があり、魚雷の爆圧で装甲下端が内側に押し込まれる欠点があった。本級ではこの接続部背後のフレーム構造を工夫し、魚雷の爆圧を受け止めやすくする。35度から垂直への屈曲はDS板上端を曲げることで行い、角度の異なる甲鈑の突き合わせによる防御の弱点の発生を防ぐ。上部装甲の下端は内側を30mm座繰り、ここへ水雷防御壁の30mmDSの外側を当て、鋲によって両者を固定し爆圧で分離するのを防ぐ。
風不死級の設置方式は、高雄級重巡や大鳳級空母で採用された水線部装甲下端から湾曲防御縦壁を設置する方式と比べ、舷側へ被弾・被雷時に破壊されるバルジの容積が大きく浸水量が増加するように見える。しかし高雄級の方式であっても被弾時には水線部装甲の背後までほぼ確実に浸水するため、実質的な浸水量は大差なく、装甲・防御壁を爆発中心から遠ざけることにより防御力は強化される。
外板と水雷防御縦壁の間に形成されるインナーバルジ内に10mm厚の水密縦壁を設け、その外側は空所(急速注排水区画)、内側は重油タンクとする。重油タンクは爆圧の拡散(球面衝撃波の拡散屈折)・弾片減速による防御力強化と、防御縦壁の油漬防錆により長期的な防御力低下を防止する。元々バルジも水雷防御縦壁も薄く防御力の弱い巡洋艦にとって、この鋼板の追加による防御力向上は少なくない。機関部では 外板<注排水区画>水密縦壁<重油タンク>防御縦壁<重油タンク>水密隔壁 と4層構造である。防御縦壁の表裏を重油タンクで挟み、防錆効果により長期的な防御力低下抑止を狙うのも秋名級巡戦と同様である。バルジ外側の空間は全て急速注排水区画とし最大限の傾斜補正能力を確保する。水雷防御縦壁後段の防水壁は側方からの防御の最終段であり、水平装甲から艦底部まで16〜22mmとかなり厚めとし、破壊・浸水を極力この外部までに留める。
3軸推進に対応して機関室のほとんどを横に3分割し、かつ外舷機関室は幅が狭いため機関室浸水時の浸水量とそれに伴う横傾斜量も少ない。
水線下防御を利根級と比べた場合
1)船体外板から水雷防御縦壁までの距離が1.5→2mへ増加し、防御壁へ掛かる爆圧が低下。
2)インナーバルジ内に縦壁が加わり、船体外板・バルジ内縦壁・防御縦壁・水密縦壁の4層構造となり1層増える。
3)バルジ内で気体層(低音速)から液体層(高音速)への衝撃波伝播時に屈折により爆圧が低下。
4)防御縦壁が34mm(缶室)・45mm(機関室)から60mmへ増加。
などの改良により水雷防御における均衡炸薬量は約2倍近く大きいと推測される。湾曲防御縦壁44mmの大鳳が対300kg炸薬、50mmの改大鳳級が350kgであるため、本級も対350〜400kg相当の水雷防御力を持つと推測される。更にバルジ内空所および舷側側機関室二重底は全面的に急速注排水区画としたため傾斜補正能力も増加している。
舷側・水線下防御を米ボルティモア級と比べた場合
1)ボルティモア級は明確な水雷防御縦壁を持たず、複層構造のみであるため対水雷防御力が低い。
2)同じく、水中弾に対する防御力がほとんどない。
3)機関部の水線部装甲は150mm(傾斜なし)だが、弾薬庫は76mmしかない
このため本級とボルティモア級が砲撃戦を行なった場合、喫水線下の防御力に大差があるためボルティモア級は水中弾により機関部・弾薬庫に被害を受けやすい。機関損傷で機動力低下、悪くすると76 mmしかない弾薬庫装甲を撃ち抜かれ誘爆・沈没する危険を伴う。喫水線下防御に欠点を持つのはデ・モイン級はもちろん亜戦艦のアラスカ級にも共通する、米巡洋艦共通の弱点である。
4.2 甲板防御
水平防御は利根級と同様、強度甲板である上甲板を1層目とした実質的な2層防御となっている。上甲板が35〜40mmCNCの強度甲板兼防御板であり、また舷側も上甲板〜中甲板間は25mm DSで実質的な防御板である。機関室天井となる中甲板が水平部35mm CNC、舷側付近の斜め部が75mm CNCであり利根級の各31mm、65mmより若干増厚している。 弾薬庫の防御甲板は下甲板で、利根級と同等の56mmCNCである。
4.3 主砲塔防御
主砲塔に直接防御を施すことが従来の日本重巡と比べた特徴である。主砲塔は最上級までの5砲塔から4砲塔へ減少したため、重量的にはある程度の余裕が生まれる。一方戦闘で1砲塔を喪失した際の火力低下が相対的に大きい。しかも本級は魚雷兵装を持たないので主砲の重要性が高い。このため主砲塔への直接防御が必要となる。方針としては秋名級巡洋戦艦と同様、近距離での戦闘を重視し、被弾時に貫徹させないことのみならず、機能喪失しないことを重視する。ただし両用砲としての軽量化の要求はこれらと背反するため、完全防御は対6.1インチ砲とし、8インチ砲弾は貫徹を防げば機能喪失はやむなしとする。
防御要件は以下のとおり。
● 8インチ砲弾の命中に対して砲塔内の貫徹を防ぐ。
● 6.1インチ砲弾の命中に対しては砲塔の機能を失わず、継続射撃可能とする。
● 上記の防御力を、戦闘距離8,000〜18,000mの範囲、砲塔軸線から左右30度以内で実現する。
● 250kg爆弾の急降下爆撃に耐え、かつ爆炎侵入等で使用不能にならないこと。
● 砲塔の周囲面は垂直から5度以上傾斜させ、レーダー波の反射を抑制すること。
一方本級の主砲は両用砲で高い旋回速度を要求されるため、主砲塔は軽量化したい。このため装甲設置法に以下の工夫を行う。基本的には秋名級巡洋戦艦と類似した手法である。
● 連装の主砲は高角砲のように2砲身を連結して小型化し、砲塔・バーベット共に幅を1m小さくする。
● 砲塔前盾に被弾経始を積極的に取り入れ、近距離戦闘時に薄い装甲で最大の防御力を発揮させる。
● 砲塔前面装甲は2層構造とし、1層目の予備装甲で被帽破壊・弾速減少、2層目の本装甲で弾体の阻止を行う一種の空間装甲とする。
● 2重装甲は、大面積の外側を薄く、内側を厚くすることで重量と慣性モーメントを小さくする。
バーベットも6.1インチ砲の直撃を受けても砲塔が機能を維持できるよう、内外2層構造とした上、砲支塔との接続を無くし被弾衝撃を伝えづらくする。
4.4 舵取機室
舵取機室にバイタルパートと同等の直接防御を施すのは各国の巡洋艦と同様である。巡洋艦の喫水では舵取機室を喫水下に設置し海水を対砲弾防御に用いることは出来ない。また水雷防御力と水没耐性を高めるためからも喫水上に配置する。側面・後面の垂直防御は日本海軍で一般的な25度の傾斜装甲で、天井となる水平装甲との接続部は斜め装甲となる。装甲厚は弾薬庫と略同厚である。(そのため側方・後方の垂直防御を2層防御とし、1層目で被帽を破砕し、2層目は25度の傾斜装甲として被帽を失った弾体に対し被弾経始効果を発揮させる。)前方については航空機格納庫の存在によりスペースが無く垂直装甲であるため、ここは本級で最も厚い160mmNVNC装甲となっている。
舵取機室底部と艦底にもそれぞれ防御板を設置し水雷・至近弾防御を行う。また舵取機室内を横に3分割し、中央には補助動力と操作盤、左右に舵取機を配置し、それぞれ20mmの防御板で完全に分割し、一方の被害が反対舷の舵に及び難くする。左右の舵に物理的な締結は無く、それぞれが専用の舵取機で別個に操舵される。左右舵取機室はそれぞれ独立して、前方(格納庫)・後方・上方への脱出経路を設置し、浸水時の乗員脱出を計る。秋名級巡戦と同様、舵軸の接続解除機構を装備し、損傷して舵角を取ったまま舵が固着した場合は速やかに舵を自由転動可能にする。
舵取機室は水上機格納庫の後方に隣接しているため、格納庫火災時にその影響を受け難くする必要がある。格納庫後壁と舵取機室前壁間に空間を取り、火災時の熱害が舵取機室に及びにくくする。また舵取機室へ通じる電力線・信号線は格納庫の床下を、左右両舷に二重の系統で導く。格納庫床面は推進軸に対する防御として装甲化されており、この下を通る電力経路はかなり安全である。舵取機室への通風経路はなるべく後方・両舷から取り、火災時は吸気舷を風上側に切り替え煙・熱風を避けやすくする。被害時に電力供給が絶たれた場合に舵取機室だけで操舵が可能なよう、舵取機室中央に小型ディーゼル発電機を設置し、この動力と室内の操舵輪で応急操舵する。戦艦大和において同様の手法で緊急時に操舵を行なった実例がある。
4.5 機関配置
推進器の3軸化に由来する船体の横3分割構造が特徴である。機関部のほとんどは横に3分割され中央隔壁が無いため、片舷浸水時の横傾斜を局限する。ただし最前列の機関室のみ中央隔壁による横2分割構造となっている。中央軸の機関室は全て舷側から離れた位置にあるため被害を受けにくく、生残性向上に貢献する。本級以外の巡洋艦は米海軍も含め、全ての機関室・缶室が左右舷のどちらかまたは両方に接しているため、被弾や被雷で浸水する可能性が高い。
一軸当り5〜6基のディーゼル主機が接続され、これらが前後3ないし4区画に配置された多重シフト配置である。そのため1発の被弾ではどの軸も主機械全滅は起こり難く、推進力の喪失は少ない。また機関室が水没・停止した場合、減速機内のフルカン接手を解除してその機関を推進軸から分離する必要がある。そのため減速機自体が水没しても、遠隔操作により接続解除可能な制御系統を設け機関系の冗長性を確保する。機関室内の管制室は被害時に水没してしまうため、この管制は防御された系統を使って発令所から実施する。
機関が蒸気タービンではないため、被弾時に高温高圧の蒸気・熱水による水蒸気爆発の危険が無く、乗員への危険性および他機関室への被害拡大が少なく生残性が高い。また蒸気タービンのように大量の真水を必要としないため、被害に伴う真水タンク・蒸留装置の破壊による機関運転不能は生じない。
横3分割構造、三重・四重のシフト配置、ディーゼル主機採用の3点から、本級の機関系の冗長性・間接防御力はそれ以前の日本重巡より大幅に高まっている。航行力低下により喪失する危険性の大きい巡洋艦において、生残性は大きく向上する。
機関区画配置 前方1・2番機関室のみ中央隔壁を持つが、3番以降は横に3分割され中央隔壁を持たず片舷浸水の横傾斜を軽減する。中央軸の3・6・9番機関室は舷側に接しないため水雷防御上有利。中央軸は前後3機関室に、外舷軸は4機関室に分散されるため、1軸が完全に動力を失う可能性は低く、生残性を向上させる。
4.6 間接防御
4.6.1 注排水・燃料移動装置
浸水時の傾斜を軽減するための急速注排水区画を、舷側バルジの燃料タンク以外のほぼ全てに備える。また船底の二重底内の舷側近くも可能な限り急速注排水区画とする。また舷側寄りにある燃料タンクは全て反対舷への急速移送経路を持ち、反対舷への急速な移動を可能にする。片舷浸水を生じた場合、まず反対舷に急速注水を行い、次に燃料の反対舷への移送、次に燃料の前後方向への移送でトリムを調整し、燃料移動で補正した分は急速排水により浮力を回復する。これらにより傾斜の補正能力を確保する。
4.6.2 人的被害の防止
構想した秋名級巡戦・松茸級駆逐艦と同様、攻撃を受けた際に艦上の人員の死傷を極力防止し、また被害区画からの脱出を容易ならしめる対策を入念に行う。人命喪失防止のみならず、それによるダメージコントロール力の確保、死傷した人員の補充・訓練の負担増極限なども狙う。詳細は上記架空艦の当該項を参照のこと。
4.6.3 水雷兵装の廃止
自爆装置である魚雷兵装を廃止したことは巡洋艦としての防御力を大きく向上させる。巡洋艦は駆逐艦よりはるかに大型で有力な高価値艦であり、航空攻撃の際に標的に選ばれやすい。被爆や火災発生時に少なからぬ日本重巡が魚雷の誘爆を起こしており、三隈のように魚雷投棄を試みるも失敗し最終的に誘爆した例もある。
5. 機関・航海
5.1 主要目
速力 :34.5 kts
主機 :全ディーゼル
軸数 :3
最大出力 :120,000 shp
中央軸 :45,000 shp(7,500 shp × 6基)
左右軸 :37,500 shp(7,500 shp × 5基)
主機型式:艦本式15号10型内火機械(架空) 16基
補機型式:多燃料型艦本式22号改内火機械(架空)
減速機
3主機結合22,500 shp:4台(秋名級巡洋戦艦と同型式)
2主機結合15,000 shp:2台
航続距離 :13,000nm / 18kts (重油のみ満載 or 重油減載+予備軽油満載)
15,000nm / 18kts (重油満載+予備軽油満載時)
重油積載量:3,000t(利根級と同等)
軽油・灯油積載量:450t(予備、補機駆動用)
舵:2枚(半平衡舵、外舷軸後方)
主機として「架空スペック15号内火機械」を用いること、「3軸推進」であること、補機に「多燃料機関」を採用することなど、全般に秋名級巡洋戦艦に準ずる。ただし巡洋艦の狭い艦幅に16基の主機を納めるため、機関配置は大幅に異なる。機関部は全ディーゼル3軸推進であるため通常で13,000 nm/18ktsという長大な航続力を、利根級と同量の燃料で実現する。ディーゼルは容積・重量当りの出力がタービンより低いため最大速力は34.0 ktsとなるが、これは推進方式や球状艦首などにより出力の割には高い値である。推進器は3軸のため若干大直径であり、推進軸は3軸とも首尾線に平行であり推進効率を高めるだけでなく建造性を向上させる。ボイラーを持たないため発電機も全てディーゼルであり、これとブロア用補機ディーゼルは3燃料機関を採用し、戦時に余剰となり易い軽油・灯油を利用可能とする。
5.2 速 力
速力について、航空機が海戦の主力となった状況下では水上艦の2〜3ノット程度の優劣は戦術面で余り意味を持たないことから、数値上の最高速には執着しない。高速力は水雷戦隊の旗艦・嚮導艦として雷撃の射点に占位するためには重要であるが,本級は魚雷兵装を持たず雷撃を重視しないため必要性が低い。事実秋月級駆逐艦は33ノットと低速でありながら用兵者から高い評価を得ており、米重巡も同等の速度で問題は指摘されていない。航続力・燃料経済性・兵站補給性を優先して全ディーゼル推進とした分、最高出力は最上級・利根級までの日本重巡より32,000 shp低下し、速力も1 ktsの低下となった(推進方式、船形の工夫が無ければ1.5〜2 kts低下する)。
5.3 航続力・燃費・巡航速度・省資源
広大な太平洋で有効に活動するには長い航続力が必要となることから、18 ktsで13,000 nmという、利根級重巡の1.5倍超、最上級重巡の2倍に達する航続距離を持ち、秋名級巡洋戦艦と同航が可能である。航続力の余裕は高い巡航速度を維持可能なことも意味し、実際の戦場では最高速度よりも巡航速度(進撃速度、滞在時間)が重要であることから、重要な戦術的利点となる。これは油槽船を伴わない作戦中、潜水艦の脅威のある海域を高速を維持したまま通過出来るなど、生残性にも影響する。捷一号作戦において第2艦隊は米潜水艦の潜むパラワン水道を航続力の懸念から18 ktsで進撃、結果として愛宕・高雄・摩耶の3隻を一挙に撃沈された。この戦闘所見として米潜水艦の攻撃を避けるには20kts以上の速度が必要と判断された<原勝洋、高雄型重巡、学研>。他艦の航続力を度外視し巡洋艦のみの航続力を考慮した場合、風不死級は18 ktsの高雄級と同量の消費燃料で24 ktsを発揮可能である。
ディーゼルエンジンの低燃費性を生かし、13,000nm/18ktsの航続力に要する燃料はタービン艦より大幅に少なく、8,000nm/18ktsの利根級と同等である。この低燃費性により燃料コストや燃料輸送・補給の負担も軽減される。現実問題として大戦後半の日本では燃料不足から艦艇の行動が制限を受けたので、そうした状況で省燃費の本級は有用である。平常時の航海であれば、両舷軸は空転させ推進効率の高い中央軸のみで推進することで更に燃費を節約することも可能である。また主機の予熱装置により停止中の主機を短時間で暖機終了させられるため、戦闘航海中であっても主機の減数運転を行い易く、燃料節約で有利である。更に補機は多燃料機関であり、戦時には余剰となる軽油・灯油を予備燃料として使用可能である。
5.4 主機械
機関として架空スペック艦本式15号内火機械(うちびきかい)を用いる点も秋名級巡戦と同様である。ただし秋名級では全主機が2型(12気筒、9,000 shp)であるが、本級は機関部全長を減らすため10型(10気筒、7,500 shp)を採用し機関室長を8 m短縮している。主機は2ストローク機関であるため、1基毎に艦本式22号5型内火機械駆動のターボブロア1台が装備される。詳細は秋名級巡洋戦艦を参照。
機関は10型を16基装備し、中央軸が6基で45,000 shp、両舷軸は5基で37,500 shpとなる。合計出力は120,000 shpと最上級・利根級より32,000 shp低い。(しかし3軸推進による推進効率の向上により有効馬力減少は6,000 ehp程度(軸馬力で約12,000 shp相当)であり、)更に艦首をバルバスバウとして利根級以前より抵抗を減らす。ただし艦形、特に全幅が若干大きいため艦速は若干低下し34 ktsである。一方ほぼ同大・同出力の米ボルティモア級重巡に対し球状艦首や3軸推進により速力は1 kt高い。
5.5 機関配置
3軸推進は秋名級巡戦に準じ、その推進上のメリットも同様である。
機関配置としては、巡洋戦艦は横に6基の機関を配置可能だが重巡洋艦の艦幅では4基しか配置できないため、横4列・縦4段の16基の機関で3軸を駆動するいささかトリッキーな機関室配置となる(図)。それでも利根級以前に比べ若干艦幅を大きくする必要がある。16基の機関を3軸に振り分け、かつ機関区画長を抑え、減速機をなるべく共通の構成とする機関配置には苦心した。機関3基と減速機1基のセットを4組、機関2基のセットを2組で、これを11の機関室に配分する。秋名級巡洋戦艦では減速機を独立した区画に配置したが、巡洋艦の風不死級では機関前後長の制約が大きいため主機と同一の区画に配置する。またスペースに若干余裕のある1・2・4・5・10・11番機関室はディーゼル発電機も配置する。
ディーゼル主機を前後4段に並べた結果機関区画長は長くなり、この点からも主砲塔4基に抑える必要が生じる。機関全長は約10m、各機関毎に掃気ブロア(小型ディーゼル機関駆動)、減速ギアの長さが加わり、機関部の長さは88mと利根級までの艦より13m増になる。これでも機関室1室の長さは同寸法の主機の日新より切り詰めてある。主機を全て12気筒の2型にすると最大出力144,000 shp、速力35.5ktsを発揮可能だが、機関区画長・全長も約10m増加、排水量も1,000トン以上増加する。
機関区画配置
合計16基の主機を前後4段、左右4列に11室に配置する。左舷軸の機関を赤、中央軸を黄、右舷軸を緑で表す。中央軸は艦本式15号10型ディーゼルを6基45,000shp、外舷軸は5基37,500shp。減速機は秋名級巡洋戦艦と同型の3入力型を4基、本級専用の2入力型を2基使用する。推進軸は3軸とも首尾線に平行かつ水平、同高さで建造性を高めている。
なお機関室番号は、1)前方が後方より先、2)内側が外側より先、3)右舷が左舷より先、4)内外が左右より優先 の原則に従う。
本級のように横3列の機関室は左舷から 3番=1番=2番
大和級のように横4列の場合は 4番=2番=1番=3番 となる。
5.6 機関接続法
減速機は推進軸1つに付き2基、合計6基を使用する。内4基は3台を結合し計22,500 shp、残り2基は2台の結合で15,000 shpを出力する。3台結合用の減速機は秋名級巡洋戦艦と同型で、製造コストを低減する。各機関室には浸水検知装置を取り付け、浸水した機関室の主機は減速機から自動的に接続解除される機能を持ち、浸水・停止した機関が推進器に制動を掛けないようにする。
減速機によって1軸当り5〜6基の主機を接続し、フルカン継手により動力の断続が可能であるため巡行時の減数運転が行いやすい。蒸気タービンであれば1軸に1基のタービンのため減数運転するにはタービンを停止した軸はプロペラを空転させるため、不要な抵抗を生じるほか空転中の推進器の水流が無いため舵効が低下して緊急時の回避能力が低下する。第1次ソロモン海戦において重巡加古は16ノット航行中に潜水艦S-44から雷撃され、巡航タービンによる外舷2軸運転だったため水流は1枚舵に当らず効きが悪く、回避できずに沈没に至っている。本級は低速航行中でも全軸を運転したまま一部機関を停止できるため、推進効率の低下は起きず、外舷軸後方にある左右の舵とも水流により舵効を確保できる。
5.7 機関予熱装置
同一機関室内に設置された2基の主機関(1・2・3・6・9番機関室)は、冷却水・潤滑油を相互循環させる機能がある。このため一方の主機を停止中でも他方の主機から冷却水・潤滑油である程度予熱されているため、停止状態から短時間の暖機で運転が可能となる。このため巡行時はペア片方の主機を停止して燃費を向上させつつ、不意に会敵した場合は短時間で全主機を起動して戦闘速力を発揮可能となる。この方式は秋名級巡洋戦艦でも用いている。
5.8 補機駆動機関の多燃料化
秋名級巡洋戦艦と同様、補機に多燃料機関を採用し、戦時において余剰となる軽油・灯油を発電機・ブロア駆動に用いて重油を節約可能とする。22号内火機械を燃料噴射弁の調整で軽油・灯油でも運転可能にした22号改内火機械を採用する。代替燃料の最大積載量は重油の15%とし、代替油搭載時はその分重油を減載するが、過積載状態として重油も満載すればその分航続距離の延伸も可能である。風不死級の場合、重油単味の定格(重油3,000T)もしくは重油・軽油の定格積載状態(重油2,550T+軽油450T)で航続距離は13,000nm、軽油・重油とも満載の過積載(重油3,000T+軽油450T)では15,000nmである。
5.9 舵
舵は2枚舵としアスペクト比を大きくとりつつ面積を確保、更にそれぞれを外舷推進器の延長上に置き効きを確保する。2枚舵の艦でも最上級をはじめとして通常は推進器の中間に置かれることが多い。また左右になるべく間隔を取り、同時に2枚が損傷する危険性を減らす。設置位置は舵取機室を格納庫の後方にする必要上、艦尾ギリギリである。
構造は半釣合舵とし上下長を取り易くすると共に、2枚を逆V字に配置して舵取り時にアンチローリング・モーメントを発生させる。最上級の舵は下端が推進器中央あたりであるが、本級はより上下長を長く取り舵効を確保する。装備位置が左右逆回転する外舷軸後方のため、中央軸(回転方向非対称)による左右の舵効差は小さく、操艦性能は比較的素直と推測される。舵取機室の配置上推進機からかなり後方にあるため、後流の回転吸収用の舵面捻りは設けず、左右舵とも同一構造とする。
5.10 発電機
秋名級巡洋戦艦と同様、全ディーゼル主機であるため水圧発生用蒸気ターボポンプが使用できないため、主砲を含め全ての動力は電力による。そのため発電機の力量は6000kWと大和級戦艦を上回り、全てを22号改5型内火機械により発電する。1機当り600 kWの発電機を合計10機搭載し、1・2・4・5・10・11番機関室に各1機のほか、前後弾薬庫の両舷に各1機ずつ配置する。加えて舵取機室には非常用発電機(22号改3型内火機械・350kW)を設置する。
5.11 居住施設
本級で問題となるのは、艦内に水上機格納庫を設置した結果不足する居住スペースである。通常は兵員室に充てられる艦尾スペースが、2甲板分長さ24mに渡り格納庫となり居住スペースが大幅に圧迫される。艦尾格納庫を持つ米巡洋艦は船体の甲板数が日本重巡より1段多くスペースも大きいが、本級は重量・復原性の観点から従来の日本重巡と同じ甲板数であり、他の方法で補償する必要がある。
まず比較的広い艦幅により床面積を広くとる。更に喫水線上にフレアーのある船形により、上方の甲板はさらに幅が広くなる。また雷装を持たないためその節約スペースの一部を居住区画に充てられる。艦央部に水上機運用スペースがないため、2番主砲塔から3番主砲塔までの高角砲甲板の上に、1番高角砲から3番主砲塔までの全長さに第2高角砲甲板を設けスペースを確保する。更にディーゼル推進の恩恵として、煙路・吸気路の容積が小さいためスペースの節約が可能となる。
これら船体と上部構造の拡大により必要なスペースを確保し、最上級以前の重巡に劣らない居住性を持たせる。ただし利根級重巡のように、騒音源・震動源・熱源・各種装置から離れピッチングの影響も小さい艦尾付近に広い居住区を設置できる訳ではないので、それに比べると居住性が低下するのはやむを得ない。
巡洋艦の排水量では居住区画への冷房設備は不可能であるが、冷静な判断力が必要とされる部署、発令所・電探室・聴音機探信儀室などには冷房を行う。また通風設備の力量は当初から南洋での行動を想定したものとし余裕を持たせる。
6. 改風不死級(戦時急造型)
太平洋戦争中盤、空母の喪失により建造中の大型艦が空母へ改造され、利根級までの各重巡洋艦も大規模修理時には空母へと改装されることとなる。一方で強力な防空能力と航続力を持つ風不死級は敵航空優勢下の作戦で重宝する。戦艦級は戦時急造は不可能でありかつ空母の建造が優先される中、水上部隊の主力となりうる有力かつ短期建造に向く大型艦として、風不死級重巡は追加急造が要求されるはずである。
風不死級はもともと量産性に配慮し、船殻建造に要する工事量は最上級重巡の半分程度に過ぎない。一方で兵装及び機関については複雑精巧なものが多く、その点は量産に適しない。そのため戦時急造に適するごとく諸装備を交換・簡略化し、加えて船体もより簡易化して極力量産性を上げるよう設計変更した戦時急造型が「改風不死級」である。
6.1 主要目
基準排水量:15,500 t(+700t)
全長・全幅:同じ
主 砲:同じ
高角砲:12.7cm40口径砲20門(連装×10基)
対水上用電探:33号(光学照準・電探測距 → 電探照準・電探測距)
対空用電探 :42号(光学照準・電探測距 → 電探照準・電探測距)
最大速力:33.0 kt(-1.0 kt)
最大出力:109,000 shp (-11,000 shp)
主機型式:艦本式蒸気タービン 2基(45,000 shp)
艦本式15号10型内火機械 6基(45,000 shp)
艦本式22号10型改内火機械6基(19,000 shp)
航続距離:11,000 nm / 18 kt (-2,000 nm)
6.2 機関変更
改風不死級の最大の変更点は機関である。元の主機は複雑な複動型ディーゼルであるため十分な数の製造が困難であり、既存の設備で量産しやすい蒸気タービンとの併用とする。被弾しやすい両舷軸は爆発性のないディーゼルのままとし、中央軸のみ蒸気タービンに交換する。缶・タービン共に量産性に優れた低規格仕様とするため、戦艦大和級と同じ構成を1軸分そのまま使用する。すなわち蒸気条件325℃ 25気圧の低圧缶3基と、中圧タービン・巡航タービン共持たない駆逐艦用小型2段膨張タービンの2基連結である。大和級では信頼性のために減格して37,500 shpで使用したが、本級は巡洋艦であるため同じ構成で45,000 shpとする。
更に外舷軸も最前部の1・2番機械室は15号内火機械2基(+ブロア用22号改5型2基)に替えて松茸級駆逐艦と同様22号改10型4基とする。ディーゼル主機が2種類に増えるように見えるが、実際には2ストロークの15号機械には常にブロア駆動用22号内火機械が併設されている。したがって1・2番機械室の配置は元々の15号×2基+22号×2基が22号×4基に置き換わる。従って整備や補修部品などの運用面での煩雑化はほとんど生じない。
風不死級で16基搭載された15号内火機械は6基のみとなり、代わりに缶3基と高低圧蒸気タービン2基、22号改内火機械8基を追加搭載する。
主機の変更にともない、中央軸は同出力だが両舷軸で計11,000 shpの出力低下により合計出力109,000 shpとなり、最大速度は1kts低下の33.0 ktsとなる。日本重巡としては遅いが米ボルティモア級とは同等である。タービンとしたことで燃費が悪化し、航続力は元々の13,000 nm/18 ktsに対し通常運転では11,000 nm/18ktsまで減少する。しかし航海の大半を占める巡航中は両舷軸のディーゼルで航行し中央軸は空転させれば、実質的な航続力は風不死級とあまり変わらない。ボイラーからの排煙のため、煙突を含むマックは大型化される。
6.3 兵装変更
6.3.1 射撃用電探の強化
竣工時の風不死級は光学照準と22号電探を組み合わせた対水上照準装置、13号電探を組み合わせた対空照準装置を使用していた。戦争の進行に伴い、鹵獲した米軍のレーダーを元に日本でも対水上射撃用33号電探、対空射撃用42号電探が開発された(引用:)。これら新型の射撃用電探は開発に伴い風不死級をはじめとした各艦に換装するが、改風不死級では当初からこれらの射撃用電探を用いた対水上・対空射撃装置を装備する。これにより照準精度が向上するほか、光学式が使えない条件でも対水上・対空共に電探のみでの射撃が可能となる。
6.3.2 簡略化
主砲は特に変更はない。高仰角・自由装填・高発射速度・高旋回速度、加えて全電動の8インチ両用砲塔は製造性が低いが、本級の根幹となる兵装でもありそのままとする。ただし状況によっては砲身を55口径3号砲から、空母化された巡洋艦から下ろした50口径2号砲の再利用に変更する可能性はある。
異なるのは高角砲で、98式長10cm砲は量産性が低いため89式12.7cm砲に換装する。砲の能力自体は10cm砲に劣るが、防空能力で最重要な射撃管制は上記新型射撃用電探の採用と3次元計算の射撃盤を踏襲するため、改良前の風不死級以上の対空能力を持つ。また電動機出力を増強し旋回速度を向上させた松型駆逐艦と同仕様とする。高角砲の換装に伴い、98式10cm砲用の予備砲身と交換設備は搭載しない。
12.7cm高角砲は通常前盾のみしか装備しないが、本級では砲員保護のため平面主体の砲塔形状の弾片防御用覆いを装備する。この防盾は前面25 mm、上・側面15 mmとある程度の防御力を付与し、形勢不利となっていく戦闘で死傷者を局限する。戦争では人的資源の消耗・枯渇も大きな問題であり、訓練と経験を積んだ乗員を如何に存命させるかは継戦能力に大きな意味を持つ。特に戦争終盤に単艦のみで行動し損傷した艦への航空攻撃は虐殺の様相を呈し、甲板上に配置された乗員の死に様は悲惨な状況であった。同様に35 mm長機銃・25 mm短機銃とも防盾・遮蔽板の大型化・厚板化を実施し、乗員の死傷防止を図る。
6.4 船体変更
船体はより簡易形状とし量産性を上げるが、元々量産性を考慮し直線的な簡易形状、ブロック工法の採用を行なっているため形状変化は小さい。艦首喫水線上の形状が直線的になり、平面形が曲面だったものが中央が平面となり、両舷にナックル状の角を持って繋がる点が異なる。高角砲甲板以上の電波反射を考慮した傾斜を廃止して垂直な形状とする。元々キャンバーは曲面でなく中央が水平、両側が斜めの平板だったが、キャンバーをなくし完全に水平とする。これに伴い船体深さは200 mm減少する。最も大きな変更は材質であり、DS鋼のような高価な特殊鋼をなるべく安価・省資源のHT鋼・軟鋼などで代替し、不足する強度は板厚の増加で対処する。それにより重量が増加するが、一方でHT鋼・軟鋼は溶接が容易なため鋲接に替わり電気溶接を大幅に取り入れ重量増をなるべく抑える。またこれによりブロック工法がより積極的に導入可能となり更に建造性を高める。基準排水量は前期型の14,800 tから15,500 tへ増加する。
これらの改良により建造性を高め、基本の風不死級で起工から就役まで約30箇月だった建造期間(日本海軍の平均的な巡洋艦は40〜50箇月)を、第1期建造艦で18箇月、その後の建造艦で12箇月まで短縮する。1942年末に建造を開始することで1944年中盤までに4隻の就役を可能とする。秋名級・風不死級をはじめとした艦、それを実現する技術が実在したなら海戦における劣勢は史実より小さく、終戦は1946年以降にずれ込むと考えられる(もちろん敗戦は免れない)。
あとがき
1.2 巡洋艦とはどんな船かで考えた巡洋艦論のきっかけには、2001年頃に2ちゃんねる上に有ったスレッドの議論がありました(私が目を通したのは2016年)。そのスレッドは「最強の砲戦型巡洋艦」の仕様を構想していくものでした。しかし「最強の巡洋艦」という概念は「最大の中型車」「最高級の中級品」のような自己矛盾を含む概念です。果たしてそのスレッドでは、デ・モイン級を凌駕すべく30cm砲を積んだ2万トン台の亜戦艦を造って巡洋艦だと言い張るべしという意見と、そんな艦は巡洋艦ではないという意見が対立して紛糾していました(ちなみに30cm砲搭載25,000トンの艦を「巡洋艦」と見做せるなら、自動的に日本海軍に46cm砲搭載65,000トン巡洋艦、米海軍に40cm砲搭載45,000トン巡洋艦が存在し、その時点で最強ではなくなります)。
出発点を間違えると以後の議論全てが見当外れになってしまう典型とも言える議論で、スレッドの題目を「最有用な砲戦型巡洋艦」とし、加えて排水量制限をしていれば、何をもって有用とするかを含め有意義な議論になっていたのではと想像します。現実の建艦では建造費・排水量などの制約下でいかに有用な艦を造れるかが技術的挑戦であり、制約無しに架空艦を構想すると排水量や武装のインフレーションが起き(金田中佐の五〇万トン戦艦)、収拾が付かなくなります。
2016年8月16日:執筆開始