2.会  敵

ドイツ艦隊がイギリス東の現在地から,イギリス西側の大西洋へ進出する途中にはイギリス本国が立ちはだかる。哨戒を避けて大西洋へ侵入するため,リュッチェンス大将はイギリスのはるか北を迂回してアイスランド北を通過し,アイスランド−グリーンランド間のデンマーク海峡から大西洋へ南下するコースを選択した。28ノットの高速でイギリス北方を迂回したドイツ機動部隊は,23日夜に濃霧のたちこめるデンマーク海峡に入った。しかし折から警戒中のイギリス巡洋艦サフォークのレーダーに発見されてしまう。ビスマルク発見の報を受けて,アイスランド南方を警戒中のイギリスの巡洋戦艦フッド戦艦プリンス・オブ・ウェールズが迎撃に急行する。

5月24日0500時過ぎ,プリンツ・オイゲンの水中聴音器が左舷に2隻の高速タービン船のスクリュー音を捕捉(※1),0545時に水平線上の左舷正横にイギリス戦艦2隻のマストを視認する。英独両艦隊は28ノットで並進しながら急速に接近する。0553時,距離2万m以下になったとき,イギリス艦隊の巡洋戦艦フッドが砲撃を開始した。


※1  28ktもの速度では聴音器の感度は極度に低下する。にも関わらず目視より遠距離(20nm前後?)でスクリュー音を補足したということは,スクリュー音(キャビテーションノイズ)がいかに凄まじいかの証拠になる。

「スチームハンマー」をご存じだろうか。旧式な蒸気暖房の場合,蒸気を流し始めたとき配管から「ガツーン!」と大きな衝撃音がする。初めて聞いた人は,地下の配管工事でハンマーを打っているのかと疑うほどの大きな音である(金属の熱膨張による音だと勘違いしている人も多い)。これは冷たいパイプに接触した蒸気が一気に凝縮して真空が生まれ,周囲から殺到した蒸気がパイプ内面を打つことによって生じる,一種のキャビテーションノイズである。

高速回転するプロペラの表面(前側)では低圧のため海水が蒸発して気泡が生じ,これが潰れて海水がプロペラ表面を叩くという状態が生じる。つまりプロペラという金属塊を,何十個ものハンマーで乱打しているような状態となり,その騒音の凄まじさは想像に難くない(実際金属が削れて表面が浸食される)。現代の軍用艦がプロペラを制震鋼板で作り静粛化を図るのはこのためである。

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参考資料
1) 

更新履歴
Ver.1 :不明
Ver.2 :99.11.01:項目分割
Ver.2.1:99.11.17:脚注追加